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シナリオから見た気候変動問題-気候変動のシナリオ数は増加を続けている

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――はじめに
IPCCは、これまで数年ごとに、議論の内容を評価報告書の形に取りまとめて公表してきた。直近では、昨年から今年にかけて第6次評価報告書の公表が3つの作業部会で完了しており、今年9月にはそれらをもとにした2022年版の統合報告書が公表される予定となっている。
報告書では、毎回、気候変動の見通しについて、複数のシナリオが示されてきた。それらのシナリオには、気候変動問題に対するそのときどきの考え方が映し出されている。本稿では、これまでのIPCCのシナリオの変遷をみることを通じて、この30年あまりの気候変動問題を振り返ることとしたい。
2――IPCC
IPCCは、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって1988年に設立された政府間組織だ。2021年8月現在、195の国と地域が参加している。IPCCの目的は、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることとされている。世界中の科学者の協力を得て、出版された文献や科学誌に掲載された論文等に基づいて、定期的に報告書を作成し、気候変動に関する最新の科学的知見の評価を提供している。2007年には、気候変動問題に関する活動を受賞理由として、ノーベル平和賞を受賞している1。
1 地球温暖化への警鐘を鳴らしたことなどの功績により、元アメリカ副大統領のアル・ゴア氏とともに受賞。
IPCCには、3つの作業部会と1つのインベントリータスクフォースが置かれている。第1作業部会(WG1)は、気候システムと気候変動の自然科学的根拠についての評価。第2作業部会(WG2)は、気候変動に対する社会経済と自然システムの脆弱性、気候変動がもたらす好影響・悪影響、気候変動への適応のオプションについての評価。第3作業部会(WG3)は、温室効果ガスの排出削減など気候変動の緩和のオプションについての評価を、それぞれ行う。また、インベントリータスクフォース(TFI)は、温室効果ガスの国別排出目録(インベントリー)作成手法の策定や普及などの役割を担っている。2
日本では、WG1は気象庁(国土交通省)、WG2は環境省、WG3は経済産業省が担当している3。
2 「IPCCとは」(気象庁HP)より。https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/index.html
3 TFIは、環境省と経済産業省が担当している。
4 例えば、2018年には「1.5℃特別報告書」、2019年には「土地関係特別報告書」「海洋・雪氷圏特別報告書」「温室効果ガスインベントリに関する『2019年方法論報告書』」が公表されている。
3――各報告書でのシナリオ
1|FAR : 4つのシナリオを設定
FARでは、気候変動が地球規模の影響をもたらし、国際協力を必要とする課題であることが強調された。そこでは、4つのシナリオが示された。温室効果ガスの排出が続く「従来通り(business as usual)」のケースをシナリオAとし、排出量を削減した場合のシナリオB~Dが設定された。各シナリオは、放射強制力(radiative forcing)の増加により定量的に表示された。ここで、放射強制力とは、二酸化炭素やエアロゾルの濃度の変化など、何らかの要因により地球気候系に変化が起こったときに、その要因が引き起こす放射エネルギーの収支の変化量として定義されるものだ。単位面積当たりのワット数(W/m2)で表される5。
5 放射強制力の厳密な定義にはいくつか種類がある。IPCCでは、「成層圏調整後放射強制力(stratospheric-adjusted radiative forcing)と呼ばれる定義を用いている。「この定義では,瞬時放射強制力を計算した後に,成層圏とその上層が放射平衡になるように気温場を調整する.そのように成層圏の温度構造を調整した上で,再び産業革命以前と現在の二酸化炭素が引き起こす対流圏における放射収支の変化を計算し,その変化を対流圏界面で算定したものを放射強制力と呼ぶ.」(「放射強制力」中島映至・竹村俊彦(日本気象学会 新用語解説, 2009年12月)より引用)とされている。
FARでは、シナリオAと、B~Dとの間の乖離が大きかった。このため、シナリオA近辺で追加のシナリオを設定して詳細な分析を行うことが求められた。FARの増補では、6つのシナリオが示された。これらは、FARのシナリオAのアップデート版とされている。IS92aとIS92bはシナリオAより排出量がやや減少、IS92cとIS92dは明確に減少、IS92eとIS92fは増加するシナリオとなっている。
各シナリオは、人口、経済成長などの要素について前提を置いたうえで、設定されている。温室効果ガスの排出については、CO2の年間排出量などいくつかの切り口で示されている。
SARでは、地球温暖化が起こりつつあることが明らかにされた。たとえば、FARのIS92aシナリオのもとで温室効果ガスが増え続けると、2100年の世界平均気温は1990年に比べて約2℃上昇するとされた。そのうえで、温室効果ガスがある水準に安定化した場合について論じられるようになった。
そこで、CO2年間排出量がIS92aシナリオのように増大し続ける代わりに、ある時点以降減少に転じて安定化するケースのシナリオが設定された。具体的には、2つのプロファイルについて、炭素集中度が安定化する水準での二酸化炭素濃度に応じて、S450~S1000の5つのシナリオが設けられた。
(2022年08月02日「基礎研レター」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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