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- 成約事例で見る東京都心部のオフィス市場動向(2022年上期)-「オフィス拡張移転DI」の動向
2022年09月05日
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三幸エステート株式会社(本社:東京都中央区、取締役社長:武井重夫)と株式会社ニッセイ基礎研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:手島恒明)は、賃貸オフィスの成約事例の各種データを活用し、オフィス市場における企業の移転動向などに関する共同研究を行っている。
本稿では、共同研究の一環として算出した「オフィス拡張移転DI」を中心に、2022年上期の東京オフィス市場の動向を概観する。オフィス拡張移転DIは、0%から100%の間で変動し、基準となる50%を上回ると企業の拡張意欲が強いことを表し、50%を下回ると縮小意欲が強いことを示す1。
オフィス市況はコロナ禍により調整局面を迎え、2020年第4四半期からの1年間は、オフィス拡張移転DIが51%~53%の水準で低迷した。しかし、2021年第4四半期は57%と上昇に転じ、2022年第1四半期は59%、第2四半期は61%と緩やかに改善が進んでいる。以下では、2022年上期のオフィス成約面積の動向を振り返ったのち、オフィス拡張移転DIを業種別・ビルクラス別・エリア別に分析し、企業のオフィス移転動向を確認する。
本稿では、共同研究の一環として算出した「オフィス拡張移転DI」を中心に、2022年上期の東京オフィス市場の動向を概観する。オフィス拡張移転DIは、0%から100%の間で変動し、基準となる50%を上回ると企業の拡張意欲が強いことを表し、50%を下回ると縮小意欲が強いことを示す1。
オフィス市況はコロナ禍により調整局面を迎え、2020年第4四半期からの1年間は、オフィス拡張移転DIが51%~53%の水準で低迷した。しかし、2021年第4四半期は57%と上昇に転じ、2022年第1四半期は59%、第2四半期は61%と緩やかに改善が進んでいる。以下では、2022年上期のオフィス成約面積の動向を振り返ったのち、オフィス拡張移転DIを業種別・ビルクラス別・エリア別に分析し、企業のオフィス移転動向を確認する。
※ 本稿は三幸エステート「オフィス ユーザー レポート」を加筆・修正の上、転載したものである。
1 算出方法については、末尾の【参考資料1】「オフィス拡張移転DIについて」を参照。
1――オフィス成約面積は2期連続でコロナ前の水準を上回る
2 三幸エステート「オフィスマーケット調査月報」を参照。
3 過去平均は、2017年から2019年の平均。
4 過去平均は、2017年から2019年の平均。
2――オフィス拡張の動きは「点」から「面」へ広がりをみせる
2021年下期はコロナ禍を発端としたオフィス戦略の見直しによる縮小移転の動きが続くなか、拡張移転は業種では「情報通信業」、エリアでは「渋谷・桜丘・恵比寿」など一部に限られていた。しかし、2022年上期は、多くの業種・エリアにおいてオフィス拡張移転DIが上昇し、オフィス拡張の動きは「点」から「面」へ広がりをみせている。以下では、東京都心部のオフィス拡張移転DIの推移を確認したのち、業種別・ビルクラス別・エリア別の順に分析する5。
5 東京都心部は、東京都心5区主要オフィス街および周辺区オフィス集積地域(「五反田・大崎」「北品川・東品川」「湯島・本郷・後楽」「目黒区」)。詳細は、三幸エステート「オフィスレントデータ2022」 23ページを参照。
5 東京都心部は、東京都心5区主要オフィス街および周辺区オフィス集積地域(「五反田・大崎」「北品川・東品川」「湯島・本郷・後楽」「目黒区」)。詳細は、三幸エステート「オフィスレントデータ2022」 23ページを参照。
1|オフィス拡張移転DIは緩やかに上昇
東京都心部のオフィス拡張移転DIは、オフィス市況が活況であった2019年は70%台で推移していた(図表3)。2018年以降、新築オフィスビルの大量供給が続いたにもかかわらず、企業の旺盛なオフィス拡張意欲がオフィス床の供給を吸収し、空室率は2019年1月に初めて1%を下回り、その後もタイトな需給バランスが継続した。
2020年にコロナ危機が訪れると、オフィス拡張移転DIは69%(2020年第1四半期)から51%(第4四半期)へと急低下した。その後、空室率はやや遅れて上昇に転じ、2020年末に2.36%へ上昇した。
2021年に入り、オフィス拡張移転DIは51%~53%(第1四半期~第3四半期)と、企業の拡張・縮小意欲が拮抗する水準で横ばいに転じた。オフィス拡張移転DIの低下に歯止めがかかったものの、オフィス床を解約する動きも多く、空室率は2021年10月に4.58%(ボトム対比+3.79%)と大幅に上昇した。その後、オフィス拡張移転DIは2021年第4四半期から上昇に転じ、2022年第1四半期は59%、第2四半期は61%となった。空室率はいったん上昇に一服感が見られたものの、新築ビルが空室を抱えて竣工したことや依然として解約等の影響が大きく、2022年第1四半期以降は再び上昇圧力が強まり、2022年7月は5.14%(ボトム対比+4.35%)となっている。
東京都心部のオフィス拡張移転DIは、オフィス市況が活況であった2019年は70%台で推移していた(図表3)。2018年以降、新築オフィスビルの大量供給が続いたにもかかわらず、企業の旺盛なオフィス拡張意欲がオフィス床の供給を吸収し、空室率は2019年1月に初めて1%を下回り、その後もタイトな需給バランスが継続した。
2020年にコロナ危機が訪れると、オフィス拡張移転DIは69%(2020年第1四半期)から51%(第4四半期)へと急低下した。その後、空室率はやや遅れて上昇に転じ、2020年末に2.36%へ上昇した。
2021年に入り、オフィス拡張移転DIは51%~53%(第1四半期~第3四半期)と、企業の拡張・縮小意欲が拮抗する水準で横ばいに転じた。オフィス拡張移転DIの低下に歯止めがかかったものの、オフィス床を解約する動きも多く、空室率は2021年10月に4.58%(ボトム対比+3.79%)と大幅に上昇した。その後、オフィス拡張移転DIは2021年第4四半期から上昇に転じ、2022年第1四半期は59%、第2四半期は61%となった。空室率はいったん上昇に一服感が見られたものの、新築ビルが空室を抱えて竣工したことや依然として解約等の影響が大きく、2022年第1四半期以降は再び上昇圧力が強まり、2022年7月は5.14%(ボトム対比+4.35%)となっている。
2|オフィス拡張意欲の改善が幅広い業種に広がる
コロナ禍が本格化した2020年上期以降、テレワーク活用に積極的な企業の多い業種を中心にオフィス戦略を見直す動きが顕在化し、オフィス拡張移転DIは低下した。引き続き、オフィス床削減の動きがみられるものの、2022年上期のオフィス拡張移転DIは全ての業種で50%以上となり、オフィス拡張意欲の改善は幅広い業種に広がっている。
主要業種におけるオフィス拡張移転DIの推移をみると、「学術研究・専門/技術サービス業」が2020年上期に43%(2019年下期81%)と大きく低下し、基準となる50%を割り込んだ(図表4)6。続いて、「製造業」が2020年下期に38%(同60%)、「情報通信業」が2021年上期に36%(同86%)へ低下した。これらの業種は、コロナ禍においても業績が総じて底堅く推移したが、複数の企業がオフィス戦略を早々に見直して、縮小移転や解約などオフィス床を削減する方針を発表している7。その他の主要業種では、「卸売業・小売業」が2020年下期に47%(同67%)、「その他サービス業」が2021年上期に46%(同60%)に低下したが、前述の3業種と比較すると、オフィス拡張移転DIの低下は小幅であった。
その後、2021年下期に、デジタル化加速の恩恵を受ける「情報通信業」が上昇に転じ52%まで回復した。2022年上期は、「製造業」が50%、「学術研究・専門/技術サービス業」が55%に上昇するなど、全ての業種で50%以上となった。ただし、「卸売業・小売業」は、50%と前期からやや低下した。度重なるコロナ感染拡大の波により内需の回復が遅れるなか、円安やエネルギー・食料などの価格高騰への懸念が高まっていることもあり、「卸売業・小売業」ではオフィス需要が伸び悩んでいる可能性がある。
コロナ禍が本格化した2020年上期以降、テレワーク活用に積極的な企業の多い業種を中心にオフィス戦略を見直す動きが顕在化し、オフィス拡張移転DIは低下した。引き続き、オフィス床削減の動きがみられるものの、2022年上期のオフィス拡張移転DIは全ての業種で50%以上となり、オフィス拡張意欲の改善は幅広い業種に広がっている。
主要業種におけるオフィス拡張移転DIの推移をみると、「学術研究・専門/技術サービス業」が2020年上期に43%(2019年下期81%)と大きく低下し、基準となる50%を割り込んだ(図表4)6。続いて、「製造業」が2020年下期に38%(同60%)、「情報通信業」が2021年上期に36%(同86%)へ低下した。これらの業種は、コロナ禍においても業績が総じて底堅く推移したが、複数の企業がオフィス戦略を早々に見直して、縮小移転や解約などオフィス床を削減する方針を発表している7。その他の主要業種では、「卸売業・小売業」が2020年下期に47%(同67%)、「その他サービス業」が2021年上期に46%(同60%)に低下したが、前述の3業種と比較すると、オフィス拡張移転DIの低下は小幅であった。
その後、2021年下期に、デジタル化加速の恩恵を受ける「情報通信業」が上昇に転じ52%まで回復した。2022年上期は、「製造業」が50%、「学術研究・専門/技術サービス業」が55%に上昇するなど、全ての業種で50%以上となった。ただし、「卸売業・小売業」は、50%と前期からやや低下した。度重なるコロナ感染拡大の波により内需の回復が遅れるなか、円安やエネルギー・食料などの価格高騰への懸念が高まっていることもあり、「卸売業・小売業」ではオフィス需要が伸び悩んでいる可能性がある。
このように「卸売業・小売業」を除いて、オフィス拡張移転DIは上昇傾向にあるが、オフィス需要は依然として力強さを欠く。オフィス移転件数における拡張比率をみると、「情報通信業」が2021年下期に46%となり、規模拡大や新規事業の立ち上げなどを理由に拡張移転が増加した(図表 5)。しかし、2021年末から米国株式市場を中心にIT企業の株価が調整色を強め、日本においてもスタートアップの資金調達環境が悪化するとの懸念もあり、2022年上期は44%へ低下した。他の主要業種(2021年下期→2022年上期)をみても、「その他サービス業(36%→50%)」と「製造業(23%→32%)」は10%程度上昇、「学術研究・専門/技術サービス業(30%→33%)」は小幅上昇、「不動産業・物品賃貸業(47%→42%)」と「卸売業・小売業(33%→24%)」は低下するなど、業種によってバラツキが見られる。
一方、オフィス移転件数における縮小比率をみると、2022年上期は全ての主要業種で低下した。縮小比率が低い順にその変化(2021年下期→2022年下期)を確認すると、「不動産業・物品賃貸業(33%→11%)」<「その他サービス業(27%→19%)」<「学術研究・専門/技術サービス業(45%→24%)」<「卸売業・小売業(29%→24%)」<「情報通信業(42%→32%)」<「製造業(38%→32%)」となった(図表6)。したがって、2022年上期のオフィス拡張移転DIの上昇は、縮小移転の減少効果が大きいことがわかる。コロナ禍で落ち込んだ景気が底入れし、「オフィス不要論」は行き過ぎとの見方が強まるなか、縮小移転の動きは落ち着きつつあるようだ。ただし、「情報通信業」や「製造業」では縮小比率がコロナ前の水準を上回っており、ワークプレイス再構築によるオフィス縮小が一巡したと結論付けるのは時期尚早だと思われる。
6 業種別のオフィス拡張移転DIは、十分なデータ数を確保するため、東京都心部ではなく東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)を対象とした。
7 製造業では富士通や東芝、学術研究・専門/技術サービス業ではデロイトトーマツグループ、情報通信業ではZホールディングスやDeNAなどが、ワークプレイス再構築に伴うオフィス縮小を発表している。
(2022年09月05日「不動産投資レポート」)
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経歴
- 【職歴】 2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行) 2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX) 2015年9月 ニッセイ基礎研究所 2019年1月 ラサール不動産投資顧問 2020年5月 ニッセイ基礎研究所 2022年7月より現職 【加入団体等】 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター ・日本証券アナリスト協会検定会員
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