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■金融ジェロントロジーに期待される今後の取組視点
第一に挙げられることは、認知判断能力の評価手法の確立である。多くの金融機関では、これまで主に「年齢」等をもとに、可能な手続き範囲を限定するなどの運用を行ってきていると思われるが、高齢者の状態や能力は極めて多様であって本来年齢ではかれるものではない。まだまだ能力に問題ない高齢者に対して、手続きを制限する、あるいは認知判断能力を問う(疑う)ことは、本人(高齢顧客)の心象を損ねることになる。そもそも年齢だけで判断すること自体に大きな問題がある。今に始まった問題ではないが、この問題を曖昧なままにしておくことは、顧客はもちろん金融機関にとっても課題がある。認知症をはかる評価方法はあるがそれ自体を用いることの問題もあるため、どのような評価軸及び方法で客観的にその人の認知判断能力をはかるか、金融ジェロントロジーに課せられた大きな課題である。
金融庁が指摘しているように、今後本格化する高齢化の進展を見据えれば、地域の福祉関係機関等と金融機関は密接に連携していくことが求められる。認知症高齢者の生活を支えていく上で、「お金」に関する諸問題の解決に金融機関が果たすべき役割は非常に大きい。金融機関側において、明らかに認知判断能力が低下していると見受けられる顧客と接した場合(特に身寄りがない顧客の場合)、地域の福祉機関との連携が必要とされる。ところが国が進める地域包括ケアシステム(予防、医療・介護・住まい・生活支援を包括的に対応する地域システム)においても、特に金融機関との連携について明確なルールなどは示されていない。この点の連携のあり方、市場のルールをどう構築していくか、社会として解決が求められる重要な課題と言える。
前述のとおり、これから「85歳以上1000万人」の時代を迎える。独り身の高齢者、身寄りのない高齢者も増えていく可能性が高まる。そうしたなかで高齢者に何かあった場合、また認知判断能力が低下した場合に、誰がその人の生活を支えていくのか、福祉関係者に頼るにもマンパワーの面で限界がある。そこで期待されるのが、金融機関を中心とした民間企業等主導のサポートである。買物や病院の付き添いであったり、様々な手続きを代行する、お亡くなりになられた後の住居や遺産の整理など、家族が当たり前のようにしてくれることを代行するコンシェルジュのようなサービスである。一部の保険会社で導入され始めているが、まだまだサービスの質両ともに不十分と言える。今後こうした視点に立ったサービスのさらなる開発と市場への導入が期待される。
以上、雑駁な内容にとどまるが、これからの人生100年時代、本格的な超高齢社会を迎えるなかで、金融ジェロントロジーが果たすべき役割は非常に大きい。筆者も各関係機関(大学)の研究活動に参画するなかで、“認知症になっても安心して暮らせていける未来社会”の創造に貢献していきたいと考えている。
* 本稿は、前田展弘「金融ジェロントロジーと共済・保険業界に求められる取り組みの視点」(一般社団法人日本共済協会「共済と保険」、Vol.762、2022年6月)を加筆・一部改編したものである。
生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任
前田 展弘 (まえだ のぶひろ)
研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン
03-3512-1878
- 2004年 :ニッセイ基礎研究所入社
2006~2008年度 :東京大学ジェロントロジー寄付研究部門 協力研究員
2009年度~ :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
(2022年度~ :東京大学未来ビジョン研究センター・客員研究員)
2021年度~ :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター・訪問研究員
内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)
財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)
東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)
神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017年度~)
生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)
全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)
一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)
一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)
【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他
(2022年09月09日「研究員の眼」)
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