2022年07月05日

韓国の生命保険市場の現状-2020年と2021年のデータを中心に-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

文字サイズ

1――加入状況

韓国の生命保険協会が2021年12月に発表した「生命保険性向調査」によると、2021年における生命保険の世帯加入率は81.0%で、2018年の86.0%に比べて5.0%ポイントも低下した。世帯主の年齢階級別の加入率は50代が91.4%で最も高く、次いで40代(85.1%)、30代(75.2%)、60代以上(63.7%)、20代(56.8%)の順であった。一方、生命保険加入世帯の平均加入件数は2021年現在4.3件で2018年の4.5件に比べて0.2件減少していることが明らかになった(図表1)。
図表1 韓国における生命保険の世帯加入率や生命保険加入世帯の平均加入件数の動向
最近加入した生命保険商品は、疾病保障保険(42.8%)、実損填補型医療保険(22.7%)、災害傷害保険(16.6%)、死亡保障保険(6.2%)が上位4位を占めた。生命保険の加入目的は「医療費保障」が75.8%で最も高く、次いで「家族の生活保障」(44.3%)、「一時的な所得喪失に対する対策」(17.4%)の順で、2018年の調査結果と大きく変わっていない。一方、生命保険に対する満足度は82.7%で2018年の87.8%に比べて5.0%ポイント低下した。

2――収入保険料推移

2――収入保険料推移

2020年の収入保険料は、特別勘定の収入保険料(39.8兆ウォン)が対前年比6.0%減少したものの、一般勘定の収入保険料(79.8兆ウォン)が対前年比6.6%増加した結果、対前年比2.0%増加した(119.6兆ウォン)。一般勘定の収入保険料を保険種類別に見ると、「死亡保険」(44.3兆ウォン、対前年比4.2%増加)が最も多く、次いで、「生死混合保険」(17.7兆ウォン、同21.6%増加)、「生存保険」(17.1兆ウォン、同0.2%減少)、「団体保険」(0.7兆ウォン、同2.1%減少)の順であった。
図表2 収入保険料の推移
2020年時点の収入保険料の払込方法は、月納が76.9%で最も多く、次いで、一時納(12.7%)、年納(10.2%)の順であり、月納の割合が毎年低下傾向を見せていることに比べて、年納の割合は増加傾向にあることが分かる(図表3)。
図表3保険料の払込方法の推移
景気敏感に反応する初回保険料(2020年)は、バンカシュアランスチャネルの貯蓄保険と退職年金の新規契約の増加により対前年比32.8%も増加した(2020年の初回保険料総額は16.5兆ウォン)。初回保険料の販売金額を販売チャネル別に見ると、バンカシュアランスチャネルが44.8%で最も多く、次いで、保険会社の職員及び役員による職員販売チャネル(37.8%)、保険外交員(11.1%)、代理店(6.1%)等の順であった。2回以降の保険料の払込方法は、自動振り込みが 69.8%で最も多く、直納(11.2%)、バンカシュアランス(6.6%)等を大きく上回った。
図表4 払込形態別収入保険料

3――保険商品

3――保険商品

韓国における生命保険商品は基本的に生存保険、死亡保険、生死混合保険に分類される。生存保険は、被保険者が保険期間満期日まで生存した時にのみ、保険金が支払われる保険であるものの、現在、韓国で販売されている生存保険はほとんど被保険者が保険期間中に死亡しても死亡保険金を受け取ることができるように設計されている。代表的な生存保険の商品としては教育保険と年金保険がある。

死亡保険は生存保険とは反対に、被保険者が保険期間中に死亡した際に保険金が支給される保険である。この保険は保険期間をあらかじめ決めておいて被保険者が保険期間内に死亡した際、保険金を支給する定期保険と一定の期間を定めず、被保険者がいつ死亡しても保険金を支給する終身保険(終身保險)に分けられる。

生死混合保険は被保険者が一定期間内に死亡したときに死亡保険金を支給する定期保険と満期まで生存した時に満期保険金を支給する生存保険を合わせたものである。 つまり、生存保険と死亡保険の長所と短所を相互に補完したものとして死亡保険金の保障機能と生存保険の貯蓄機能を同時に兼ね備えた商品だと言える。図表5は、生命保険の種類別新規契約の動向を示しており、死亡保険の件数や金額が最も多いことが分かる。
図表5 生命保険の種類別新規契約の動向

4――販売チャネルと販売制度

4――販売チャネルと販売制度

生命保険の販売チャネルの推移を初回保険料を基準としてみてみると、過去には保険外交員による販売が多かったものの、バンカシュアランスが登場してからは保険外交員のシェアは低下傾向にある。2020年第2四半期におけるバンカシュアランスと保険外交員のシェアはそれぞれ55.2%と11.7%で前年同期に比べて4.9%ポイントと0.1%ポイント低下した。このように両販売チャネルのシェアが減少した理由は、新型コロナウイルスの感染拡大により対面より非対面の販売チャネルが強化された点が挙げられる。一方、2021年第2四半期にはバンカシュアランスのシェアが再び63.8%まで上昇した。その原因としては貯蓄保険の販売増加が考えられる。
図表6 生命保険の販売チャネルの推移(初回保険料基準)
保険商品販売における保険外交員のシェアが減少することにより、2008年に173,277人でピークであった保険外交員の数は2020年には112,780人まで減少した。さらに、最近は若者の保険外交員離れが続いており、保険外交員の高年齢化も進んでいる。つまり、保険外交員に占める30歳未満と30~39歳の割合はそれぞれ2011年の7.1%と28.3%から2020年には4.3%と14.0%に低下したことに比べて、50~59歳と60歳以上の割合は同期間に19.8%と2.6%から36.5%と13.9%に大きく上昇した。

若者が保険外交員になろうとしない理由は、韓国では保険外交員が個人事業主で働くケースが多く、安定的な収入が保障されていないからである。今後労働力人口の減少が予想される中で保険業界がどのように若手人材を確保するのか、また、どのような販売チャネルをより活用するのか注目したい。
図表7 保険外交員の年齢階層別割合

5――収支動向

5――収支動向

2020年における生命保険業界の当期純利益は約3.5兆ウォンで、前年と比べて10.8%増加した。図表8は2006年から2020年までの当期純利益を示しており、2010年に4兆ウォンまで増加した当期純利益が2013年には2.1兆ウォンまで減少したものの、その後は増減を繰り返している。
図表8 当期純利益の動向

6――結びに代えて

6――結びに代えて

新型コロナウイルスの影響が長期化する中、韓国における2021年の生命保険の総資産は992兆ウォンで、2020年の977兆ウォンに比べて1.5%増加した。しかし、生命保険の総資産は増えたものの、今後、韓国における生命保険市場の見通しは明るいとは言えない。若者の保険離れが続いており、合計特殊出生率が継続して低下しているからである。ちなみに2021年における韓国の合計特殊出生率は0.81(暫定)まで低下し、過去最低を更新した。韓国の生命保険業界は若者の保険離れと少子高齢化、そして人口減少にどのように対応するだろうか。韓国の生命保険業界の今後の対応に注目したい。

参考文献

日本語  
韓国語
  • 生命保険協会『生命保険Factbook』各年
  • 保険研究院「保険動向」各号
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2022年07月05日「保険・年金フォーカス」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【韓国の生命保険市場の現状-2020年と2021年のデータを中心に-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

韓国の生命保険市場の現状-2020年と2021年のデータを中心に-のレポート Topへ