2022年11月08日

ランキング考-「トップ10入りしたい」心理とは?

基礎研REPORT(冊子版)11月号[vol.308]

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

人は常に社会で比較にさらされている。運動会の徒競走、期末テストの成績、営業担当の売上、お年寄りの体力年齢など、人は生まれてから死ぬまでさまざまな比較にさらされる。多くの人を一度に比較するには、ランキングが適している。今回はランキングについて考えてみたい。

◇ ランキングの要件

ランキングは、いつでも作成できるわけではない。完備、非対称的、推移的の3要件がある。完備とは、ランキングの対象から2つを取り出したときに、その優劣が定まること。比較できないものではランキングは作れない。非対称的とは、2つのものが同等ということがないこと。これは、同順位を避けるための要件となる。推移的とは、比較対象のA、B、Cについて、AがBに勝り、BがCに勝る場合には、AはCに勝ること。じゃんけんの手のような三すくみは適さない。

ランキングを作る際は、レーティングによる評価が行われることが多い。レーティングとは、共通の尺度を用いて各項目に点数などを付与して比較することで、客観的なものと主観的なものがある。通常は、両者が混じり合ったものとなる。

客観的な評価は、例えば身長や体重のように評価が測定者によらない。これに対して、文化・芸術など定量化が困難な分野では、評価をする側の主観に基づいて評価が行われることとなる。

◇ 役に立つレーティングとは

レーティングはランキング作成に役立つが、常に機能するとは限らない。測定尺度には、いくつかの種類があるためだ。ハーバード大学の心理学者スタンレー・スティーブンス教授によれば、名義、順序、間隔、比率の4種類があるという。

名義尺度は、言葉で表現するもの。例えば、花の美しさの表し方には「奇麗」「優美」「可憐」などがあるが、「奇麗」が「可憐」に勝るわけではない。順序尺度は、順序付けはできるが、どれぐらい違うのかは測れないもの。例えば、剣道の段位では初段よりも二段のほうが強いが、差を量で表すことは難しい。間隔尺度は、違いを数量で表示できるが比率には意味がないもの。例えば、摂氏37度は36度よりも高いが、36分の37倍高いわけではない。比率尺度は、違いの比率に意味があるもの。時間や重さ等の物理量が該当し、絶対温度もこれにあてはまる。

このうち、名義尺度は、ランキングには向かない。順序尺度はランキング作成が可能だが、同じ順序は同順位となる。間隔尺度や比率尺度を用いたレーティングによって、ランキングが可能となる。

◇ 「トップ10入りしたい」心理

ランキングには、順位付けという機能のほかに、トップグループをわかりやすくリストアップするという役割もある。特に「トップ10」は多用される。

ヒット曲や新車販売台数などのランキングでは、よくトップ10が用いられる。この場合、第8位、第9位などの順位は重要ではなく、トップ10入りすることこそがステータスを表す大切なこととなる。そのため、トップ10圏外となる第11位はどうしても避けたい、との心理が働く。

また、ランキングに関するオリンピックなどのメダリストの心理研究も有名だ。金メダリストは当然気分がよい。その反面、第2位の銀メダリストは、金メダリストとの比較で惨めな気持ちになりやすい。一方、第3位の銅メダリストは、第4位以下との比較で満足しやすいという。

ランキングをどうとらえるか、人間心理には順位とは別の意味もあるといえる。

◇ ランキングが影響をもたらすことも

ランキングが、物事の変化を増幅させることもある。例えば、大学ランキングで、順位が上がった大学では受験者数が増えて学力レベルが上がるという。その結果、その後のランキングがさらに上昇するという好循環が起こる。反対に、順位が下がると、悪循環に陥る恐れもある。

また、ランキングにより、測定尺度の活用が歪むこともある。評価を受ける側では、評価要素にばかり目が向くようになり、それ以外の要素への関心は薄れる。

アメリカの社会科学者ドナルド・キャンベルは、定量的指標が(ランキングに)用いられるようになるほど、社会に弊害をなす傾向がある(「キャンベルの法則」といわれる)といった趣旨の指摘を行っている*。

その典型例として、旧ソビエト社会主義における計画経済が取り上げられる。工業の生産目標は、品質や利用者の満足度は問わずに、製品や材料の重さだけで測定された。その結果、重いシャンデリアや、重い鉄の土台が付いた機械がたくさん作られるようになったという。

今度何かのランキングを目にしたら、それがどういう人間心理や社会的影響をもたらすか、考えてみるのもよいだろう。
 
* “Assessing the Impact of Planned Social Change”(Donald T. Campbell, Dec. 1976)
 他の参考文献は「ランキング考ー『トップ10入りしたい』心理とは?」篠原拓也(研究員の眼, 2022年10月21日)に記載
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2022年11月08日「基礎研マンスリー」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【ランキング考-「トップ10入りしたい」心理とは?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

ランキング考-「トップ10入りしたい」心理とは?のレポート Topへ