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- 取締役報酬はどう決まるか(4)-役員退職慰労金
コラム
2022年12月07日
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取締役報酬シリーズの最後は役員退職慰労金である。役員退職慰労金とは取締役等を退任するにあたって、その功に報いるために支給される報酬である。昨今は、経営に対するけん制機能を有する立場である社外取締役や監査役に対する退職慰労金の議案や、不祥事のあった会社における取締役等の退任慰労金の議案等について、議決権行使助言会社が反対方針を出すなど、議案が必ずしも決議される状態ではなくなってきた。
さて、本稿では役員のうちでも特に取締役の退職慰労金に限定して解説を行うこととする。
役員退職慰労金は在任中の取締役職務執行の対価として給付される報酬であることから、定款または株主総会でその額を決議する必要がある(法361条1項1号)1。ところが、退任する取締役は一名ということもあり得るため、実務では、研究員の眼「取締役報酬はどう決まるか(1)-金銭報酬」のところで述べたような、具体的な上限額を株主総会で決議することは行われていない。その代わりに、役員退職慰労金について、具体的な金額、支給期日、支給方法を取締役会に一任する決議が株主総会で行われるのが通例である。この点、判例では無条件での取締役会一任を認めていないものの、支給基準を株主が推知しうる状況において、当該支給基準にしたがって決定すべきことを委任する趣旨の決議であれば違法ではないとする2。
具体的には取締役会決議で役員退職慰労金内規を決議し、通常は最終役位、在任年数、会社の業績などを考慮したうえで、内規にしたがって支給をすることとなる。
ところで報酬に関する議案を株主総会に提出した取締役は、その議案が相当であるとする理由を説明しなければならない(法361条4項)。株主からこの旨の質問が出た場合、取締役は、(1)一定の明確性のある基準が内規で定められていること、(2)内規にはお手盛り防止のための合理性があること、(3)内規の存在を株主が知りうる状況にあること、および(4)具体的金額については後日計算するということを説明することが通例であるようだ。上記(3)の内規の存在を株主が知りうる状態にあるとされるためには、たとえば、少なくとも本店に行けば株主が閲覧できるなどの措置をとる必要がある(規82条2項)3。
ところで、本文の頭で述べたような状況の下で、多くの上場会社が役員退職慰労金そのものを廃止する動きが出てきている。この場合、将来に向かっては取締役報酬を増額するということが考えられるが、既に在任している取締役の過年度分をどうするかという問題が発生する。
過年度分打ち切り支給をするとした場合において、在任中に一挙に支給すると、その年次で所得税が課せられることになり4、退職税制に比較して税制上は不利となる。そのため、退任時に支給することを議案内容として株主総会に付議をする会社が多いとのことである。その際、内規についてはこのような取り扱い(職位や在任期間の算定など従来と異なる取り扱いである打ち切り支給が読める内容)を明記する必要がある。
本稿をもって取締役報酬シリーズを一区切りとしたい。最後に、日本では先進諸外国と比較して、取締役の報酬そのものは高くないものの、業績連動報酬の割合が低いと指摘されることが多い。取締役報酬と成長戦略をリンクさせて語られることも多い。加えて、労働者への報酬(労働分配率)の問題や格差問題からの視点、あるいはSDGsの視点などからも取締役報酬のあり方は今後も議論されていくことになるだろう。以降も適宜情報発信を行っていくこととしたい。
1 指名委員会等設置会社においては報酬委員会で決議を行う(法409条)。ただし、あまり事例はないようである。
2 最判昭和39年12月11日等、江頭憲治郎「会社法(第8版)」(有斐閣2021年p481)参照。
3 江頭憲治郎「会社法(第8版)」(有斐閣2021年)p482参照
4 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/02/17.htm 参照
さて、本稿では役員のうちでも特に取締役の退職慰労金に限定して解説を行うこととする。
役員退職慰労金は在任中の取締役職務執行の対価として給付される報酬であることから、定款または株主総会でその額を決議する必要がある(法361条1項1号)1。ところが、退任する取締役は一名ということもあり得るため、実務では、研究員の眼「取締役報酬はどう決まるか(1)-金銭報酬」のところで述べたような、具体的な上限額を株主総会で決議することは行われていない。その代わりに、役員退職慰労金について、具体的な金額、支給期日、支給方法を取締役会に一任する決議が株主総会で行われるのが通例である。この点、判例では無条件での取締役会一任を認めていないものの、支給基準を株主が推知しうる状況において、当該支給基準にしたがって決定すべきことを委任する趣旨の決議であれば違法ではないとする2。
具体的には取締役会決議で役員退職慰労金内規を決議し、通常は最終役位、在任年数、会社の業績などを考慮したうえで、内規にしたがって支給をすることとなる。
ところで報酬に関する議案を株主総会に提出した取締役は、その議案が相当であるとする理由を説明しなければならない(法361条4項)。株主からこの旨の質問が出た場合、取締役は、(1)一定の明確性のある基準が内規で定められていること、(2)内規にはお手盛り防止のための合理性があること、(3)内規の存在を株主が知りうる状況にあること、および(4)具体的金額については後日計算するということを説明することが通例であるようだ。上記(3)の内規の存在を株主が知りうる状態にあるとされるためには、たとえば、少なくとも本店に行けば株主が閲覧できるなどの措置をとる必要がある(規82条2項)3。
ところで、本文の頭で述べたような状況の下で、多くの上場会社が役員退職慰労金そのものを廃止する動きが出てきている。この場合、将来に向かっては取締役報酬を増額するということが考えられるが、既に在任している取締役の過年度分をどうするかという問題が発生する。
過年度分打ち切り支給をするとした場合において、在任中に一挙に支給すると、その年次で所得税が課せられることになり4、退職税制に比較して税制上は不利となる。そのため、退任時に支給することを議案内容として株主総会に付議をする会社が多いとのことである。その際、内規についてはこのような取り扱い(職位や在任期間の算定など従来と異なる取り扱いである打ち切り支給が読める内容)を明記する必要がある。
本稿をもって取締役報酬シリーズを一区切りとしたい。最後に、日本では先進諸外国と比較して、取締役の報酬そのものは高くないものの、業績連動報酬の割合が低いと指摘されることが多い。取締役報酬と成長戦略をリンクさせて語られることも多い。加えて、労働者への報酬(労働分配率)の問題や格差問題からの視点、あるいはSDGsの視点などからも取締役報酬のあり方は今後も議論されていくことになるだろう。以降も適宜情報発信を行っていくこととしたい。
1 指名委員会等設置会社においては報酬委員会で決議を行う(法409条)。ただし、あまり事例はないようである。
2 最判昭和39年12月11日等、江頭憲治郎「会社法(第8版)」(有斐閣2021年p481)参照。
3 江頭憲治郎「会社法(第8版)」(有斐閣2021年)p482参照
4 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/02/17.htm 参照
(2022年12月07日「研究員の眼」)

03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2025年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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