2022年09月05日

成約事例で見る東京都心部のオフィス市場動向(2022年上期)-「オフィス拡張移転DI」の動向

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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32022年上期はB・Cクラスビルで底打ちし上昇に転じる
オフィス拡張移転DIをビルクラス別8に確認すると、2021年上期まではAクラスビルの低下が目立った。しかし、Aクラスビルが2021年下期に60%台を回復し、BクラスビルとCクラスビルも2022年上期に底打ちし上昇に転じるなど、改善の動きが広がっている(図 7)。

2019年下期のAクラスビルのオフィス拡張移転DIは92%と、ほとんどが拡張移転であった。当時、IT企業を中心に企業の拡張意欲が強く、人材確保や働き方改革を目的としたオフィス移転も多く見られるなか、立地やスペックに勝るAクラスビルがこれら需要の受け皿となった。

コロナ禍以降、Aクラスビルのオフィス拡張移転DIは、2020年下期に25%と大幅に低下し、2021年上期も39%と低迷した。先行き不透明感が強いなか、Aクラスビルへの拡張移転を決定する企業は少なく、グループ会社の集約など縮小移転が増加した。

2021年下期は、「情報通信業」を中心に拡張移転が増加し、そのニーズを吸収したAクラスビルのオフィス拡張移転DIは64%に上昇した。しかし、2022年上期は61%とやや頭打ちとなった。企業によるオフィス戦略見直しの動きが続くなか、2022年に入り、ロシアのウクライナ侵攻や欧米中銀の金融引き締め、インフレなど、外部環境の悪化が逆風となった可能性がある。

また、他のビルクラスの動き(2019年下期から2022年上期)を見ると、Bクラスビル(85%→67%→68%→56%→52%→55%)とCクラスビル(79%→65%→61%→64%→53%→65%)は、2021年下期まで緩やかに低下したものの、2022年上期は底打ちし上昇に転じている。
図表7:ビルクラス別のオフィス拡張移転DIの推移(東京都心部)
 
8 各クラスは、三幸エステートの定義を用いる。三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している(詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2022」を参照)。
4|「丸の内・大手町」で企業の拡張移転意欲が高まる。その他のエリアも改善が拡がる
最後に、2022年上期のオフィス拡張移転DIをエリア別に確認する9。東京都心部16エリアにおいて、拡張移転の多かった上位5エリアは、第1位が「丸の内・大手町(オフィス拡張移転DI 74%)」となり、続いて「五反田・大崎・東品川(同72%)」、「内神田・外神田(同61%)」、「新橋・虎ノ門(同60%)」、「築地・茅場町・東日本橋(同59%)」の順となった(図表8)。

これに対して、縮小移転の多かった下位5エリアは、オフィス拡張移転DIが低い順に、「西新宿(オフィス拡張移転DI 50%)」、「浜松町・高輪・芝浦(同50%)」、「京橋・銀座・日本橋室町(同52%)」、「渋谷・桜丘・恵比寿(同56%)」、「麹町・飯田橋(同56%)」となった(図表9)。

このように、オフィス拡張移転DIは全てのエリアにおいて基準となる50%を上回った。業種別でみた動きと同様、オフィス拡張意欲の改善は幅広いエリアに広がっている。
図表8:オフィス拡張移転DIの上位5エリア(東京都心部)
図表9:オフィス拡張移転DIの下位5エリア(東京都心部)
2022年上期は、大規模ビルが集積する「丸の内・大手町」でオフィス拡張移転DIが上昇し、トップとなった。同エリアの内訳(拡張・同規模・縮小の比率、2021年下期→2022年上期)の推移をみると、「拡張53%→53%」、「同規模13%→41%」、「縮小33%→6%」となった(図表10)。拡張が横ばいとなるなか、縮小が大幅に低下したことで、オフィス拡張移転DIが上昇した。

また、これまで企業の拡張意欲が低迷していた「五反田・大崎・東品川」と「新橋・虎ノ門」で回復の動きが見られ、今回、上位にランクインした。
図表10:オフィス移転件数における拡張・同規模・縮小の比率(丸の内・大手町)
 
9 東京都心部の各16エリアの概要については、末尾の【参考資料2】「本稿の東京都心部16エリアと三幸エステート「オフィスレントデータ2022」記載エリアの対応表」を参照。

3――おわりに

3――おわりに

本稿では、オフィス拡張移転DIを業種別・ビルクラス別・エリア別に分析し、2022年上期のオフィス移転動向を確認した。そのなかで、

(1)オフィス拡張移転DIは、2021年第4四半期から上昇に転じ、2022年第1四半期と第2四半期も上昇し、企業のオフィス拡張意欲が緩やかに改善していること

(2)多くの業種・エリアにおいてオフィス拡張移転DIが上昇し、オフィス拡張の動きが「点」から「面」へ広がりを見せていること

(3)縮小移転の動きは落ち着きつつあるものの、コロナ禍を起点とした企業のオフィス再構築の動きは依然として継続していること

(4)Aクラスビルではオフィス拡張移転DIの上昇が頭打ちとなる一方で、BクラスビルとCクラスビルは底打ちして上昇に転じたこと

(5)エリア別では「丸の内・大手町」で企業の拡張意欲が高く、コロナ禍以降低迷していた「五反田・大崎・東品川」や「新橋・虎ノ門」で回復の動きがみられたこと

を確認した。

これまで一部の業種やエリアに限られていた企業の拡張意欲の改善は、「点」から「面」へ広がりを見せている。ただし、コロナ前と比較すると企業のオフィス需要は依然として力強さを欠く。2023年はオフィスビルの大量供給が予定されるなか、欧米中銀の金融引き締めやロシアのウクライナ侵攻、世界的なインフレを背景に景気後退への懸念もあり、オフィス市場の先行き不透明感は依然として強い。オフィス市場における変化を捉えるには、引き続き、データを丹念に確認していくことが求められる。

【参考資料1】 オフィス拡張移転DIについて

【参考資料1】 オフィス拡張移転DIについて

オフィス拡張移転DI10は、オフィス移転後の賃貸面積が移転前と比較して(1)拡張、(2)同規模、(3)縮小、した件数を集計し、次式により計算している。

オフィス拡張移転DI
=1.0×拡張移転件数構成比+0.5×同規模移転件数構成比+0.0×縮小移転件数構成比

オフィス拡張移転DIは0%から100%の間で変動し、基準となる50%を上回ると企業の拡張意欲が強いことを表し、50%を下回ると縮小意欲が強いことを表す。例えば、図表 11のように、オフィス移転が合計500件あり、そのうち拡張移転が150件、同規模移転が300件、縮小移転が50件の場合、オフィス拡張移転DIは60%となり、企業の拡張意欲が強いことを表す。
図表 11:「オフィス拡張移転DI」の例
 
10 DIはDiffusion Index(ディフュージョン・インデックス)の略、変化の方向性を示す指標のことである。DIの代表例としては、経済分野では日本銀行の 全国企業短期経済観測調査(日銀短観)や内閣府の景気動向指数、また不動産分野では土地総合研究所が公表する不動産業業況等調査(不動産業業況指数)がある。

【参考資料2】 本稿の東京都心部16エリアと三幸エステート「オフィスレントデータ2022」記載エリアの対応表

本稿では、東京都心部の16エリアについて分析を行った。同16エリアは、三幸エステート「オフィスレントデータ2022」における東京都心部の29エリアを、図表12の通り、一部集約したものである。
図表 12:本稿における東京都心部16エリアと三幸エステート「オフィスレントデータ2022」の東京都心部29エリアの対応
 
 

(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2022年09月05日「不動産投資レポート」)

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