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大学の不動産戦略(2)~資産運用と不動産投資の現状について~

金融研究部 主任研究員 吉田 資
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1. はじめに
前回のレポート2は、本調査結果の一部を紹介し、大学の保有施設とキャンパスの整備方針について概観した。
大学では、少子化の進行に伴い、授業料収入に偏らない財源の多様化が喫緊の課題となっており、資産運用収入の拡大に大きな期待が寄せられている。そこで、本稿では、大学の資産運用や、不動産投資(保有不動産の賃貸経営等)の現況を概観した上で、大学が不動産市場に与える影響について考察する。
1 ・アンケート送付数;日本国内の国公立大学および私立大学 817校 [国公立大学194校・私立大学623校]
・回答数;107校(回収率:13%)[国公立大学30校・私立大学77校]
「野村不動産ソリューションズ 法人営業本部 CRE 情報部 ニッセイ基礎研究所と共同で大学の不動産戦略におけるアンケートを実施」
2 吉田資『大学の不動産戦略(1) ~保有施設とキャンパスの整備方針について~』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2023 年1月18日
2. 大学の収益構成
また、文部科学省「国立大学法人等の決算について」によれば、国立大学の経常収益構成は、「付属病院収益」(37%)が最も大きく、次いで「運営費交付金収益」(31%)、「学生納付金収益」(11%)となっている(図表-2)。医学部がある大学に限られる「付属病院収益」を除くと、国からの補助金である「運営費交付金」と授業料(学生納付金)が大きな割合を占めている。
文部科学省「大学への進学者数の将来推計について」によれば、大学進学者は2017年の63万人から2040年には51万人(対2017年比▲19%)へと減少する見通しであり、今後、授業料等の収入が減少し大学運営における財政課題が顕在化する可能性がある。
また、国立大学における2020年度の「運営費交付金」は10,807億円となり2010年度対比▲7%減少した。この背景として、国は「運営費交付金」を削減する一方で、研究者が応募・審査を経て獲得する競争的資金(科研費や補助金)を手厚く支給する「選択と集中」と呼ばれる政策が指摘されており3、今後、「運営費交付金」が大幅に増加する可能性は低いと考えられる。
こうした状況を鑑みると、大学では、新たな財源の確保が喫緊の課題であり、現状では小さな割合4に留まる「資産運用収入」の拡大に期待が寄せられている。
3 竹内 健太「国立大学法人運営費交付金の行方-「評価に基づく配分」をめぐって-」参議院常任委員会調査室・特別調査室「立法と調査」 2019.6 No.413
4 大学経営協会「第7回全国大学の資産運用調査」(2018年9月調査)によれば、「収入に占める資産運用収益の割合」に関して、国立大学の90%が「0~1%」と回答。私立大学における資産運用収益の割合は2%(図表-1参照)
3. 大学の資産運用の現状
不動産証券化協会「機関投資家の不動産投資に関するアンケート調査」によれば、「長期的な観点からの安全かつ効率的な運用5」が求められている年金基金の資産配分において、不動産の投資比率は増加傾向にあり、2021年度は4.7%となっている(図表-6)。
また、海外の大学では不動産投資を通じて高い運用利回りを実現している事例もみられる6。日本においても、資産構成の分散を図るうえで不動産投資を検討する大学は増える可能性がある。
5 年金積立金管理運用独立行政法HP「年金積立金の運用とは」
6 吉田資『不動産投資への気運が高まる大学の資産運用』ニッセイ基礎研究所、年金ストラテジー (Vol.279) September 2019
4. 大学の不動産投資の状況
例えば、東京工業大学は、東京・田町の同大付属高校の跡地を2026年から75年間の定期借地権を設定し、NTT都市開発、鹿島建設、JR東日本、東急不動産の4社に貸付を行うとのことである9。このように、今後も保有不動産の貸付を通じて長期安定的な収入を確保する大学が現れると予想される。
7 文部科学省「国立大学法人法第三十四条の二における土地等の貸付けにかかる文部科学大臣の認可基準について」
8 日本経済新聞 「東京学芸大、遊休地貸与で安定資金 敷地に専門学校誘致」(2022 年4 月26 日)
9 4社は、オフィスやホテル、商業施設等が入る地上36階、地下2階のビルと、地上7階のビルの開発を計画。また、「週刊東洋経済 臨時増刊 本当に強い大学 2021」によれば、貸付による賃料収入は年間45億円(総額3,375億円)とのことである。
(2023年01月24日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
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