コラム
2022年06月08日

分配重視が薄れた骨太の方針~勝負は参院選後「黄金の3年」

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任   矢嶋 康次

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1――成長へ改革、分配重視の色はかすむ

6月7日、経済財政運営の指針となる「骨太の方針」と、その中核政策である「新しい資本主義」の実行計画が閣議決定された。

岸田首相は、就任以前から「新しい資本主義」の看板を掲げ、1980年代頃からの新自由主義で進んだ中間層の没落や格差拡大を修正するため、分配重視に舵を切ることを表明していた。しかし、今回示された「新しい資本主義」のグランドデザインとその実行計画を見ると、分配の色がかすむ一方、成長戦略への目配りがされたものになっている。

個人の金融資産を貯蓄から投資へと誘導する「資産所得倍層」プラン。その策定を年末までに行うことを明記し、安倍政権が推し進めた経済政策を踏襲。官民一体の大規模投資を謳う、成長を重視した内容だ。

投資の重点先として「人」「科学・イノベーション」「スタートアップ」「グリーン・デジタル」の4つを掲げ、人への投資にはNISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)の制度改革を検討する。4つの投資項目に絞るなど、メリハリの効いた成長戦略だと言えるだろう。ただ、その実現に向けた政策の大枠は、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の3本の矢が堅持され、第2次安倍内閣以降の「アベノミクス」の骨格が維持されている。

また、財政面では昨年まで明記されていた、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、以下PB)の2025年度黒字化という表現が消えている。新自由主義の転換を掲げた岸田政権ではあるが、従来のばらまき型の政策に戻りそうな動きである。

日本経済は、円安や資源高でインフレが進み、金融資産の目減りは、多くの国民にとって問題になってきている。日本経済や企業に元気がないと、この資金は海外に向かう。国民の資産防衛という観点では自然な動きと言えるが、国策としては国内での投資を促し資産市場を活気づける必要がある。

そのためには、国内投資への優遇税制拡充の検討も必要だが、何よりも国内企業の生産性を上げる規制緩和や構造改革などが必要である。成長戦略を強く叫んできた安倍・菅両政権の下でも、日本の生産性は高まらなかった。構造改革や規制緩和が不十分であったからに外ならない。今回の実行計画にも生産性向上といった言葉は並ぶが、その覚悟を示す政策は見えて来ない。

2――勝負は、参院選後の「黄金の3年」で何ができるか?

7月の参議院選挙に勝利すれば、衆議院の解散がない限り、岸田政権は大きな国政選挙がない「黄金の3年」を手にする。選挙を意識することなく、国民に賛否のある問題に取り組めるチャンスである。実行計画の実効性とともに、もっと切り込んだ規制緩和や構造改革が実現されるか注目だ。

また、ロシアのウクライナ侵攻により、グローバル化から分断につながる動きなど、日本経済や企業の置かれた環境は激変している。大きな国家としてのビジョンの提示を、国民も企業も望み始めてもいる。岸田首相率いる宏池会の大先輩、大平正芳元首相は当時、今のアジア太平洋経済協力会議(APEC)につながる「環太平洋連帯構想」を提唱するなど、今に通じる中期の国家の姿を徹底的に議論し将来像を作り上げた。

今後10年、20年の後、日本はどこを目指すのか。強い国家ビジョンを提示できれば、日本の大きなかじ取りを担った政権として後世からも評価されるだろう。「黄金の3年」の運営が勝負である。

3――心配なのは、政策効果が出て来るまで時間が許されるか?

ネガティブ評価になるとすれば、市場が「黄金の3年」になっても何も決められない、変わらないと岸田政権を評価しはじめた時だろう。その試金石は、夏場に始まる2023年度予算の概算要求だ。

今回の骨太の方針では、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が『国防予算をGDP比2%以上とする基準を満たすという制約へのコミットメント』を強化したことに触れ、防衛費の大幅増を示唆したとも受け取れるものとなっている。仮に文言どおり引き上げるとすれば、年間で数兆円単位の追加的な財源が必要になる可能性があると読める内容だ。

一方、2023年度予算においては、『本方針および骨太方針2021に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進』との文言もある。骨太方針2021では、歳出の⽬安について『2022年度から2024年度までの3年間、これまでと同様の歳出改革努力を継続』することが掲げられている。2019年度から2021年度までの3年間、社会保障関係費以外の一般歳出の合計は、約1,000億円の増加に留めることが方針としてあった。この文言からは、防衛費の伸びはほとんどないと読める。骨太には、両極端な思惑が詰め込まれている。政治的な妥協の産物だ。

この矛盾は来年度予算の概算要求で、実際に予算に反映されるときに露呈する。予算は数字であり、言わずもがなひとつしかない。数字(予算)には、岸田政権のカラーが色濃く出る。逆に出ないとすれば、市場は「結局何も決められない、変わらない」とネガティブな評価に傾きやすい。

また、評価が政策の導入時期に左右されることもあるだろう。市場はNISA拡大に期待を高めるが、これには年末の与党税制改正大綱に反映して、来年の通常国会に法改正することが必要であり、実際にスタートするのは再来年くらいになるだろう。このとき、米国や中国が景気後退になり、急激な円高になった場合、またはインフレ対応が失敗した場合など、景気が下向いているとすれば、株を購入するタイミングとしては最悪になりかねない。

こうなると岸田政権には打つ手が無くなる。総花的で時間がかかり何もしないという、ネガティブな政権評価に株式市場は豹変する。そうなれば「黄金の3年」という貴重な時間が奪われかねない。いずれにせよ重要なのは、参院選後に岸田政権がどう様変わりし、看板政策である「新しい資本主義」の実効性を如何に高められるかである。
 
 

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総合政策研究部   常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

(2022年06月08日「研究員の眼」)

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