2022年10月14日

2023年度税制改正-人への投資のメリハリ、自動車産業の位置付け

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

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1――今年度も、効果は限定的か? 

ここ数年、税制改正の決まり文句は「効果は限定的」。今年は、違う評価になるか注目される。

今年議論される改正項目は、人への投資、脱炭素、自動車、NISA、ストックオプションなど[図表1]。金融市場では、年末に策定する「資産所得倍増プラン」や、その目玉である「NISA」や「金融所得課税」に注目が集まっている。ただ、海外目線で「投資対象」という意味では、日本企業や日本経済の復活が、期待できる税制改正となるかがカギを握る。
[図表1]今年議論されそうな税制項目

人への投資に注目

2――人への投資に注目、メリハリの効いた骨格は維持できるか?

「人への投資」は、デジタル、脱炭素、スタートアップ、科学技術と並び、岸田政権の看板政策「新しい資本主義」の重点分野。ただ、企業が従業員の能力開発に費やす規模(対GDP比)でみると、日本の人材投資は欧米と10倍以上の開きがある[図表2]。
[図表2]国内総生産のうち、企業の能力開発費の割合
政府はこの現状を変えるため、従業員へのスキルアップ研修などの「学び直し」を行い、生産性向上に取り組む企業に対して減税を実施することを検討している。

自民党の宮沢洋一税制調査会長は、今回の税制改正で『人への投資に大規模な減税をしたい』と述べる一方、『法人税を増やして、人への投資をやった企業に回す』と発言している。
[図表3]企業が保有する現預金と法人実効税率の推移
この発言の背景には、歩みが遅い企業への苛立ちも感じられる。現在、日本の法人実効税率は、法人税(国税)と法人事業税(地方税)などを合わせた29.74%。政府は2015年度以降、税率を段階的に引き下げてきたが、減税分が賃上げや設備投資などに回る状況とはなっていない。

ある程度一律を大事にした税制から「アメとムチの政策」へとシフトする。反発はあるだろうが、硬直した状況に変化を生むためにも、メリハリの効いた骨格は維持されるよう期待したい。

3――ガソリン高対策

3――ガソリン高対策とEV推進減税の矛盾をどうするか?

脱炭素に向かう取組みは、ロシアによるウクライナ侵略で状況が様変わりしたとは言え、政策の中心課題であることに変わりはない。政府のイニシアチブのもと、2050年カーボンニュートラルに向けたロードマップを着実に前進させる必要がある。その具体策を如何に実施していくか。ここに自動車税も絡んでくる。脱炭素における最大の産業テーマが電気自動車(EV)戦略。海外では、EV購入の支援策やガソリン車規制の導入で、着実にEV普及率(新車の販売台数におけるEVの割合)を伸ばす中、日本の出遅れが目立っている[図表4]。世界の潮流への対応を日本も迫られている。
[図表4]新車販売台数におけるEV自動車の比率
今年は、自動車税、軽自動車税、エコカー減税(自動車重量税)と自動車関連税制の見直しが行われる。自動車税は、大別すると「車体課税」と「燃料課税」の2つがある。財政面を考えると、ガソリン不要のEVが普及すれば、燃料課税からの税収は減少する。道路整備に必要な道路財源の減少は必至だ。また、EVの自動車重量税はエコカー減税で減免されるが、電池を搭載したEVはガソリン車より重く、道路に掛かる負担は大きくなる。このような矛盾をどう整理するのか。財政規模が大きいだけに、そのシフトは方々に影響を及ぼすことになる。また、物価高対策で始まったガソリン補助金は、石油業界への支援策でもある。これをEV支援とどう整合させるかもポイントになりそうだ。

国際情勢が緊迫化する中、今年は防衛費増額の財源問題に焦点が当たる。例年のように「法人税減税の効果は限定的」となるなら、最高益を更新する企業の法人税は防衛費にという流れは必至だろう。
 
 

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総合政策研究部   常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

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