2022年12月21日

デジタルプラットフォーム透明化法-透明化法はデジタル市場法になりえるのか?

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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3|行為規制(DMA5条関係)
DMAでは5条関係として行為規制(作為義務、不作為義務)、6条関係として仕様の規制(システム上の制限)、7条関係として個人間通信サービスの段階的相互結合がある。7条は透明化法に規定がない9ので5条と6条と、透明化法を比較してみたい。まず5条の行為規制である。

まず、DMA5条と透明化法を比較すると図表8の通りである。ここで、図表でCPSというのはコアプラットフォームの略で、透明化法におけるDPFに相当するものである。また、GK(Gate Keeper)は透明化法におけるDPF提供者に相当する。さらに透明化法で商品等提供利用者というのを、煩雑さを避けるために利用事業者と呼ぶ。なお、以下で、評価というのは上記で述べた経済産業大臣の評価であって今年度の案とされているものを指す。
【図表8】DMA5条と透明化法
(1) DMA5条2項は利用事業者がCPSを利用した際に得られた情報をGKがオンライン広告などに利用してはならないとするものである。透明化法ではDPF提供者による個人データの取得・利用について開示が求められており(透明化法5条2項1号二)、DMA5条2項に相当する運用も可能と考えられる。なお、評価では利用事業者のデータをDPF提供者自身の事業に用いているかどうかが特に検討対象とされているため、下記DMA6条2項のGKの自社販売業務に利用事業者の情報を用いることを禁止していることも含み議論されているといえる。

(2) DMA5条3項は最恵国待遇(=自社DPFで最安値の提供を求める)を禁止している。この点については透明化法では開示が求められている(規6条1号)が、評価では検討対象となっていないようである。問題はすでに存在しないということなのだろうか。どのような整理なのか判然としない。

(3) DMA5条4項ではアプリストアに対して、アプリ事業者によるCPS(=アプリストア)以外での取引の容認を求める。この点に関する透明化法の規定はないが、デジタルコンテンツへのアプリ内決済のあり方やアンチステアリング条項(=アプリ外コンテンツ購入への誘導を禁止すること)については評価で検討対象とされている。したがって透明化法の下でも同じ認識の下での運用が行われていると言えそうである。

(4) DMA5条6項は苦情申し立て等の阻止を禁止する。透明化法では苦情の申立て、協議の申し入れなどは、透明化法でその窓口や申立て方法について開示規定があり、DMAとは規定ぶりが相違するものの、規定の仕方が相違するだけでおおむね類似の内容と考えてよいと思われる。

(5) DMA5条7項のアプリ内課金システム等の利用強制の禁止は上記(3)で述べた通り、評価で検討対象となっている。アプリ内でのデジタルコンテンツ購入について一定の手数料をDPF提供者が徴収するものである。いわゆるApple税とも呼ばれているこの手数料は、最近引き下げの動きがあるものの、おおむね30%の水準となっている。この点に関してはアプリ事業者の不満が強い。ただ、この手数料はアプリストア運営やシステム投資の原資になっているため、アプリ内課金を一切行わせないということも現実的ではないようにも思う。この点は、EUのDMAの具体的適用に至る過程を踏まえつつ、今後、日本でも対応策の検討が進められるものと思われる。

(6) DMA5条8項の他のCPSへの登録要求の禁止については、透明化法では該当規定がなく、評価でも検討対象となっていない。DMAでは複数のCPSによるユーザーの囲い込み(ロックイン)が問題視されているものだが、日本では課題としての認識が顕在化してないものと思われる。

(7) DMA5条9項、10項の広告主や媒体社への手数料・報酬開示について、透明化法では該当規定がなく、評価でも検討対象となっていない。ただ、指針では媒体社・広告主に対してDPF提供者による自己優遇や利益相反について大きな影響を与えるとする(指針2.1.2)。また媒体社へのDPF提供に際してアドフラウドやビューアビリティなど広告の質に関する問題意識がある(指針2.4.2)。これらはDMAにおいては手数料・報酬が妥当かどうか、価格を含めた開示をさせることと問題意識に近いものと思われる。指針及び評価により、自主的に詳細な算定方法を含む手数料・報酬開示を行うことへの誘導も今後検討されることとなるのではないかと思われる。
 
9 DMA7条は電話番号に依存しない異なる個人間通信アプリの段階的相互通信を可能とするものである。規則に規定されているスケジュールに従って徐々に相互通信の段階をあげていくものである(個人間だけから個人―団体間、テキスト通信から音声通信など)。
4|仕様規制(DMA6条関係)
次はDMA6条である。透明化法との対応関係は図表9の通りである。
【図表9】DMA6条と透明化法
(1) DMA6条2項の利用事業者のCPS利用情報をGKが競争へ利用することの禁止については、上記3|(1)で指摘したように、評価の検討項目となっている。この点、DPF提供者は各社とも自社の販売業務に利用事業者の情報は利用していないと報告をしている(詳細は別稿を予定)。

(2) DMA6条3項のプレインストールされたアプリの削除とデフォルト設定変更の許容については、透明化法では該当規定がなく、かつ評価でも検討を行っていない。この点、OSにプレインストールされたアプリはスマホなどのデバイス上で他のアプリに対して有利な立場に立つ。公正な競争のためには、アプリを利用者によって削除およびインストールが自由に行うことができることが望ましい。ただ、透明化法ではアプリストア自体がDPF提供者とされていることから、DPF提供者と利用事業者の関係を規律する透明化法ではDMAのような内容を求めるのは難しいと思われる(=アプリストア同士がDPF提供者同士の問題であるため)。アプリやサービスの乗換制限の禁止(DMA6条6項)も同様に透明化法の下での対応は難しいであろう。

(3) DMA6条4項はアプリストア・アプリのインストール許容を求めている。評価では、アプリのインストール許容に関して、「アプリ審査の予見可能性」という項目が立っており、事実上、不公正なアプリストアからの排除を抑止するものとなっていると考えられる。しかし、DMAはアプリストアそのもののインストール許容を求めている。これはDMAがOSをCPSと捉え、CPSのGK(すなわち透明化法でいうDPF提供者、具体的にはApple(iOS)とGoogle(Android))に他社のアプリストアのインストールを求めるものである。しかし透明化法のようにアプリストアをDFPと位置付ける場合には、このようにアプリストア自体をインストールすることを容認することを求める誘導は困難であると思われる(=DPF提供者同士の問題となるため)。そもそもアプリストアのインストールを認めること自体はセキュリティの問題などからかなり難しい課題であり、DMAがGKに具体的に適用されるまでの動きが注目される。

(4) DMA6条5項はランキング優遇の禁止を求める。この点、透明化法ではランキング決定のために用いる主要な事項を開示することとされている。そして評価では「自社及び関連会社優遇」と「商品・アプリの表示順位の決定要素」とを取り上げている。透明化法でも実質的には自社あるいは関連会社のランキング上の優遇を抑止するものであり、実際の効果としてはDMAと近しいものと考えられる。

(5) DMA6条7項のOS等の相互運用性の確保であるが、これはたとえばスマホの近接距離通信(Near field communication、NFC)システムを自社サービスだけではなく、他社のサービスにも利用を認めることとするものである。透明化法ではそもそもOSがDPFの指定範囲外なので、運用で解決する問題ではない。OSの提供者の市場への影響力を考えると、法令を改正すべきかどうかが検討問題となる。

(6) DMA6条8項は広告測定ツールへのアクセスの許容を求める。指針には、同様の内容について記載がある(指針2.1.2②)。ただし、指針では商品等提供利用者(すなわち媒体社)への第三者ツールへの接続を認めるよう求めており、一般利用者(広告主)についての記載が見当たらない。これは当該記載がメディア一体型広告DPFに対して記載されているためと思われる。指針ではアドフラウドなど広告の質についても取り上げており、Googleのような媒体社と広告主の間に入るDPF提供者については広告主サイドにも広告測定ツールを認めることは検討課題になると思われる。

(7) DMA6条9項のデータポータビリティは、DPF提供者間でのデータを一般利用者が移管できるようにするものである。この点、透明化法はDPF提供者と利用事業者の相互理解を促進するための規定を持っているだけであり、データポータビリティ確保まで踏み込んでいない。なお、データポータビリティにはかなりの技術上の課題が存在するものと推測されるので、EUのDMAのGKへの具体的な適用過程を見ておく必要がある。

(8) DMA6条10項の生成されたデータへのアクセスは、利用事業者がGKの有する取引データにアクセスできることを要求するものである。ただし、個人データは利用事業者の取引先であり、かつ当該個人が同意した場合に提供されるものとされている。この点に関しては、評価においても検討対象となっている(「オンラインモール運営事業者によるデータ利用」「アプリストア運営事業者によるデータ利用」10)。概ね、利用事業者に係る情報はDPF提供者から提供され、また個人の情報は当該個人の同意が必要とされている。すなわち透明化法でも同様の対処ができていると考えられる。

(9) DMA6条11項のオンライン検索データへのアクセスは、オンライン検索エンジンのデータを別のオンライン検索エンジンが取得できるとするものである。繰り返しとなるが、透明化法はDPF提供者と利用事業者の相互理解のための法律であるため、このような取り扱いを求めるのは困難であろう。このDMAの規定自体はかなり特殊な取り扱いをするものであるため、検討すべきかどうかは今後の議論の展開を見ておく必要がある。

(10) DMA6条12項のアプリストアへの公平なアクセス条件は上記(3)に述べた通りである。

(11) DMA6条13項の不相応な契約解除規定の禁止は、加入が簡単にオンラインでできるが、解約は電話に限定する(かつその番号にはなかなかかからない)など解約を困難にする、いわゆるダークパターンに対処するものである。これは透明化法に該当するものはないが、日本では特定商取引法13条の2に対応する条文がある。DPF提供者に限定されるものではないが、対応は行われているということができるかもしれない。
 
10 特定デジタルプラットフォーム提供者に対する質問・確認事項について(各社からの回答)https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_platform_monitoring/pdf/004_s02_00.pdf 参照。
5|小括
以上をまとめると、問題点は以下のように整理される。

(1) 対象となるDPF提供者については、DMAのCPSを運営するGKより適用範囲が狭い。OSなど欧米において競争法上で問題となっているDPFを規制に取り込むには法改正が必要となる。

(2) DMA5条に関係するDPF提供者に対する行為規制(データの取扱い,アプリ内決済の強制禁止など)については、透明化法でも相当程度の誘導が可能である。これは5条がGK(DPF提供者)と利用事業者の間を規律する規定が多く、DPF提供者と利用事業者の間を規律する透明化法でも対処可能な規定が多いためと考えられる。

(3) DMA6条関係は、アプリストアへの公平なアクセスや個人データを利用事業者が利用できるようにするなどの一部規定を除くと、適用が困難なものが多い。これはDPF提供者と利用事業者との関係ではなく、DPF提供者とDPF提供者との関係を規律する規定が相当程度占めるからと考えられる。

7――おわりにかえて

7――おわりにかえて

本稿では、日本の透明化法が、EUのDMAが包含する問題意識に対して、DMAのような法的な禁止あるいは義務といったハードタッチな対応ではなく、DPF提供者の自主的な取り組みによって解消するという方策がどの程度進めることができるかという問題意識で見てきた。

結論は小括に述べたところであるが、ここで鍵となるのは、「相互理解の促進」である。DMAはCPSを運用するGK(日本のDPF提供者に該当)と利用事業者との関係を規律するものが一つの側面である。こちらについては透明化法の「相互理解の促進」という法文によって問題意識を行政からDPF提供者に伝え、自主的な改善を求めることがある程度は可能となる。この意味ではEUのDMAにない「相互理解の促進」を条文に入れたことにより法律の対処できる範囲を、ソフトタッチであるとはいえ、拡大するものであったと評価が可能である。

他方、DPF提供者と利用事業者との間の規律から外れる部分、すなわち、DPF提供者同士の問題については対処ができていない。ただし、DMAではオンライン検索エンジンデータの提供などラディカルな規定も多いことから、EUでの動きを丹念に追っていくほかはないように思われる。
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

(2022年12月21日「基礎研レポート」)

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【デジタルプラットフォーム透明化法-透明化法はデジタル市場法になりえるのか?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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