2022年09月07日

オフィス市場は調整継続。ホテルは国内観光需要が回復に向かう-不動産クォータリー・レビュー2022年第2四半期

基礎研REPORT(冊子版)9月号[vol.306]

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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国内経済は、2022年4-6月の実質GDPが3四半期連続のプラス成長となり、コロナ禍前の水準を回復した。

住宅は価格上昇が続くなか、販売状況は一部に減速の兆候も見られる。東京オフィス市場は調整局面が継続している。ホテル市場は日本人観光客数が順調に回復している。首都圏の物流市場はリーシングの進捗ペースがやや鈍化している。2022年第2四半期の東証REIT指数は▲1.8%下落した。

1―経済動向と住宅市場

2022年4-6月期の実質GDP(1次速報)は前期比+0.5%(前期比年率+2.2%)となった。対面型サービスを中心に民間消費が高い伸びとなり、好調な企業業績を背景に設備投資も増加しプラスに寄与した。

4-6月期の鉱工業生産指数は前期比▲2.8%と3四半期ぶりの減産となった[図表1]。
[図表1]鉱工業生産(前期比)
世界的な半導体不足と供給制約に中国のロックダウンが加わり、自動車や自動車産業の影響を受けやすい鉄鋼等がマイナスとなった。

住宅市場では、2022年4-6月の新設住宅着工戸数は前年同期比▲1.3%、首都圏のマンション新規発売戸数は+3.1%、首都圏の中古マンション成約件数は▲10.1%となった。住宅価格の上昇が続くなか、一部では市場価格が需要サイドの考える適正水準から乖離しはじめている可能性もある。また、5月の首都圏中古マンション価格は23カ月連続で上昇し、1年間の上昇率は+9.9%となった[図表2]。
[図表2]不動研住宅価格指数(首都圏中古マンション)

2―地価動向

地価は住宅地を中心に堅調に推移している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2022年第1四半期)」によると、全国80地区のうち上昇が「46」、横ばいが「21」、下落が「13」となり下落地点が減少した[図表3]。

同レポートでは、「住宅地はマンションの販売状況が前期に引き続き堅調で上昇を維持し、商業地は低金利環境の継続等により横ばいから上昇、又は下落から横ばいに転じた地区がある」としている。
[図表3]全国の地価上昇、下落地区の推移(比率)

3―不動産サブセクターの動向

1│オフィス
三鬼商事によると、6月の東京都心5区の空室率は6.39%(前月比+0.02%)、平均募集賃料(月坪)は23ヶ月連続下落の20,273円となった。他の主要都市については、新規供給の少ない札幌と仙台の空室率が低下する一方、横浜や名古屋、大阪、福岡の空室率は上昇基調にある[図表4]。また、募集賃料は仙台を除いて前年比プラスを確保している。
[図表4]主要都市のオフィス空室率
また、成約賃料データに基づく「オフィスレント・インデックス(第2四半期)」によると、東京都心部Aクラスビル成約賃料は29,073円(前期比▲0.4%)、空室率は3.8%(前期比+0.5%)となった[図表5]。今後は、来年にオフィスの大量供給を控えるなか、企業のオフィス戦略見直しに伴う集約移転の動向など、需給環境に注意したい。
[図表5]東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
2│賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、住居タイプによって差が生じている。2022年第1四半期は前年比でシングルタイプが▲1.0%、コンパクトタイプが▲1.9%、ファミリータイプが+6.2%となった[図表6]。
[図表6]東京23区のマンション賃料(タイプ別)
また、6月末の高級賃貸マンションの空室率は3.7%(前年比▲0.9%)、賃料は19,208円(前年比+3.9%)と2期連続で前年比プラスとなった[図表7]。
[図表7]高級賃貸マンションの賃料と空室率(東京主要3区)
3│商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、都市部の人流回復を受けて百貨店を中心に売上が回復している。商業動態統計などによると、4-6月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+25.7%と大幅に増加し、スーパーが▲1.5%、コンビニエンスストアが+3.1%となった。

ホテルセクターは、6月10日に訪日外国人観光客の受け入れを再開したが期待ほど客数が戻らない一方、日本人観光客数は順調に回復している。宿泊旅行統計調査によると、4-6月累計の延べ宿泊者数は2019年対比で▲29.1%減少し、このうち外国人が▲93.9%、日本人が▲12.2%となった[図表8]。
[図表8]延べ宿泊者数の推移(月次、2019年比、2020年1月~2022年6月)
また、CBREの調査によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(6月末)は4.4%(前期比▲0.3%)、近畿圏の空室率は2.1%(前期比±0%)となった。

4―J-REIT(不動産投信)市場

第2四半期の東証REIT指数は3月末比▲1.8%下落した[図表9]。
[図表9]東証REIT指数の推移(2021年12月末=100)
J-REITによる第2四半期の物件取得額は1,116億円(前年同期比▲51%)、上期累計では4,718億円( ▲30%)となった。投資口価格が弱含みとなるなか、公募増資を伴う物件取得を見送るREITも多く、上期としては5,000億円を下回り、2012年以来の低い水準となった。

今年上期のJ-REIT市場を振り返ると、年明け以降、コロナ第6波にはじまり、米国の利上げ加速、ロシアによるウクライナ侵攻、世界経済の悪化と高インフレなど外部環境が急速に悪化し、東証REIT指数は一時▲10%を超えて下落した。しかし、NAV倍率で1倍を下回る水準では割安感などから押し目買いも入り、年初からの下落率は▲4.8%にとどまった。

6月末時点の上場銘柄数は61社、市場時価総額は16.3兆円(昨年末比▲4%)、運用資産額は21.6兆円(同+2%)となった。業績面では、予想1口当たり分配金は横ばいとなる一方、1口当たりNAVは昨年末比+2%増加した。デット資金の調達環境は、世界的に長期金利が急上昇するなか投資法人債の発行についても様子見となり、上期は360億円( 昨年上期822億円)にとどまった。
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2022年09月07日「基礎研マンスリー」)

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