2022年08月10日

オフィス市場は調整継続。ホテルは国内観光需要が回復に向かう-不動産クォータリー・レビュー2022年第2四半期

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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(2) 賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、住居タイプによって差が生じており大型面積の住居で賃料の上昇が目立つ。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2022年第1四半期は前年比でシングルタイプが▲1.0%、コンパクトタイプが▲1.9%、ファミリータイプが+6.2%となった(図表-11)。また、高級賃貸マンションの空室率(2022年6月末)は3.7%(前年比▲0.9%)、賃料は19,208円/月坪(前年比+3.9%)と2期連続で前年比プラスとなった(図表-12)。
図表-11 東京23区のマンション賃料(タイプ別)
図表-12 高級賃貸マンションの賃料と空室率
(3) 商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターは、都市部の人流回復を受けて百貨店を中心に売上が回復している。商業動態統計などによると、2022年4-6月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+25.7%と大幅に増加し、スーパーが▲1.5%、コンビニエンスストアが+3.1%となった(図表-13)。6月単月では、百貨店が+11.6%(4カ月連続プラス)、スーパーが▲2.1%(3カ月連続マイナス)、コンビニエンスストアが+3.8%(4カ月連続プラス)となっている。
図表-13 百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの月次販売額(既存店、前年比)
ホテルセクターは、日本人の宿泊需要が回復に向かっている。宿泊旅行統計調査によると、2022年4-6月累計の延べ宿泊者数は2019年対比で▲29.1%減少し、このうち外国人が▲93.9%、日本人が▲12.2%となった(図表-14)。6月10日に訪日外国人観光客の受け入れが再開されたが、期待ほど客数は戻っておらずインバウンド中心のエリアは引き続き厳しい状況にある一方、自粛制限のない日本人観光客数は順調に回復している。また、STR社によると、6月のホテルRevPARは2019年対比で全国が▲39.6%、東京が▲50.0%、大阪が▲54.9%となった。
図表-14 延べ宿泊者数の推移(月次、2019年対比、2020年1月~2022年6月)
物流賃貸市場は、首都圏では空室率が低下し、近畿圏ではタイトな需給環境が続いている。シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2022年6月末)は前期比▲0.3%低下の4.4%となった(図表-15)。今期は新規供給9.2万坪に対して新規需要が10.2万坪と上回ったため、空室率が低下した。EC事業者や食品スーパーを中心にテナント需要は底堅いものの、新規供給の増加により物件の選択肢が多くリーシングの進捗ペースはやや鈍化している。今後については、多くの新規物件が竣工予定のため2023年にかけて需給の緩和基調が予想されるとのことである。近畿圏の空室率は2.1%(前期比±0%)と低い水準を維持している。大阪中心部は空室がなく賃料も上昇基調にある。

また、一五不動産情報サービスによると、2022年4月時点の東京圏の募集賃料は4,650円/月坪(前期比+0.6%)となった。
図表-15 大型マルチテナント型物流施設の空室率

4. J -REIT(不動産投信)市場

4. J -REIT(不動産投信)市場

2022年第2四半期の東証REIT指数(配当除き)は3月末比▲1.8%下落した。セクター別では、オフィスが▲1.4%、住宅が+3.6%、商業・物流等が▲3.5%となった(図表-16)。高インフレを背景に、米国をはじめ各国の中央銀行が金融引き締め姿勢を強めるなか、世界的な景気後退が懸念され、成長期待の高かった物流セクターが軟調に推移した。
図表-16 東証REIT指数の推移(2021年12月末=100)
J-REITによる第2四半期の物件取得額(引渡しベース)は1,116億円(前年同期比▲51%)、上期累計(1-6月)では4,718億円(▲30%)となった(図表-17)。投資口価格が弱含みとなるなか、公募増資を伴う物件取得を見送るREITも多く、上期としては5,000億円を下回り、2012年以来の低い水準となった。

6月末時点のバリュエーションは、NAV倍率が1.02倍、分配金利回りが3.7%、10年国債利回りに対するイールドスプレッドは3.5%となっている。
図表-17 J-REITによる物件取得額(四半期毎)
今年上期のJ-REIT市場を振り返ると(図表-18)、年明け以降、コロナ第6波にはじまり、米国の利上げ加速、ロシアによるウクライナ侵攻、世界経済の悪化と高インフレなど外部環境が急速に悪化し、東証REIT指数は一時▲10%を超えて下落した。しかし、NAV倍率で1倍を下回る水準では割安感などから押し目買いも入り、年初からの下落率は▲4.8%にとどまった。6月末時点の上場銘柄数は61社、市場時価総額は16.3兆円(昨年末比▲4%)、運用資産額は21.6兆円(同+2%)となった。業績面では、市場全体の予想1口当たり分配金は横ばいとなる一方、1口当たりNAVは保有不動産の価格上昇を受けて昨年末比+2%上昇した。デット資金の調達環境は、世界的に長期金利が急上昇するなか投資法人債による資金調達についても様子見となり、上期の発行額は360億円(昨年上期822億円)にとどまった。
図表-18  2022年上期のJ-REIT市場(まとめ)
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2022年08月10日「不動産投資レポート」)

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