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持続可能な食料システム-SDGs達成のための必要条件

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 梅内 俊樹
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1――持続可能な食料システム構築の必要性
国際連合食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)は2014年に、飢餓と栄養不良を撲滅するための行動枠組みを議論するため、第2回国際栄養会議(ICN2:Second International Conference on Nutrition)を共同開催した。その中で、「気候変動やその他の環境要因が、食料安全保障や栄養、特に生産される食料の量、質、多様性に影響を及ぼしている」、「紛争や紛争後の状況、人道的緊急事態、長期化する危機、特に干ばつ、洪水、砂漠化、パンデミックなどの危機は、食料安全保障と栄養の確保を阻害する」、「現在の食料システムは、資源不足や環境悪化、持続不可能な生産・消費パターン、食品ロスや廃棄物、不均衡な流通による制約のため、すべての人に適切で安全、かつ多様で栄養価の高い食料を提供することが、ますます困難になってきている」との認識を示した。気候変動によって各国・地域の農業や漁業の生産量が不安定化し、衡平な分配が損なわれることになれば、そのしわ寄せは社会的弱者に及び、世界人口の1割程度の人々が慢性的な飢餓に苦しむ状況が一段と悪化しかねないことへの警鐘であったと受け止められる。
その一方で、食料システムが環境負荷を高めているという面もある。気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)によれば、世界の食料システムからの温室効果ガス排出量は、食料の生産・加工の前後に行われる活動の排出量も含めると、世界の人為起源の温室効果ガス排出量の21~37%を占め、そのうちの8~10%は食品ロス及び廃棄に起因する。この他、世界の森林の減少は、人口の増加、食料や土地に対する需要の拡大等により森林が伐採され、農地等に転用されるなどにより起きているとの指摘もある。農薬や化学肥料の使用による環境負荷も含め、食料システムが環境に多大なる負荷をかけていることは間違いない。
持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指す2030年までの期間が10年を切った2021年、国連は「食料システムサミット」を開催した。そのタイミングで、持続可能な食料システムに焦点をあてたサミットが開催されたのは、全てのSDGsの達成に向けた前進を促すためには、食料システムを変革し、人々と環境をめぐる悪循環を断ち切る必要があるとの認識があったからに他ならない。実際、国連事務総長は「食料システムを変革することは、全ての持続可能な開発目標を達成するために極めて重要である」と表明している。当該サミットでは、食料システムにかかわる様々な主体が議論に参加し、持続可能な食料システムの構築に向けた行動や解決策が幅広く議論された。こうした議論の成果もあり、持続可能な食料システムは、飢餓の撲滅や食料の安定確保をはじめとする多くのSDGs達成のために必要不可欠な解決策として、多様なステークホルダーから支持されつつある。
2――我が国の「みどりの食料システム戦略」の概要
こうした中でも、食料が安定的に供給されるようにするためには、生産者のすそ野の拡大や省力化・省人化の推進、更には資源の循環利用や環境負荷の軽減といった対策を講じ、災害や気候変動に強い持続可能な食料システムを構築する必要がある。食料自給率の向上や食料安全保障の確立を目指す上でも克服すべき重要な課題であり、中長期的な観点から戦略的に取り組む必要がある。こうした認識のもと、食料・農林水産業の政策方針として策定されたのが、「みどりの食料システム戦略」である。
農林水産物・食品の調達から生産、加工・流通、消費、廃棄(リサイクル)における関係者の意欲的な取組や、革新的な技術・生産体系の開発と社会実装を通じて、高い生産性と高い持続可能性をかね備え、環境負荷が軽減された食料システムを2050年までに構築する戦略である。主な目標やその実現に期待される主な取組や技術は、(図表1)の通りである。
長期にわたる戦略ではあるが、持続性のある産業の育成や地域の雇用・所得の増大、国民の健康的な食生活と地球環境の保全といった効果が得られるような取組やイノベーションの推進が期待される。
3――消費者の食品ロス削減
農林水産省及び環境省の調べによると、2020年度に我が国で発生した食品ロス(本来食べられるのに捨てられる食品)は522万トンで、その量は国連世界食糧計画(WFP)による食料支援量の1.2倍に達している。その約半分は家庭から発生したものとされ、食べ残しによる食品ロスが全体の42.5%を占め、賞味期限切れ等により未開封のまま捨てられる直接廃棄が44.1%、残りの13.4%は野菜の皮を厚くむき過ぎるなど、食べられる部分が捨てられる過剰除去となっている。
食べることができる食品が大量に廃棄される状況を改善すべく、政府では「食品ロスの削減の推進に関する法律」に基づき、国や地方公共団体、事業者、消費者の連携協力のもとで取組を推進している。その一環で、地方公共団体や事業者においては様々な取組や工夫が実施されているが、消費者に対しては、以下の取組が推奨されている。
- 買い物時:商品棚の手前にある商品を選ぶ「てまえどり」や事前の在庫確認など
- 調理時 :食べ切れる分の調理や食材の使い切りなど
- 保存時 :冷凍の活用や冷蔵庫内の配置の工夫など
- 外食時 :食べ切れる量の注文や食べ残しの持ち帰りなど
食品ロス削減はSDGsにおいてもターゲットとして設定されており、食品ロスを含むサプライチェーン全体を通じた食品廃棄物の削減は、廃棄時の運搬・処理の負担軽減に加え、食品の流通・製造時の温室効果ガス排出抑制にも寄与することが期待される。食料の多くを輸入に頼る我が国の食料消費のあり方が、輸出国の環境に影響を及ぼすことや、世界には栄養不足の状態にある人が数多く存在することを踏まえると、食品ロス削減は真剣に取り組むべき課題と言える。世界の食料システムの変革やSDGsの達成をサポートするためにも、消費者一人一人の主体的な取組が求められる。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年01月06日「基礎研レター」)

03-3512-1849
- 【職歴】
1988年 日本生命保険相互会社入社
1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
2009年 ニッセイ基礎研究所
2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
2013年7月より現職
2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
2021年 ESG推進室 兼務
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