2022年11月24日

米中間選挙と今後の経済政策-ねじれ議会から政治機能不全の懸念。高まる連邦債務上限の抵触リスク

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

11日8日実施された米国の中間選挙では与党民主党が上院で過半数を維持した一方、下院では野党共和党が僅差で過半数を奪取した。バイデン大統領の支持率が40%台前半に低迷していたことや民主党のインフレや経済政策に対する不満から、選挙直前は共和党が地滑り的な勝利を収めるとの見方が支配的となっていた。しかしながら、共和党は事前に予想された程には票が伸びない結果となった。

一方、来年1月からの新議会では上下院で多数政党が異なる「ねじれ議会」となることが決まった。議会の党派性が強まる中、バイデン政権が実現を目指す企業や富裕層に対する課税強化や社会保障の拡充などの歳出拡大策などの実現は野党共和党の反対により実現が困難となった。

本稿は執筆時点で判明している中間選挙結果とその評価、今後の経済政策への影響などについて論じている。24年の大統領選挙を睨んで与野党対立の激化が予想される中、米国が深刻な景気後退に陥った際の迅速な景気対策の実現が困難となるほか、連邦政府閉鎖や債務上限引き上げの混乱など政治の機能不全に伴う米国経済への影響が懸念される。

2.中間選挙結果とその評価

2.中間選挙結果とその評価

(上下院議席獲得状況・投票率):下院は共和党が過半数を奪取、投票率は前回中間選挙から低下
11月8日に行われた中間選挙では、上院(100議席)のおよそ3分の1に当る35議席、下院(435議席)の全議席が改選された。11月22日(東京時間午後5時)時点で判明している議席数は、上院では民主党が50議席、共和党が49議席となっており、12月6日に予定されているジョージア州の決戦投票の結果を待たず、民主党が過半数を維持することが決定した(前掲図表1)。また、下院は共和党が219議席、民主党が212議席、勝敗未定4議席と、共和党が過半数(218議席)を獲得し、16年の選挙以来の勝利となった。もっとも、残り4議席を共和党が獲得した場合でも222議席と過半数を僅か6議席上回る程度に過ぎず、与野党の議席数は僅差に留まる。

一般的に中間選挙は大統領の信任投票と位置付けられ、大統領選挙で勝利した政党は最初の中間選挙では上下院ともに議席を減らす傾向がある。実際に、戦後からの平均では上院で4議席、下院では27議席減らしている。このため、上院で与党民主党が過半数を維持し、下院でも議席減が1桁に留まった今回の中間選挙は、民主党が善戦し、共和党の苦戦を示す結果と言えよう。
(図表2)大統領・中間選挙の投票率 一方、今回の中間選挙の投票率は46.4%1とトランプ大統領に対する信任投票として有権者の関心が高まった18年の前回中間選挙(50.0%)を▲3.6%ポイント下回った(図表2)。もっとも、それ以前の中間選挙の平均的な投票率である40%近辺の水準を大幅に上回っており、今回の中間選挙も有権者の関心が高かったことが窺われる。後述するように今回の中間選挙ではトランプ前大統領の信任投票としても注目されたほか、女性を中心に関心が高い「人工中絶」が重要な争点となったことも投票率を上げる要因となった可能性がある。
 
1 11月9日時点
(民主党が善戦した要因):トランプ氏の影響? 人工中絶問題の争点化
前述のように中間選挙は現職大統領に対する信任投票と一般的に位置付けられている。今回の中間選挙の出口調査でも「投票理由の一つはバイデン氏の支持・不支持表明か」との質問に対する回答割合で「バイデン支持のため」(全体の25%)と「バイデン不支持のため」(同40%)の合計が6割を超えた(図表3)。
(図表3)投票理由の一つはバイデン氏の支持・不支持表明か/投票理由の一つはトランプ氏の支持・不支持表明か 一方、今回の中間選挙では24年の次期大統領選挙での出馬が取り沙汰されていたトランプ前大統領が、選挙直前になって自身が支持する候補者の応援演説などでメディアの露出が増えた結果、中間選挙の位置付けがトランプ前大統領の信任投票としての様相も呈した。実際に、前述の出口調査で「投票理由の一つはトランプ氏の支持・不支持表明か」との質問に対する回答割合で「トランプ支持のため」(同23%)と「トランプ不支持のため」(34%)の合計はバイデン大統領よりは低いものの、5割台後半に上っていたことが分かる。全体の34%を占める「トランプ不支持のため投票」したと回答した有権者のうち、88%が民主党に投票していることから、トランプ氏の悪目立ちが民主党への投票を増加させた可能性が指摘できよう。
(図表4)この国が直面している最も重要な問題と投票先/「ロー対ウエイド」判決を覆した連邦最高裁の判決に関する気持ち また、中間選挙の争点として人工中絶問題が重要視されたことも民主党が善戦した要因と考えられる。出口調査で「この国が直面している最も重要な問題」に関する回答割合は「経済・職」が47%とトップとなった(図表4)。「経済・職」は前回の中間選挙では19%と「医療」(同26%)、「移民」(同23%)に次いで3番目となっていたが、米国でインフレが一時40年半ぶりの水準に上昇したほか、足元で米国経済の景気後退懸念が高まっていることを反映した結果とみられる。

一方、今回の中間選挙では「人工中絶」が10%と2番目となっており、前回の中間選挙の9番目(同2%)から大幅に躍進した。また、人工中絶と回答した有権者のうち78%が民主党に投票しており、人工中絶問題の争点化が民主党に追い風となったとみられる。今回、人工中絶が重要な争点となった理由は、アメリカ合衆国憲法により保障された権利として認定された1973年の「ロー対ウエイド」判決を連邦最高裁判所が22年6月に覆す判断を示したことだ。実際に、出口調査で連邦最高裁の判決に対して「不満/怒り」を感じたとの回答が6割近い水準に上っており、このうち68%が民主党に投票したようだ。
(出口調査結果):有権者属性毎に支持政党の乖離が大きいものの、前回中間選挙からは縮小
有権者の属性に基づく投票先をみると、性別では男性で共和党が民主党を11%ポイント上回るなど共和党支持が顕著となっている(図表5)。これに対し女性では両党支持が拮抗している。女性は18年の前回中間選挙では民主党が共和党を15%ポイント上回っていたため、今回の中間選挙では民主党の支持が大幅に低下した一方、共和党が支持を伸ばして乖離幅が大幅に縮小した。
(図表5)2022年中間選挙の出口調査結果(政党別得票率)
年齢別でも18歳から49歳までの投票先として民主党が共和党を上回る傾向は変わらないものの、前回の中間選挙に比べて民主党がすべての年齢層で支持を下げたことが分かる。

人種別では白人男性、女性とともに共和党が民主党を上回っている一方、白人以外では男女ともに民主党が高くなっており、白人と非白人で支持政党が大きく異なる状況となっている。もっとも、こちらも前回中間選挙からの比較では共和党が支持を伸ばしている。

最後に居住地域別では、都市部では民主党が圧倒的に支持されている一方、郊外では両党が拮抗しているほか、小都市、地方では共和党が民主党を上回る状況となっている。居住地域別でも前回中間選挙からすべての地域で共和党が支持を伸ばしている。

このため、中間選挙では民主党が善戦したものの、出口調査からはあらゆる属性で共和党が支持を伸ばしていた状況が確認できる。

3.経済政策への影響および今後の注目材料

3.経済政策への影響および今後の注目材料

(ねじれ議会の影響):党派性が強まっている中で議会が機能不全に陥る可能性
来年からの新議会(第118議会)では上下院で多数政党の異なるねじれ議会となる。米議会の党派性が強まっている中、ねじれ議会では、両党の利害対立から上下院で法案を通過させることが非常に困難になることが見込まれる。

ここで議員の過去の投票行動から各議員の党派性を推計するDW-NOMINATEスコアを確認すると、共和党議員はより保守的に、民主党議員はよりリベラルな投票行動になっていることが示されており、両党のギャップが大きくなっていることが分かる(図表6)。

実際に、オバマ前大統領が成立させたオバマケア(ACA)、トランプ前大統領が成立させた税制改革法、バイデン大統領が成立させた米国救済法、インフレ削減法(IRA)などの重要法案では、いずれも与党のみの賛成で成立させていることが証左と言えよう。

また、法案成立数の推移をみると、ねじれ議会では法案成立数が低下する傾向がみられる。オバマ前政権の最初のねじれ議会(第112議会)では、与野党の対立激化から2年間の法案成立数が僅か284本に留まったほか、第113議会でも296本に留まった。また、トランプ政権下の第116議会でも344本と1期目前半(第115議会)の443本から大幅に減少したことが分かる(図表7)。
(図表6)米連邦議会における党派性/(図表7)米議会における法案成立数
新議会では24年の大統領選挙を控えて与野党対立の激化が予想されており、ねじれ議会で与野党が政策合意できず政治が機能不全となることが懸念される。
(経済政策への影響):国防予算以外の歳出拡大や企業、富裕層向け増税の実現は困難
バイデン政権は22年8月に歳出面では気候変動対策や医療保険制度改革法の延長、歳入面では法人税の15%最低税率の導入や処方箋薬の薬価制度改革などを盛り込んだインフレ削減法を成立させた。同法は元々下院で可決した歳出規模およそ2兆ドルのビルドバックベター法から民主党内の合意を優先して、家計や教育、介護支援に加え、企業、富裕層に対する課税強化などの主要な政策を除いており、バイデン政権は引き続きこれらの政策の実現を目指している。

一方、下院共和党はインフレ高進の要因をバイデン政権による大規模な歳出拡大としており、インフレ抑制のためにも社会保障などの歳出削減を目指す方針を明確にしている。また、成長戦略としてトランプ政権時代に成立した税制改革法で2025年までの時限措置となっている所得税率の引下げ、標準控除率の引下げ、非公開企業に対する20%の控除などについて恒久化することを目指している。

来年1月以降のねじれ議会により、バイデン政権が実現を目指す社会保障の拡充のための歳出拡大、企業や富裕層向けの課税強化策は下院共和党の反対により実現が困難となった。一方、下院共和党が実現を目指す歳出削減や減税の恒久化も上院民主党の反対や大統領の拒否権行使により実現は一筋縄ではいかないだろう。

また、米国経済の景気後退リスクが高まっている中で、景気後退が深刻化した場合に新型コロナ感染拡大時にみられたような超党派による迅速な経済対策が実施される可能性は著しく低下した。共和党にとって景気対策を実現することで24年の大統領選挙に向けてバイデン政権の成果となることを回避するほか、景気悪化をバイデン政権による失政と非難することができるため、景気後退の非難が共和党に向けられない限り、経済対策を実現するインセンティブは希薄となっているためだ。

一方、中国に対する強硬政策や基本的な方針としてのウクライナ支援策などは超党派で一致しており、関税政策も含めた対中政策やウクライナ支援策の継続方針については新議会でも継続されるとみられる。また、これらの地政学的リスクが強く意識される中、国防関連予算の増額についても超党派で合意する可能性が高い。

最後に、米国政治で経済に影響を与える可能性がある当面の注目材料としては、以下に示すように現議会(レイムダックセッション)での23年度歳出法案審議と23年夏場に抵触するとみられる連邦債務上限の引上げ問題が挙げられる。
(当面の注目材料(1)):政府閉鎖を回避するための12月16日期限の23年度予算審議
12月16日に23年度の暫定予算の期限が到来する。現議会は暫定予算の期限切れに伴う政府機関の一部閉鎖を回避するために、新たな暫定予算や会計年度末までの統合歳出法を成立させる必要がある。与党民主党は来年7-9月期に抵触が見込まれる連邦債務上限の引上げを含めた年度末までの統合歳出法を可決したい意向を示しているものの、共和党が反対する意向を示しているため、超党派で合意することは困難となっている。一方、民主党は財政調整措置を活用して民主党のみの単独過半数で債務上限を引上げることも可能だが、同措置を活用するにはこれらの措置を盛り込んだ予算決議を成立させる必要がある。しかしながら、予算決議を含むこれらの措置には2週間程度の期間が必要となるため、既に審議日数的に厳しく実現が困難となっている。

このため、現時点で23年度予算審議は非常に不透明となっており、政府閉鎖リスクが燻っている。
(当面の注目材料(2)):23年7-9月期に抵触が見込まれる連邦債務上限の引上げ問題
米国債の発行上限額を定めた法定債務上限は現状で31.4兆ドルとなっている(図表8)。連邦債務残高は増加基調が持続しており、債務上限に抵触する時期は23年7-9月期とみられている。このため、米議会はそれまでに債務上限を引き上げるか、または債務上限の不適用期限を設定するなどの対応を行う必要がある。
(図表8)連邦法定債務上限および債務残高 仮に、与野党対立による政治の機能不全から債務上限が引上げられないまま政府の資金が枯渇した場合には、米国債が最悪デフォルトする可能性がある。実際に、11年には与野党対立から審議が難航し、デフォルトの一歩手前まで状況が悪化した。

新議会で下院議長となることが有力視されている共和党少数党院内総務のケビン・マッカーシー議員は来年以降に歳出削減を実現するために民主党との交渉材料として債務上限の引上げ問題を使うことを明言しており、債務上限問題を政治問題化することに懸念が広がっている。民主党は前述のように政治問題化を避けるために現議会での債務上限引き上げを実現したい意向だが、実現は困難となっており、米国債のデフォルトリスクも絡んで新議会での債務上限引き上げ問題の動向が注目される。

現状で債務上限抵触に伴うデフォルトリスクが高いとはみられないが、デフォルト懸念が広がるだけでも金融市場が混乱するため、景気後退が懸念される実体経済へ更なる打撃となろう。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年11月24日「Weekly エコノミスト・レター」)

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