2022年12月27日

回復する訪日外客数、属性の変化とエリア別稼働率の動向~2022年11月 ホテル客室稼働率、訪日外客数

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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国境開放により訪日外客数が増加

2022年11月の訪日外客数は93万4,500人と、前年同月比+4,418.4%(前年同月2万682人)、2019年11月比▲61.7%(2019年11月244万1274人)となった。10月11日から個人旅行目的でも入国が解禁され、客数は大きく回復している(図表1)。

国・地域別では、韓国が31万5,400人(全体に占める割合33.8%)と最も多く、次いで台湾が9万9,500人(10.6%)、米国が8万4,300人(9.0%)であった。相対的にASEAN諸国、インド、ヨーロッパ、北米、中東地域の回復が早い。
 
今後も訪日外客数は、ASEAN諸国や欧米からの訪日の増加を中心に、長期的な回復が期待できる。このため、国内不動産投資市場では、ホテルへの投資需要が一層高まっている。
図表1 訪日外客数 (月次、前年比)

コロナ禍前とは訪日外国人客を構成する国・地域が異なっている

コロナ禍前とは訪日外国人客を構成する国・地域が異なっている

主要都市部の物件が投資適格となりやすいオフィスやマンションと異なり、ホテルへの不動産投資は、観光客が好んで良く行く観光地が投資適格となる。つまり、需要者である観光客の属性や嗜好の影響を受ける。
 
2019年の訪日外客数の国籍・地域別の割合は、最も多いのが中国の30.1%、次いで韓国の17.5%、台湾の15.3%、香港の7.2%、米国の5.4%で、東アジアの国が中心であった。また、初めて訪日する人は、中国が50.0%、韓国が20.8%、台湾が13.2%、香港が11.9%、米国が51.9%、全国籍・地域では35.8%であった(図表2)。
 
2019年において、国籍・地域別、訪日回数別では、「初めて訪日する中国人」が最も多く、次いで「韓国人のリピーター(訪日2回目以上)」、「台湾人のリピーター」が多かった。
 
コロナ禍前の訪日の王道は、「初めて訪日する中国人」向けのゴールデンルートと呼ばれる東京・富士山・京都・大阪などの知名度の高い日本の名所をなぞるルートで、これらの観光地に沿って多くのバスやハイヤーが走っていた。しかし、最近のこのルート付近には、国内旅行客を乗せたレンタカーやタクシーが多く1、訪日外国人客を乗せたバスやハイヤーらしき車は少ない。ゴールデンルートは中国人のツアー客に好まれたルートでもあったが、繰り返されるゼロコロナ政策や感染拡大から、現時点では中国からの訪日はまだ見込めない状況が続いている。
図表2 2019年の国籍・地域別の訪日回数の割合(上位10か国・地域と全国籍・地域)

訪日する人の属性が多様化し、初めて訪日する人が増加している

2022年11月の訪日外客数の多い上位10か国・地域をみると、2019年調査時に「初めて訪日する人」が多い国・地域である米国(51.9%)、その他(64.0%)、ベトナム(59.9%)などが全体に占める割合が高まっている。その他には、新たに訪日外客数上位20位に加わったメキシコ、中東地域が含まれる。
 
「2019年調査時の国籍・地域の客の訪日回数別の割合」を「2022年11月の国籍・地域別の訪日外客数が全体に占める割合」に乗じて合計すると、2022年11月の訪日外国人全体のうち、「初めて訪日する人」の割合は、40.6%と概算できる(図表3)。コロナ禍前と国籍・地域別の訪日回数の傾向が大きく変化していないとすれば、コロナ禍前よりも「初めて訪日する人」の割合が増加していると推定される。
 
ここからコロナ禍前から多かった「韓国人、台湾人、香港人のリピーター」に加えて、「様々なエリアから初めて訪日する人」が新たな軸に加わったのではないかと考える。また、ゴールデンルートの状況から、現在来訪している訪日外国人は、コロナ禍前の王道とは別の体験を求めていると考えられ、新たなトレンドとこれに応える市場が生まれる可能性があるのではないだろうか。
図表3 2019年の国籍・地域別の訪日回数の割合(2022年11月の訪日外客数上位10か国・地域、全国籍・地域については概算値)

2022年11月の客室稼働率の動向

2022年11月の客室稼働率の動向

初めて訪日する人が増加すると、例えば「首都などの知名度の高い都市」や、「有名で最もその国らしいと考えられている場所や施設」、「アクセスのよい立地」などが訪問先として選ばれやすい。観光客の出身地等の属性の変化が、客室稼働率にも影響している。
 
全日本ホテル連盟よると、2022年11月の客室稼働率は、全国が78.6%(2019年11月比▲7.1%)、東京都が83.4%(▲10.2%)、大阪府が74.6%(▲9.0%)となった。10月11日の全国支援割の開始による効果で国内観光客が増加したことに加え、初めて訪日する外国人観光客の増加により、ウェイトが大きい東京や大阪がけん引して、全国的に稼働率が上昇し、コロナ前近くまで回復している(図表4)。
図表4 客室稼働率の推移(1) (全国・東京都・大阪府)
他のエリアの客室稼働率は、北海道が50.5%(2019年11月比▲24.9%)、東北が74.2%(+2.8%)、関東が81.4%(▲10.6%)、甲信越75.1%(▲4.5%)、北陸が84.9%(▲3.7%)、東海が79.1%(▲3.7%)、近畿が76.8%(▲7.6%)、中国が67.9%(▲12.0%)、九州が79.5%(▲2.6%)となった。
 
10月から11月にかけて急速に回復しているエリアのうち、近畿には京都府が、九州には福岡県が含まれる。京都府は、コロナ禍においてもラグジュアリーホテルが多数建設されるなど、東京都と並んで知名度が高く、東京都と同様に初めて訪日する人たちが多く訪れたのだろう。福岡県は、コロナ禍前は韓国からの訪日が全体の4割近くを占めており、韓国からの訪日急増の恩恵を受けたと見られる。 
 
一方、客室稼働率があまり回復していないのは北海道である。訪日需要が途絶えた2020年・2021年とも12月から翌年4月までは同様に客室稼働率の下落が大きい。国内旅行客が北海道を訪れるのは夏である。コロナ禍前は、良質な雪をアピールして訪日外国人を呼び込むことにより、冬の客室稼働率も高かった。ウィンタースポーツを目的とする旅行の準備には時間がかかるうえ、滞在期間を長くとる人も多い。個人旅行が解禁となったからといって、すぐに訪日できるケースが少ないのだろう。中華圏の旧正月(春節)のある1月、タイの旧正月のある4月に回復が期待される(図表5,6)。
図表5 客室稼働率の推移(2) (エリア別)/図表6 客室稼働率の推移(3) (エリア別)

2023年は東京が強いが地方にもチャンスが多い

2023年は東京が強いが地方にもチャンスが多い

2023年は、初めて訪日する人の外国人客の増加から、アクセスが良く、知名度が最も高い東京都の強さが目立つ年になると考える。また、全国支援割の終了に加えて円安にならず円が安定すれば、本当は海外旅行が好きな国内居住者の海外渡航が復活すると推定され、コロナ禍で国内居住者の来訪が増加した地方の客室稼働率がやや低下する可能性がある。
 
コロナ禍前にインバウンドの恩恵を受けてきた多くのエリアの客室稼働率や収益性の回復には、まだしばらくの時間を要するだろう。また、中国からの訪日外国人を欠いたままでは、コロナ禍前の訪日外客数には戻らないかもしれない。しかし、訪日外国人の属性の多様化は、将来を見据えると、人気の観光地や施設の分散や評価の多様化につながるため喜ばしい現象であると考えている。
 
オランダのオンライン・トラベル・エージェントであるブッキングドットコム(Booking.com)によると、2023年の旅行トレンドは、「自然への回帰」、「異文化の経験」、「ノスタルジー」、「社員旅行」、「コストパフォーマンス」、「バーチャル」の6つとのことである。日本国内の観光地に当てはまる部分も多いのではないか。例えば、島国で物理的に各国・地域と隔絶した日本は、首都の東京であっても、多くの国・地域にとっては「異文化」を感じやすく、地方については言うまでもない。また、「ノスタルジー」を感じるコンテンツや施設は、開発圧力の強い都市部よりも、開発が進んでいない地方部に数多く残っており、東京ばかりが優位ともいえない。観光客の心に響くイメージの定着に成功すれば、リピーターや新たな顧客の誘引に貢献し、長く日本の観光市場を盛り上げることができるのではないだろうか。
 
 

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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2022年12月27日「不動産投資レポート」)

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