コラム
2021年01月22日

未婚化と雇用 ~コロナ禍で求められる雇用の確保~

総合政策研究部 取締役 部長 清水 勘

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1――人口減少と少子化

日本の国内総人口は、2008年をピークに減少に転じ、2019年10月時点で1億2,616万人に減少した。

国立社会保障・人口問題研究所の中位推計によれば、2053年には1億人の大台を割り込みその後も減少の一途を辿る見通しだ(図表1)。出生数も減少を続けており、当初、2021年に90万人を割り込むと予想されていた年間出生数が2年前倒しで2019年に割り込むこととなった(図表2)。
図表1- 日本の人口推計/図表2- 年次別にみた出生数

2――日本の独特な未婚事情

図表3- 性別,50 歳時の未婚割合 少子化の背景のひとつに未婚化がある。戦前からバブル期まで概ね5%を下回る水準で推移してきた50歳時の未婚割合は、バブルが崩壊した90年代から一貫して上昇を続けている(図表3)。この時期は「失われた20年」と言われる低成長時代で、1990年代後半~2000年代前半の就職氷河期にロストジェネレーション世代が社会に出た時期とも重なる。2015年の男性の未婚割合は23.37%で、今や4人にひとりの50歳男性が未婚となっている。男性ほど比率は高くないものの女性についても同様の傾向が認められ、未婚化の進行は留まるところを知らない。
図表4- 未婚の理由 その未婚化について内閣府が国際比較調査を行っている(図表4)。調査によれば、諸外国と比べ日本では「適当な相手に巡り合わない」「経済的な余裕がない」といった未婚の理由が際立っている1。他方、諸外国の上位の理由をみると「結婚する必要を感じないから」「同棲のままで十分だから」等であり、未婚の理由が日本とかなり異なることがわかる。「就学」→「就職」→「結婚」→「出産」の順でライフイベントをこなすことが一般的な日本では、結婚しなければ出生に繋がりにくい。一方で、事実婚が一般化している一部の外国では未婚のまま婚外子を授かる場合も少なくない。こうして考えると同じ未婚であっても、人口へのインプリケーションという面で日本と外国では事情が異なりそうだ。更に、上述のライフイベントに従えば、就職は結婚の前提となる。雇用が不安定になれば、経済的な余裕が失われ、その結果、結婚や出生に至らないという連鎖が起きることになる。
図表5- 結婚年別恋愛結婚・見合い結婚構成の推移 また、就職は「適当な相手に巡り合わない」という未婚の筆頭理由にも密接に関わっている。ここで、出会いの機会について厚労省が戦前から行ってきた調査がある(図表5)。
図表6- 夫婦が出会ったきっかけの構成 戦前に7割近くを占めていた見合い結婚は、その後の社会構造やライフスタイルの変化を受け、いまや1割を下回るまで低下し、その一方で、恋愛結婚が足許では9割に迫るほど上昇している。その恋愛結婚のきっかけを見ると、「職場」や「友人・兄弟を通じて」が多い(図表6)。時代の変遷と共に出会いの経路が変わるのは当然だが、その変化の方向が互助的な枠組みで成り立つ見合い結婚から恋愛結婚に向かうと、職場や友人に繋がる積極的な社会参加がより重要となってくる。前述した通り、未婚化が上昇した時期はバブル崩壊以降の失われた20年と重なり、就職を通じた社会参加が困難だった時期だ。日本独特の理由を背景に未婚化が進んだことは、バブル崩壊という日本経済の困窮を色濃く反映した結果のように思えてならない。
 
1 外国と比べた場合、日本は「今は仕事(勉強)に打ち込みたいから」、「独身の自由さや気楽さを失いたくないから」、「今は、趣味や娯楽を楽しみたいから」等、自らの意思で未婚でいるとする理由も高いが、「適当な相手に巡り合わない」「経済的な余裕がない」が上位を占める理由であることに変わりはない。

3――少子化対策として動きだした雇用推進

2012年12月の第2次安倍政権発足と同時に始まったアベノミクスにより、日本経済は20年以上続いた停滞から反転し、とりわけ雇用面では就業者数が政権発足から2019年までに約500万人増加した。1997年のピークから就業者数が約320万人減少したことを考えると顕著な改善と言える。ただ、この増加分の多くを非正規雇用が占めたことは広く知られている事実だ。一貫して低下が続いてきた婚姻率も目立った反転がないまま今日に至っている。

内閣府の「子ども・子育て白書」が、非正規雇用対策の推進や若者の就労推進を少子化社会対策として盛り込んだのは2010年に遡る。2019年には「経済財政運営と改革の基本方針2019」(骨太方針2019)で、30代半ばから40代半ばとされる就職氷河期世代について、向こう3年間で正規雇用者を30万人増やすという具体的な数値目標が掲げられた。

4――雇用を阻むコロナの壁

その矢先に、新型コロナウイルスの感染拡大が起き、社会経済活動は突然の休止を余儀なくされている。これまで回復基調にあった就業者数も2020年11月には対前年同月比で55万人減少し、8か月連続の減少となっている。厚生労働省の発表によれば、2021年1月8日時点で新型コロナウイルス感染拡大に起因する解雇や雇い止めはその見込みを含めて8万836人に上り、その半分弱が非正規雇用労働者となっている2。非正規雇用問題は、解消どころかむしろ悪化の方向に向かいつつある。

新卒の就職も気になるところだ。令和2年度大学等卒業予定者の就職内定状況(12月1日現在)は、82.2%と歴史的に依然高い水準にはあるが、前年同期比では4.9ポイントの低下となり、平成8年調査開始以降では、リーマンショック直後の平成21年度大学等卒業予定者の就職内定状況(平成21年12月1日付)で記録した7.4ポイントに次ぐ低下となっている。
 
2 厚生労働省 新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について(1月8日現在集計分)

5――おわりに

コロナ禍による活動自粛で、一人でいることの孤独感や将来への不安を背景に、人との繋がりである結婚への意識が新成人の独身者の間で高まったとする調査結果3が公表された。それが事実であれば、まさに「災い転じて福となす」だが、せっかく高まった結婚への意識を実行に移すかどうかは別の問題である。コロナ禍で雇用が不安定なままでは、結婚して家庭を持つこともままならないであろう。

政府は、雇用調整助成金など雇用維持に向けた対策に打って出たが、雇用を巡る環境はなお厳しい。第2の就職氷河期世代を作らない為にも、官民を挙げて雇用支援を途切れなく展開することを期待したい。
 
3 第26回新成人の恋愛結婚に関する意識調査(株式会社オーネット)
 
 

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総合政策研究部   取締役 部長

清水 勘 (しみず かん)

研究・専門分野
経済政策研究担当

(2021年01月22日「研究員の眼」)

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