2025年04月08日

良好な景況感が継続。先行きも楽観的な見方が強まる。-第21回不動産市況アンケート結果

基礎研REPORT(冊子版)4月号[vol.337]

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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ニッセイ基礎研究所では、不動産市況の現状および今後の方向性を把握すべく、不動産分野の実務家・専門家を対象に「不動産市況アンケート」(第21回)を実施した(回答者数117名、回収率58.5%)。

1―不動産投資市場の景況感

1│現在の景況感
「不動産投資市場全体(物件売買、新規開発、ファンド組成)の現在の景況感」について質問したところ、プラスの回答(「良い」と「やや良い」の合計)が約7割、「平常・普通」が2割強、マイナスの回答(「悪い」と「やや悪い」の合計)が1割弱となった[図表1]。前回調査(2024年初)からプラスの回答が大きく増加し、5年ぶりに7割以上を占める結果となった。
[図表1]不動産投資市場の現在の景況感
2│6ヵ月後の景況見通し
6ヵ月後の景況見通しは、「変わらない」との回答が7割弱、好転との回答(「良くなる」と「やや良くなる」の合計)が約2割、悪化との回答(「悪くなる」と「やや悪くなる」の合計)が1割半ばを占めた[図表2]。
[図表2]不動産投資市場の6か月後の景況見通し
この結果、「景況見通しDI*1」は、+4.3%と3年ぶりにプラスに転じ、楽観的な見方がやや強まった[図表3]。
[図表3]「景況見通しDI」(6ヶ月後)
 
*1 「景況見通しDI」の算出式;( 「やや良くなる」+「良くなる」)ー(「やや悪くなる」+ 「悪くなる」)[単位は回答割合(%)]

2―投資セクター選好

1│概況
「今後、価格上昇や市場拡大が期待できる投資セクター(証券化商品含む)」について質問したところ、「ホテル」(73%)との回答が最も多く、次いで「産業関連施設(データセンターなど)」(61%)、「賃貸マンション」(35%)との回答が多かった[図表4]。上位3セクターは順位を含めて前回調査から変化はなかった。

「ホテル」に関して、アフターコロナにおける行動制限解除などを受けて、宿泊需要が急速に回復している。日本政府観光局によると、2024年の訪日外客数は約3,700万人(2019年比+15.6%)と過去最高を更新し、ホテルへの関心が高まっている。

また、「産業関連施設」に含まれるデータセンターは、各種クラウドやAI、動画等のコンテンツ配信等を支える社会インフラとしての重要度が増している。IDC Japanの調査によれば、国内データセンターサービスの市場規模(2023年)は約2.7兆円で、2028年には5兆円に達する見通しである。こうした需要拡大を背景に、デベロッパー等によるデータセンター開発が活発になっている。
[図表4]今後、価格上昇や市場拡大が期待できる投資セクター(全アk調査との比較)
2│前回調査との比較
[期待が高まった(後退した)投資セクター]
前回調査から回答割合が10%以上増加した投資セクター(期待が高まった投資セクター)は、「オフィスビル」(14%→30%)であった[図表4]。東京のオフィス市況は、コロナ禍による落ち込みから順調に回復しており、投資家の期待が高まっていると考えられる。

一方、前回調査から回答割合が10%以上減少した投資セクター( 期待が後退した投資セクター)は、「物流施設」(23%→12%)であった。EC事業者を中心にテナント需要は底堅いものの、高水準の新規供給が継続するなか新築物件のリーシングが鈍化しており、投資家の期待が後退する結果となった。

3―投資エリア選好

「今後、価格上昇や市場拡大が期待できる投資エリア」について質問したところ、「東京都心5区(千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区)」(73%)との回答が最も多く、次いで「福岡市」(13%)、「大阪市」(9%)、「東京都区部(都心5区を除く)」(9%)との回答が多かった[図表5]。
[図表5]今後、価格上昇や市場拡大が期待できる投資エリア(回答は1つ)
ニッセイ基礎研究所と価値総合研究所の調査によれば、日本の「収益不動産(約315.1兆円)」の約4割が東京都に集積している*2。市場規模の観点から投資エリアとして、東京都心部の優位性は高く、「都心5区」との回答は前回調査の59%から73%に増加した。

また、地方都市では唯一、「大阪市」の回答が前回調査から増加した。大阪市では、梅田駅や淀屋橋駅を中心に複数の大規模開発計画が進行し都市機能の更新が進んでいることから、期待が高まっているものと考えられる。
 
*2 吉田資・室 剛朗・藤野 玲於奈・宮野 慎也『わが国の不動産投資市場規模(2024年)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2024年12月27日)

4―不動産投資市場のリスク要因

1│概況
「不動産投資市場への影響が懸念されるリスク」について質問したところ、「国内金利」(71%)との回答が最も多く、次いで、「建築コスト」(62%)、「米国・政治」(44%)との回答が多かった[図表6]。

「国内金利」に関して、日本銀行は今年1月の金融政策決定会合で政策金利を0.50%に引き上げた。引き続き段階的な利上げが想定されるなか、これまで低下基調にあった不動産キャップレートが反転に向かう可能性もあり、金利上昇への警戒が高まっている。

「建築コスト」に関して、資材価格や労務費などの上昇が継続するなか、新規開発計画の見直しや竣工時期の延期が増加しており、建築コストの上昇リスクが強く意識されているようだ。
[図表6]不動産投資市場のリスク要因(前回調査との比較)
2│前回調査との比較
[懸念が高まった(後退した)リスク要因]
前回調査から回答割合が10%以上増加したリスク要因は、「米国政治・外交」(22%→44%)と「国内金利」(59%→71%)であった。一方、前回調査から回答割合が10%以上減少したリスク要因は、「中国経済」(21%→6%)と「欧米経済」27%→16%)であった[図表6]。

「米国政治・外交」に関して、2025年1月に始動したトランプ政権の政策が世界の経済・金融政策の不確実性を高める最大の要因*3との見方もあり、不動産投資市場のリスク要因と考える回答が増たと推察される。「中国経済」に関して、中国経済は依然不安定な状況にあるものの、2024年の実質GDP成長率が前年比+5.0%と成長率目標を達成しており、リスク要因として懸念が後退したものと推察される。
 
*3 伊藤 さゆり『トランプ2.0とEU-促されるのはEUの分裂か結束か?-』(ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート、2025年1月17日)

5―不動産価格のピーク時期

「東京の不動産価格のピーク時期」について、「2025年」(31%)との回答が最も多く、次いで、「2024年あるいは現時点(既に価格はピーク)」(27%)、「2026年」(21%)との回答が多かった[図表7]。
[図表7]東京の不動産価格のピーク時期
前回調査では、「2023年あるいは現時点(既に価格はピーク)」(35%)との回答が最も多く、次いで「2024年」(30%)が多かった。

日経不動産マーケット情報によると、2024年の不動産取引額は前年比+36%増加の4兆8,439億円となり、金融危機後では最大となった。不動産投資市場が堅調に推移するなか、不動産価格のピーク時期に対する見解は前回調査と比べてやや後ろ倒ししたものと考えられる。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年04月08日「基礎研マンスリー」)

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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