コラム
2022年05月20日

夏の参院選に思う~次の世代により良い社会を引き継ぐために~

総合政策研究部 取締役 部長   清水 勘

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1――はじめに

7月に参議院選挙を控え、選挙に向けた動きも徐々に活発になってきた。2015年の改正公職選挙法施行で18歳選挙権が実現し、その翌年の第24回参議院選挙に約240万人が新たに有権者として選挙に参加した。今年予定される第26回参議院選挙では、約230万人の18歳、19歳有権者が投票を行うことになっている1。少子化が進む中で若者の選挙権拡大を図る取り組みは評価できるが、それでもこれは有権者全体の2%に過ぎない。少子高齢化の進展で、1人1票と多数決の原理で国政が決まる選挙では高齢者の政治影響力は増加の一途をたどっている。本稿ではその現状を振り返ってみた。
 
1 人口推計(2021年(令和3年)10月1日現在)の17、18歳男女計

2――国政選挙における年齢階層別動向

図表1~6は、総務省ホームページで公表されている国政選挙のデータ2を用いて、年齢階層別に全投票者に占める割合と全有権者占める割合を線グラフで示したものだ。図中の棒グラフは、前者から後者を引いた差で、各年齢層がどれだけ与えられた選挙権を行使しているのかを測ろうとしている。ここでは前者が後者を上回れば投票に積極的、その逆は消極的と判断している。

この棒グラフをみても分かる通り、20歳代と30歳代では投票者の割合が有権者の割合を下回り、投票には消極的(図表1、2)、40歳代になるとこの割合が拮抗し(図表3)、50歳代以降、中でも60歳代は投票に積極的という傾向が認められる(図表4、5、6)。又、この傾向は近年に限った話ではないこともこれら図表からわかる。勤労所得に生計を依存する現役世代に比べ、国の社会保障に依存する高齢者が国政選挙に関心を持つのは、今も昔も変わらないということなのだろう(図表7)。

次に、線グラフの傾きに注目したい。人口構成の変化がまともに現れる部分だ。言うまでもなく、現役世代の比率はこれまで一貫して低下してきた。少子高齢化の軌跡がここでも確認できる。将来人口推計を用いて今後の各年齢層の占める有権者の比率を求めても2045年までこの傾向は変わらず、70歳以上の比率は右肩上がりで増えていく一方だ。
図表1 20歳代の全有権者/全投票者に占める割合/図表2 30歳代の全有権者/全投票者に占める割合/図表3 40歳代の全有権者/全投票者に占める割合/図表4 50歳代の全有権者/全投票者に占める割合/図表5 60歳代の全有権者/全投票者に占める割合/図表6 70歳以上の全有権者/全投票者に占める割合
図表7 実収入の構成
10歳刻みでは細かいので、ここで賃金カーブがピークを打つ50歳代以上の年齢階層とそれ以前の20~40歳代の2グループに分けてみた(図表8)。人口ボーナス期から人口オーナス期に日本が転換した1990年代を境に両者の関係は逆転し、2021年では20~40歳代層は50歳代以上層を2割ほど下回っている。前出の将来人口推計を用いてその将来を描くとその差は2045年までに3割近くにまで拡大することになる。
図表8  20~40歳代層と50歳代以上層の全有権者/全投票者に占める割合
この間、20歳代の全有権者に占める比率は現在の12%から2045年には10%へ低下することが見込まれる。しかもこの年齢層はとりわけ投票に消極的な世代だ(図表1)。「若者よ、投票に行こう」と言ったところで、最早、高齢者層が多数派である現実を覆す原動力にはなり得ない。

多数決の選挙で若者が不利となる状況を打開するため、これまで様々な対応が検討されてきた。その中には高齢者の影響を抑えるために投票制度そのものを見直すというドラスティックな改革を求める主張も含まれる。しかし、いずれも具体的な取組みは実現していない。
 
2 総務省第31回~第49回衆議院議員総選挙年齢別投票率調査:本稿では改選頻度の多い衆院選のデータを用いた。

3――少数派である若者を守ることは民主主義を守ることにも通じる~次の世代により良い社会を~

誰もがいつかは高齢者になる。今、20歳代の人達も2045年には50歳代手前となり、若い頃に疎遠だった投票所に足しげく通うようになるはずだ。多数派の高齢者に社会の借金をつけ回されたと感じていたかつての若者達が、今度は自分達が更に少ないその次の世代につけを回すことになるかもしれない。未来永劫にこのつけ回しができれば良いが、世話をされる側がする側を常に上回る少子高齢化社会では、社会保障費の増大で社会そのものが持続できなくなる恐れがある。

問題はそれだけではない。極端に言えば、少子高齢化社会において、将来を担う次の若い世代は、常に少数派であり続ける。少数派を守ることは、多数決の原理による多数派の専制を防ぐ上でも重要な民主主義の支柱とされる。この原則に則り、社会は、少数派である次の世代をどう守るかということを考え続けなければならないはずだ。社会が守ってくれるという実感が芽生えなければ、次の世代はその社会に貢献することをやめてしまうだろう。それこそが民主主義の根幹を揺るがす大きな脅威なのかもしれない。

そう考えると、多数派である先代の人達が多少の犠牲を払っても3少数派である後代の人達により良い社会を残し、同じ様に後代の人達がそれを次の世代へ引継いでいけるような仕組みを導き出すことが、この少子高齢化社会を持続させる上でどうしても必要となってくる。これには世代の枠を超えた国民的な合意が必要だ。1人1票、多数決の原理の下で行われる選挙では、とりわけ多数派であり、社会の命運を決める立場にある高齢有権者の理解と寛容を無くして国民的合意形成はあり得ない。

また、その仕組みづくりが実現しても、人口の減少傾向が反転しなければ社会は衰退する。抜本的な人口対策も同時に考えなければならない。
 
3 世帯主が65歳以上の世帯の家計収支は、全体では黒字だが、その7割強を占める無職世帯は赤字で、貯蓄を取り崩しながら生計を維持している。従って、多数派だから、高齢者だからとひとくくりにして一方的に犠牲を強いることのない丁寧な仕組み作りも同時に必要である。

4――おわりに

折しも2019年9月に全世代型社会保障検討会議が発足し、その最終報告である「全世代型社会保障改革の方針」が、令和2年12月に閣議決定された。そこでは『少子高齢化と同時にライフスタイルが多様となる中で、全ての世代が安心できる「全世代型社会保障制度」を目指し、働き方の変化を中心に据えながら、社会保障全般にわたる改革を検討する。』という方向性が打ち出され、2021年11月にはその実現に向けて全世代型社会保障構築会議が発足した。また。2021年6月に公表された経済財政運営の基本方針2021では「成長を生み出す4つの原動力」のひとつとして「少子化の克服、子供を産み育てやすい社会の実現」が掲げられた。

これらプロセスを通じて、全ての世代が社会に守られているという確信を持てるような政策の早期実現に期待したい。
 
 

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総合政策研究部   取締役 部長

清水 勘 (しみず かん)

研究・専門分野
経済政策研究担当

(2022年05月20日「研究員の眼」)

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