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- 取締役報酬はどう決まるか(2)-株式報酬
コラム
2022年11月07日
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前回の研究員の眼では、固定報酬や業績連動報酬といった金銭による報酬支払いの規律について述べた。今回は取締役(指名委員会等設置会社においては執行役も)の株式(=現物株)報酬について触れることとしたい。
2019年改正会社法以前の株式報酬は、まず金銭を報酬として取締役に支払うこととし、その金銭債権をもって株式への現物出資とすることで取締役が株式を取得するという迂遠な方法しかとることができなかった1。このことは株主にわかりにくく、かつ金銭報酬という形でしか株主総会決議を行わないため、ガバナンス面からは問題と考えられていた。
そこで改正会社法では、株式の募集にあたって、取締役等の報酬として募集株主に係る発行等を行うものであって、募集株式と引き換えにする金銭の払込等を要しない旨を定めることができるとされた(法202条の2第1項、指名委員会等設置会社については同条3項)。つまり株式を報酬として直接交付できることととされた。
株式報酬に関しては、 (1)役職別に算定された数の株式を交付するものと、(2)業績や株価上昇率等を基礎として算定した数の株式を交付するものとがある。(1)では在任中には譲渡制限を課すなど、取締役自身が株価上昇にインセンティブを持つように工夫されているものも多い。また、クローバック条項という、取締役が不祥事を起こしたり、取締役としての適格条項に反したりした場合などに株式を会社が無償で取得するといったものを定める例もある(図表1)。
2019年改正会社法以前の株式報酬は、まず金銭を報酬として取締役に支払うこととし、その金銭債権をもって株式への現物出資とすることで取締役が株式を取得するという迂遠な方法しかとることができなかった1。このことは株主にわかりにくく、かつ金銭報酬という形でしか株主総会決議を行わないため、ガバナンス面からは問題と考えられていた。
そこで改正会社法では、株式の募集にあたって、取締役等の報酬として募集株主に係る発行等を行うものであって、募集株式と引き換えにする金銭の払込等を要しない旨を定めることができるとされた(法202条の2第1項、指名委員会等設置会社については同条3項)。つまり株式を報酬として直接交付できることととされた。
株式報酬に関しては、 (1)役職別に算定された数の株式を交付するものと、(2)業績や株価上昇率等を基礎として算定した数の株式を交付するものとがある。(1)では在任中には譲渡制限を課すなど、取締役自身が株価上昇にインセンティブを持つように工夫されているものも多い。また、クローバック条項という、取締役が不祥事を起こしたり、取締役としての適格条項に反したりした場合などに株式を会社が無償で取得するといったものを定める例もある(図表1)。
株式報酬は、株主総会において取締役全員の報酬の上限等を定める。具体的にはi)募集株式の数、ii)一定の事由が生ずるまで当該募集株式を他人に譲り渡さないことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要、iii)一定の事由が生じたことを条件として当該募集株式を当該株式会社に無償で譲り渡すことを取締役に約させることとするときは、その旨及び当該一定の事由の概要、iv)その他の条件の概要を定める(法361条1項3号、規98条の2)。
この株主総会の決議を受けて、一定の会社においては、取締役会が個人別の報酬決定の方針を定める。具体的には、i)個人別の報酬等である株式報酬の内容及び株式報酬の額若しくは数又はその算定方法の決定に関する方針、ii)個人別金額の全体に対する割合に関する方針、iii)報酬等を付与する時期・条件の決定に関する方針等を定めなければならない(法361条7項、規98条の5第3号、4号、5号)とのルールがある。
このルールの対象となるのは、イ)公開会社であり、大会社である監査役会設置会社であって、有価証券報告書提出義務のあるものと、ロ)監査等委員会設置会社2である。
他方、指名委員会等設置会社においては、報酬委員会において、上記の株主総会で決定すべきとされている事項、すなわち募集株式の数や一定の事由が生じるまで他人に譲渡しないことなどの条件の概要を定める(法409条3項3号)。そして取締役・執行役の個人別の株式報酬の内容決定の方針および具体的な報酬の内容も報酬委員会で決定する(法404条1項~3項)。
このように方針を決定したときは、事業報告において、a)当該方針の決定の方法、b)当該方針の内容の概要、c)当該事業年度に係る取締役の個人別の報酬等の内容が当該方針に沿うものであると取締役会(指名委員会等設置会社にあっては、報酬委員会)が判断した理由を開示する必要がある(法119条2項、規121条6号)。この点も金銭報酬と変わりがない。
以上をまとめると一定の監査役等設置会社および監査等委員会設置会社については図表2、指名委員会等設置会社については図表3の通りである。
この株主総会の決議を受けて、一定の会社においては、取締役会が個人別の報酬決定の方針を定める。具体的には、i)個人別の報酬等である株式報酬の内容及び株式報酬の額若しくは数又はその算定方法の決定に関する方針、ii)個人別金額の全体に対する割合に関する方針、iii)報酬等を付与する時期・条件の決定に関する方針等を定めなければならない(法361条7項、規98条の5第3号、4号、5号)とのルールがある。
このルールの対象となるのは、イ)公開会社であり、大会社である監査役会設置会社であって、有価証券報告書提出義務のあるものと、ロ)監査等委員会設置会社2である。
他方、指名委員会等設置会社においては、報酬委員会において、上記の株主総会で決定すべきとされている事項、すなわち募集株式の数や一定の事由が生じるまで他人に譲渡しないことなどの条件の概要を定める(法409条3項3号)。そして取締役・執行役の個人別の株式報酬の内容決定の方針および具体的な報酬の内容も報酬委員会で決定する(法404条1項~3項)。
このように方針を決定したときは、事業報告において、a)当該方針の決定の方法、b)当該方針の内容の概要、c)当該事業年度に係る取締役の個人別の報酬等の内容が当該方針に沿うものであると取締役会(指名委員会等設置会社にあっては、報酬委員会)が判断した理由を開示する必要がある(法119条2項、規121条6号)。この点も金銭報酬と変わりがない。
以上をまとめると一定の監査役等設置会社および監査等委員会設置会社については図表2、指名委員会等設置会社については図表3の通りである。
株式報酬は、株価というわかりやすい尺度で定まるものである。また株価という株主と利益を共通にする方法で取締役の報酬が定まることになる。たとえば常務より社長の方が株式報酬の割合が多いなど役位が上の取締役ほどインセンティブ報酬を多くすることも行われている。
次回はストックオプションについて説明を行う。
1 これは募集株式の発行においては、払込金額又は算定方法を常に定めなければならず(法199条1項2号、3号)、また取締役業務のような労務出資が認められないと解されていたためである(江頭憲治郎「株式会社法(第8版)」(2021年)p470参照。
2 監査等委員兼務取締役に対する報酬を除く。
次回はストックオプションについて説明を行う。
1 これは募集株式の発行においては、払込金額又は算定方法を常に定めなければならず(法199条1項2号、3号)、また取締役業務のような労務出資が認められないと解されていたためである(江頭憲治郎「株式会社法(第8版)」(2021年)p470参照。
2 監査等委員兼務取締役に対する報酬を除く。
(2022年11月07日「研究員の眼」)

03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
松澤 登のレポート
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