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夏の参院選に思う~次の世代により良い社会を引き継ぐために~

総合政策研究部 取締役 部長 清水 勘
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1――はじめに
1 人口推計(2021年(令和3年)10月1日現在)の17、18歳男女計
2――国政選挙における年齢階層別動向
この棒グラフをみても分かる通り、20歳代と30歳代では投票者の割合が有権者の割合を下回り、投票には消極的(図表1、2)、40歳代になるとこの割合が拮抗し(図表3)、50歳代以降、中でも60歳代は投票に積極的という傾向が認められる(図表4、5、6)。又、この傾向は近年に限った話ではないこともこれら図表からわかる。勤労所得に生計を依存する現役世代に比べ、国の社会保障に依存する高齢者が国政選挙に関心を持つのは、今も昔も変わらないということなのだろう(図表7)。
次に、線グラフの傾きに注目したい。人口構成の変化がまともに現れる部分だ。言うまでもなく、現役世代の比率はこれまで一貫して低下してきた。少子高齢化の軌跡がここでも確認できる。将来人口推計を用いて今後の各年齢層の占める有権者の比率を求めても2045年までこの傾向は変わらず、70歳以上の比率は右肩上がりで増えていく一方だ。
多数決の選挙で若者が不利となる状況を打開するため、これまで様々な対応が検討されてきた。その中には高齢者の影響を抑えるために投票制度そのものを見直すというドラスティックな改革を求める主張も含まれる。しかし、いずれも具体的な取組みは実現していない。
2 総務省第31回~第49回衆議院議員総選挙年齢別投票率調査:本稿では改選頻度の多い衆院選のデータを用いた。
3――少数派である若者を守ることは民主主義を守ることにも通じる~次の世代により良い社会を~
問題はそれだけではない。極端に言えば、少子高齢化社会において、将来を担う次の若い世代は、常に少数派であり続ける。少数派を守ることは、多数決の原理による多数派の専制を防ぐ上でも重要な民主主義の支柱とされる。この原則に則り、社会は、少数派である次の世代をどう守るかということを考え続けなければならないはずだ。社会が守ってくれるという実感が芽生えなければ、次の世代はその社会に貢献することをやめてしまうだろう。それこそが民主主義の根幹を揺るがす大きな脅威なのかもしれない。
そう考えると、多数派である先代の人達が多少の犠牲を払っても3少数派である後代の人達により良い社会を残し、同じ様に後代の人達がそれを次の世代へ引継いでいけるような仕組みを導き出すことが、この少子高齢化社会を持続させる上でどうしても必要となってくる。これには世代の枠を超えた国民的な合意が必要だ。1人1票、多数決の原理の下で行われる選挙では、とりわけ多数派であり、社会の命運を決める立場にある高齢有権者の理解と寛容を無くして国民的合意形成はあり得ない。
また、その仕組みづくりが実現しても、人口の減少傾向が反転しなければ社会は衰退する。抜本的な人口対策も同時に考えなければならない。
3 世帯主が65歳以上の世帯の家計収支は、全体では黒字だが、その7割強を占める無職世帯は赤字で、貯蓄を取り崩しながら生計を維持している。従って、多数派だから、高齢者だからとひとくくりにして一方的に犠牲を強いることのない丁寧な仕組み作りも同時に必要である。
4――おわりに
これらプロセスを通じて、全ての世代が社会に守られているという確信を持てるような政策の早期実現に期待したい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年05月20日「研究員の眼」)

03-3512-1811
- 【職歴】
1987年に日本生命保険に入社。リーマンブラザーズ派遣、外務省派遣を経て国際投資部、ニューヨーク、シンガポールの各投資現地法人にて外国株式投資、外国債券投資、外国為替取引に従事。
08年より米国保険現地法人CIOを担当した後、11年より特別勘定運用部長、14年より金融投資部長を歴任し、16年より現職。
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