2022年12月21日

デジタルプラットフォーム透明化法-透明化法はデジタル市場法になりえるのか?

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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1――はじめに

最近、特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(デジタルプラットフォーム透明化法、以下透明化法という)に関するふたつの動きがあった。一つ目は透明化法の適用対象として指定されたデジタルプラットフォーム(以下、DPF)の提供者(以下、DPF提供者)のカテゴリーを拡大する政令が公布され、この2022年8月より施行されたことである。これによりいくつかの提供者が透明化法の適用対象として指定された(2022年10月3日、後述)。

二つ目として、透明化法9条1項に基づき、2021年にDPF提供者として指定された事業者からの年次報告が経済産業大臣に提出された。これを受け、専門家会議を経たうえで経済産業大臣の評価案1について、パブリックコメントに付された2

本稿では、適用対象となるDPF事業者の拡大を含む透明化法全体について解説を行う。ちなみに透明化法を取り扱った前回の基礎研レターは法律成立時に解説したものであり、その後に規定された施行令3、施行規則4、指針5について触れていない。そこで、今回は、前回の基礎研レターとは重複する部分があるものの、法律から指針までの概要まで含んだ全体像を説明する。

ところで、EUではデジタル市場法が2022年11月1日に施行6され、デジタルプラットフォーム提供者(EU規則ではGate Keeper)への規律が一段と強化された。透明化法とある程度の問題意識を共有していることから、現行の透明化法の運用により、どの程度デジタル市場法の目指す方向へ近づけるのかをも含めて検討を行いたい。

なお、二つ目の経済産業大臣より示された評価案については検討項目がいくつにも分かれていることから、本稿とは別に、個別項目ごとに「研究員の眼」でより詳細な解説を行っていくこととしたい。

さて、以下で透明化法の解説に入るわけだが、大まかな枠組みを示しておきたい。

透明化法は、DPF提供者を指定することで法律を適用する形式をとっている(下記2)。上述の通り、この適用対象が今般拡大された。適用される主な規定としては、一つ目は提供条件等の開示(下記3)、二つ目は相互理解の促進のための措置(下記4)、三つ目は報告書の提出・評価(下記5)である。そのうえで試論として、透明化法はデジタル市場法にどの程度運用で近づくことができるのか検討を行う(下記6)。

なお、個々の条文を解説するにあたっては、理解のしやすさを優先するために省略をして表記をしていることをあらかじめご承知いただきたい。
 
1 https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000243574 参照。
2 https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=595222071&Mode=0 参照。
3 特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律第四条第一項の事業の区分及び規模を定める政令
4 特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律施行規則
5 特定デジタルプラットフォーム提供者が商品等提供利用者との間の取引関係における相互理解の促進を図るために講ずべき措置についての指針
6 https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_22_6423 参照。なお、実際のデジタルプラットフォーム運営者(Gate Keeper)への適用は2024年3月とされている。

2――透明化法の適用

2――透明化法の適用

1DPFの定義
透明化法はまずDPFを定義し、政令で定める規模以上のDPFの提供者を経済産業大臣が透明性及び公正性の自主的な向上に努めることが特に必要な者(DPF提供者)として指定することとされている(透明化法4条1項)。

DPFの定義は、(1)多数の者が利用することを予定して電子計算機を用いた情報処理により構築した場であること、そして(2)当該場において、商品、役務又は権利(商品等)を提供しようとする者の当該商品等にかかる情報を表示することを常態とするものを、多数の者にインターネットその他の高度情報通信ネットワーク(テレビ放送等を除く)を通じて提供する役務のことを指す(透明化法2条1項柱書)。条文は複雑な文章となっているが、簡単に言えば、いわゆるウェブ上の場であるデジタルプラットフォーム(DPF)である。

ただし、(3)当該役務は次の二つのいずれかの条件を満たす必要がある。若干複雑であるが表記する(解説は後述)。すなわち、(3)-1当該役務を利用して商品を提供しようとする者(提供者)の増加に伴い、当該商品等の提供を受けようする者(被提供者)の便益が著しく増進され、これにより被提供者が増加し、その増加に伴い提供者の便益が著しく増進され、これにより提供者がさらに増加する関係であること(透明化法2条1項1号)、または(3)-2提供者以外の利用者(=一般利用者7)の増加に伴い他の当該役務を利用する者の便益が著しく増進され、これにより当該役務を利用する者がさらに増加するとともに、その増加に伴い提供者の便益も著しく増進され、これにより提供者も増加する関係であること(同項2号)、である。これはいわゆるDPF であって、両面市場におけるネットワーク効果があるものを指定するとの趣旨である。

この部分の条文について、簡単に解説すると、これらのうち(3)-1はAmazonのように、多くの販売事業者(提供者)が参加するネットワークであるがゆえに購入者(被提供者)が増え、購入者が増加することで販売市場としての価値が増し、さらに販売事業者が増加するといったネットワーク効果があるものを指している(図表1)。
【図表1】Amazonを典型例とする両面市場におけるネットワーク効果
また、(3)-2はメタ(Facebook)のように、ネットワークの利用者が増加することでさらに利用者が増加し、その結果、ネットワークに対して広告主(提供者)が広告を掲出する効用が高まるという形態のネットワーク効果があるものを指している(図表2)。
【図表2】メタを典型例とする両面市場ネットワーク効果
 
7 一般利用者とは利用者のうちで商品等提供利用者を除く(透明化法2条4項)もので、一般の消費者(物販サービスにおける被提供者)やSNSサービスの利用者を含む。また広告仲介サービスでは広告主となる者を含む。
2|法施行時のDPFのカテゴリーと指定された者
法施行時の指定対象DPFは(a)物販サイトと(b)アプリサイトのみであった。具体的には(a)商品等提供利用者が一般利用者に対して商品等を提供する事業であって、イ)商品等提供利用者が主として事業者であり、かつ一般利用者が主として事業者以外の者であること、ロ)広く消費者の需要に応じた商品等(食料品、飲料、日用品)を提供するものであること、ハ)商品等の提供価格等の情報を一般利用者に表示するものであること、のいずれも満たすものとされている(令1表の一事業区分、図表3)。物販サイトで特徴的なのは、上記ロ)で、たとえば日用品ではない業務用の工具類を販売するサイトはこれに該当しないこととなる。なお、これらは上記1|で述べた(3)-1に該当するものである。
【図表3】物販サイト
このような物販サイトのうち一年度(4月1日から翌3月31日まで、以下同じ)の国内売上高が3000億円以上であるものが指定される(令1表の一規模)。現在、指定されているのは、Amazon、楽天市場、Yahoo!ショッピングである。

そして(b)アプリサイトについては、商品等提供利用者(=アプリ業者)が一般利用者に対してソフトウェアを提供する事業及び当該ソフトウェアにおける権利を販売する事業であって、イ)商品等提供利用者が主として事業者であり、一般利用者が主として事業者以外の者であること、ロ)広く消費者の需要に応じたソフトウェアを提供するもの及び当該ソフトウェアにおける権利を販売するものであって、当該ソフトウェアに電子メールの送受信機能を有するもの及びインターネットによる閲覧機能を含むもの、ハ)ソフトウェアの提供価格および当該ソフトウェアにおける権利の販売価格等の情報を一般利用者に対して表示して行うものであること、のいずれも満たす必要がある(令1表の二事業区分、図表4)。これも特徴は上記ロ)で、たとえば、オフラインのみで利用されることが前提とされているソフトウェア(たとえばワープロソフト)のみを販売するサイトはDPF提供者に該当しないこととなる。
【図表4】アプリストア
このようなアプリサイトについては日本国内の売上高が2000億円以上である者が指定される(令1表の二規模)。指定されているのはApple(App Store)とGoogle(Google Play ストア)である。
3|政令改正により新たに適用対象となったDPFカテゴリーと指定された者
透明化法については、2022年7月5日に政令改正が行われた。新たにDPFとして指定されるようになったのは、(c)検索サービスおよびSNS、(d)広告仲介サービスである。いずれも上記1|述べた(3)-2に該当するものである。

まず(c)検索サービスおよびSNSは、DPF提供者が一般利用者に対して情報の検索又は文字、画像若しくは映像の投稿による他の一般利用者との交流の場を提供し、及び商品等提供利用者が一般利用者に対して広告を表示する事業であって、イ) 商品等提供利用者が主として事業者であり、一般利用者が主として事業者以外の者であること、ロ)商品等にかかる情報を表示すべき商品等提供利用者を主として競りにより決定するものであることである(令1表の三事業区分)。

ここでロ)の、競りにより決定するというのは、Real Time Biddingと呼ばれる閲覧者の属性を踏まえて即座にシステム上競りを行い、一番条件のよい(=価格の高い)商品等提供利用者の広告がSNS等の広告枠に表示されるものを指している(図表5)。
【図表5】検索サービス・SNSにおける広告表示を行うDPF
このようなDPFについて年度売り上げ1000億円以上のものが指定される(令1表の三規模)。現在指定されているのは、Google LLC、Meta Platforms, Inc.、ヤフー株式会社である。自社で広告を掲出できる媒体(検索サービス、SNS、ポータルサイトなど)を保有している広告事業者である。

次に(d)広告仲介サービスであるが、商品等提供利用者(=媒体社)が一般利用者(=広告主)に対して自らの広告表示枠において一般利用者の広告素材を公告として表示する役務を提供する事業であって、イ)商品等提供利用者と一般利用者がともに主として事業者であること、ロ)その広告表示枠において一般利用者の広告素材を広告として表示する役務を提供すべき商品等提供利用者を主として競りにより決定(=最も高い広告料を支払った広告を掲載)するものであることのいずれもみたすものである(令1表の四事業区分)(図表6)。
【図表6】広告仲介サービス
すなわち、広告主と媒体社を結びつけるサービスであり8、このようなDPFについて年度売り上げ1000億円以上のものが指定される(令1表の四規模)。現在指定されているのは、Google LLCである。
 
8 広告仲介サービスについての詳細は基礎研レポート「巨大プラットフォーム企業と競争法(1)
Google をめぐる競争法上の課題」https://www.nli-research.co.jp/files/topics/66796_ext_18_0.pdf?site=nli P12参照
4|提供者の指定手続
経済産業大臣は上記2|、3|で述べた政令の要件に該当するDPFの提供者をDPFの透明性及び公正性の自主的な向上に努めることが特に必要な者として指定する(透明化法4条1項)。なお、DPF提供者であって政令で定める要件に該当する者は経済産業大臣に届出を行わなければならない。
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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