2022年12月23日

世界の消費者は生保加入にあたりインターネットをどう利用するのか-インターネット利用状況の国際比較-

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1――はじめに

米国における生保・年金のマーケティングに関する代表的な調査・教育機関であるリムラが、世界12市場の成人消費者25歳から55歳を対象にオンラインで調査した結果を公表しており1、この中から、前回は生保加入率の国際比較について紹介した2。同調査レポートでは、保険加入に際して、消費者がインターネットをどう利用しているかについての調査結果も取り上げられており、コロナ禍の前後で大きく変化している。ここでは、その概要につき、紹介したい。
 
1 LIMRA「Global Consumer Pulse」2022年9月19日。当調査は、2022年の初頭に、世界12の市場の25~55歳の成人消費者を対象に、オンラインで行われたものである。12市場ならびに各市場における回答者数はつぎの通り。中国 2562、インド2577、マレーシア1563、タイ1581、香港1263、台湾1554、シンガポール1261、韓国1271、日本2567、フランス1562、イギリス1584、ブラジル1560。同報告書では、米国の状況についても数値が掲載されている部分があるが、当レポートでは別段の記載がない限り、「Insurance Barometer 2020,2022」に基づいたものである。
2 小著「世界の消費者はどの位の割合で生命保険に加入しているのか-生保加入率の国際比較-」『保険・年金フォーカス』(2022年11月22日)

2――インターネット利用状況の国際比較

2――インターネット利用状況の国際比較

(図表1)は、上記12市場に米国を加えた13市場において、生命保険に加入するとした場合、インターネットをどう利用するか(2022年調査結果)を示している。

日本、米国、イギリスを除く、大半の市場では、約半数もしくは市場によっては半数を大きく上回る消費者が、単に生命保険について調査するだけでなく、実際に加入する際にもインターネットを利用する、と回答している。一方、日本、米国、イギリスでは、生命保険に加入する際、「調査および加入」の双方ともにインターネットを利用する消費者は約3割に留まり、多くの消費者がインターネットで調査はするが、加入はインターネットを経由しない、と回答している。
【図表1】生保に加入するとした場合のインターネット利用方法(2022年)
(図表2)は、2020年における調査結果を示したものである。コロナ禍以前は、生命保険加入に際して、インターネットは調査を中心に使用されていたが、コロナ禍を経て、両者の差は著しいものがある。最も変化が大きかったのはシンガポールで、「調査および加入」の双方におけるインターネット利用は、2020年の15%から2022年には67%と、52ポイントの増加となった。中国、インド、マレーシア、台湾、タイも、それぞれ44、40、48、43、44ポイント増と、シンガポールに続く増加を示している。

日本(2020年30%から2022年32%)、米国(2020年29%から2022年27%)3の例外を除き、コロナ禍を経て、生保のインネット加入は著しく増加したといえよう。
【図表2】生保に加入するとした場合のインターネット利用方法(2020年)
(図表3)は、「過去1年間で、インターネットを使用して保険募集人または金融アドバイザーについての情報を収集したことがある」と回答した人(2020年、2022年調査)の国際比較である。ほとんどの市場において、2020年に比べ2022年ではより多くの消費者が保険募集人または金融アドバイザーについての情報収集にインターネットを使用している。

市場別に見ると、中国、インド、マレーシア、タイ、シンガポールが同情報収集にあたってのインターネットの利用率が高い。

上記に対し、イギリス、フランス、韓国は比較的低い結果となっている一方、日本は著しく低い水準となっている(2022年で12%)4
【図表3】保険募集人または金融アドバイザーの情報をオンラインで収集した(過去1年間)(2020年、2022年)
なお、(図表4)は、金融の専門家・企業が、既存顧客や見込み客とのやりとりに際して、どのソーシャルネットワークが最も使われるかについての、消費者調査の結果である。

12市場中、半数が「Facebook」をあげており、圧倒的多数となっている。日本では「ライン」となっているが、「ライン」をあげているのは日本以外にはない。
【図表4】金融商品・サービスのために最も使用されたソーシャルネットワーク
 
3 米国については、(図表1)については前掲注釈1の通りLIMRA and Life Happens「Insurance Barometer 2020,2022」、(図表2)は同「Insurance Barometer 2018」に基づくものであり、他の12市場とはベースが異なる。
4 当該調査項目についての日本の結果は他市場と比較して著しく低い水準となっている。その背景としては、日本人は相談する金融アドバイザーを持たない人の割合が12市場中、際立って最も高く(詳細については、別レポートにて紹介したい。)、他の市場と比較して金融関係について専門家と相談することが定着していないことも一要因としてあるのではないかと考えらえれる。

3――おわりに

3――おわりに

コロナ禍を経て、保険においてもインターネット利用ニーズが高まってきていることは、筆者もこれまでいくつか紹介してきたところ5だが、リムラの調査レポートでは、コロナ禍前後、かつ市場ごとに対比できるものもあり、示唆に富むものであった。

同調査レポートによれば、日本の消費者はその他の市場に比べ、保険加入に際してのインターネット利用には慎重であることが伺われる。この点含め、withコロナの流れの中で、今後、保険に関するインターネット利用が今後どうなっていくのか、他の調査結果を含め、引き続き注視していきたい。

また、同調査報告では、これまで紹介した加入率、インターネット利用状況の他、保険販売員や金融アドバイザーについてのものや、新型コロナウイルス関係の調査結果も載っており、それらについても機会があれば改めて紹介したい。
 
5 保険におけるインターネット利用ニーズの高まりについては、小著(1)「パンデミックがアジア太平洋の消費者に与えた影響」『保険・年金フォーカス』(2021年11月5日)、(2)「シンガポール、人による保険サービスに根強いニーズ」『保険・年金フォーカス』(2021年12月15日)、(3)「インド、アセアン諸国における個人向け損保商品のデジタル化の状況」『保険・年金フォーカス』(2022年1月25日)、(4)「パンデミックにより、世界の消費者はどう変わったのか」『保険・年金フォーカス』(2022年9月27日)等においても紹介してきた。一方、上記(2)、(3)は、アジアにおける調査結果ではあるが、複雑な商品への加入や、提出書類の多い請求場面では、インターネットを介さない対人での保険サービスの人気も根強いことを示すものであった。
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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴
  • 【職歴】
    1989年 日本生命入社
    1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
    1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

(2022年12月23日「保険・年金フォーカス」)

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