2022年07月19日

パンデミック、ウクライナ危機以降、世界保険市場はどうなっていくのか(2032年までの見通し)

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1――はじめに

ドイツ最大の保険グループであるアリアンツは、2022年5月24日付で、2032年までの世界保険市場の見通しについて公表した1。昨年の見通しでは、2021年からの10年間は、世界保険市場について「黄金の10年間」とされていた2が、世界的なインフレの加速、ロシアのウクライナ侵攻等、政治・経済における不確実性が高まっている中で、今後の保険市場をどう予想しているのか、ここではその概要について紹介したい。
 
1 Allianz Global Insurance Report2022 A decisive decade 24 May 2022(以下、Allianz Global Insurance Report2022)。
2 ALLIANZ INSURANCE REPORT2021 BRUISED BUT NOT BROKEN 12 May 2021(以下、Allianz Insurance Report2021)では、保険業界にとって2021年からの10年を“THE GOLDEN 2020s”とし、力強い成長が続くことを予測していた。なお、昨年公表された同見通しについては、小著「2021年以降の世界保険市場見通し」『保険・年金フォーカス』(2021年7月20日)にて概要につき紹介している。

2――2021年の世界保険市場の状況

2――2021年の世界保険市場の状況

上記レポートによれば、2021年の世界の保険料収入の増加率は、前年比5.1%であり、生損保の内訳では、生保4.4%、損保6.3%となった(図1)。新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ2020年3からは大きく回復している。地域別にみると、米国9.3%(うち生保8.8%、損保9.7%)が世界を牽引しており4、新型コロナウイルス危機から市場が著しく回復していることの証左だとされている。
【図1】2021年収入保険料増加率
2021年保険料収入の増加分に占める地域別のシェアでは、生損保とも北米が半分以上(生保55.0%、損保64.5%)を占めており、北米と西ヨーロッパで約8割に達している(図2)。(図3)の通り、ここのところ、収入保険料増加は、アジアが世界を牽引してきた事を考えると、2021年の状況は、特徴的だといえよう。
【図2】2021年保険料収入増加分 地域別構成比の推移
【図3】2011年-2021年保険料収入増加分 地域別構成比の推移
(図4)は、収入保険料総額に占める地域別構成比を示したものである。10年前と比較すると、北米が占める割合は変わらない(35.2%)が、西ヨーロッパならびに日本は減少している一方で、アジア(中国、日本除く)と中国が増加しており、特に中国の増加は6.5%から12.0%と著しい。
【図4】2021年、2011年の保険料総額 地域別構成比の推移
 
3 Allianz Insurance Report2021によれば、2020年の世界の保険料収入の増加率は、全世界▲2.1%(生保▲4.1%、損保1.1%)、米国▲2.5(生保▲5.1%、損保0.2%)、西ヨーロッパ▲5.1%(生保▲7.8%、損保0.5%)、日本▲7.7%(生保▲9.6%、損保▲1.1%)と軒並みマイナスとなる一方、中国4.2%(生保5.4%、損保2.2%)、アジア(日本除き)2.9%(生保2.9%、損保3.1%)であった。
4 中国の2021年収入保険料増加率は▲1.7%となっているが、Allianz Global Insurance Report 2022によれば、破綻した保険会社のデータが統計に含まれない等、ルールの変更によるものであり、実質的な成長率は4%近いと推測している。

3――2022年以降、10年間の見通し

3――2022年以降、10年間の見通し

2022年以降も好調が続く、と思われたが5、2月に勃発したロシアのウクライナ侵攻によって、世界経済は現在、石油・ガスを中心とした商品価格の上昇と不安定性を伴う重大な供給不足に直面している。このように、ロシアのウクライナ侵攻、金利の上昇、新型コロナウイルスの継続的な脅威等、現在は大きな不確実性に覆われているものの、同レポートでは、将来に対してそれほど悲観的ではない、と言う。生保ビジネスでは、高齢化の進行により、死亡保障や退職後への備えに対するニーズは先進国・新興諸国双方でも高まることが予想されるうえ、新型コロナウイルス感染拡大を契機としたリスク意識の高まり、インフレに端を発したゼロ金利解除により恩恵を受けること、また、損保ビジネスは、極端な気象現象の増加による保険金請求額の増加ならびに保険料の高騰、加えて、気候変動への取り組みにより、社会・経済が変化していく中で、リスク保障ニーズが高まるであろうことがその背景である。

(図5)は、地域別に見た2022年から2032年の保険料収入平均増加率の予測である。全世界では4.8%(生保4.9%、損保4.6%)と予測しているが、中でもアジア、中国の伸びが著しい。
【図5】2022-2032年収入保険料平均増加率(見通し)
2032年における収入保険料総額に占める地域別構成比を予測したのが、(図6)である。
【図6】2021年、2032年の保険料総額 地域別構成
新型コロナウイルス感染拡大前の2019年には、中国が米国を抜き2030年頃に収入保険料で世界最大になる、との予測がアリアンツ含め多く見られたが、新型コロナウイルス感染拡大以降の状況を勘案すると、2050年頃になるだろうとされている6
 
5 前掲注釈2参照。
6 Allianz Insurance Report2021によれば、2031年の予測値は(米国)生保899、損保822、(中国)生保914、損保406(単位はいずれも10億ユーロ)となっている一方、Allianz Global Insurance Report2022による2032年の予測値は、(米国)生保1033.8、損保1001.9、(中国)生保692.3、損保357.4(単位は同上)となっている。

4――おわりに

4――おわりに

以上、アリアンツが公表した2022年以降10年間の世界保険市場見通しについて、その概要を紹介してきた。ロシアのウクライナ侵攻を契機に、世界の政治・経済は不確実性を増しているが、リスク認識の高まりもあり、世界的に見れば、保険ビジネスは、好調な10年間となるというのが、アリアンツの予測だといえよう。また、中国が収入保険料で世界最大になるのは、これまで言われてきた2030年頃ではなく、2050年頃になると予測していることは、注目すべきポイントと考えられる。

我が国のみならず、世界の保険市場がどうなっていくのか、今後も引き続き注視していきたい。
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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴
  • 【職歴】
    1989年 日本生命入社
    1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
    1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

(2022年07月19日「保険・年金フォーカス」)

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