- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経営・ビジネス >
- 企業経営・産業政策 >
- ESG資金提供者の役割-ESG経営の伴走者は株主とは限らない
ESG資金提供者の役割-ESG経営の伴走者は株主とは限らない

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 高岡 和佳子
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1――ESGのG、ガバナンスってなんだっけ?
また、CGCの基本原則5では、『株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである』とある。一方、機関投資家が「顧客・受益者」の中期的な投資リターンの拡大を図る責任を果たすための原則である「スチュワードシップ・コード(2020年3月版)」は、必要な活動の一つとしてエンゲージメントを掲げる。エンゲージメントとはESG要素を含む中長期的持続可能性の考慮に基づく投資先企業との建設的な「目的を持った対話」のことであり、CGCの基本原則5と通じる。実効的なコーポレートガバナンスが実践されると、企業の持続的な成長が期待され、投資先企業が持続的に成長すると、株主に中期的な投資リターンの拡大をもたらすと考えられる。建設的な対話を含む実効的なコーポレートガバナンスの実践は、経営者にとっても株主にとっても重要と考えられる。
経営者にとっても株主にとっても建設的な対話が重要であるという考えの背景には、経営と所有(株主)が分離されているという前提がある。経営と所有の分離には、株主が経営者の行動を客観的に評価したり、建設的な対話を通じ企業の伴走者としての役割を担うといったメリットがあると考えられるが、創業してあまり年数が経っていない企業や、事業規模が大きくない企業など、経営と所有の分離が困難な企業もある。そのような企業では経営と所有が一体化しており、経営者と株主との間の牽制機能や建設的な対話による協働効果は期待できない。冒頭に記載したようにコーポレートガバナンスを経営者及び株主による企業の管理や統治とするならば、このような企業のコーポレートガバナンスは極めて脆弱なものとなるリスクがあるが、これはコーポレートガバナンスに対する経営者や株主によるものという誤解が招いた誤った結論である。企業は経営者と株主だけのものではなく、企業には経営者や株主以外に、債権者、従業員、顧客、取引先、地域社会といった様々なステークホルダーが存在する。そして、実効的なコーポレートガバナンスにはこれらステークホルダーと協働が不可欠と考えられている。つまり、経営と所有が分離され、株主が経営者の行動を客観的に評価する機能があったとしても、経営者と株主だけで実効的なコーポレートガバナンスは実現しない。経営と所有を分離して、幅広い資金調達を行う上場企業を対象としたCGCにおいも、基本原則2に『ステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである』ことが明記されている。
すべての企業において株主以外のステークホルダーは重要な役割を担うが、経営者と株主との間の牽制機能や協働効果をあまり期待できない企業において、株主以外のステークホルダーが担う役割は極めて重要となる。そこで、本稿では、株主以外の資金提供者(債権者・金融機関)によるESG経営促進の動きを紹介する。
2――地方創生SDGs金融表彰
3――伴走者としての役割を担う債権者(金融機関)
特に顕著な功績がみられた取組として地方創生SDGs金融表彰された5つの取組の中にも、金融機関等がESG経営の伴走者としての役割を担う支援が含まれるので、その概要を紹介したい。
鳥取県と山陰合同銀行及び鳥取銀行の取組は、企業の段階に応じた支援が用意されているという特徴がある。
初めの支援は、SDGsの理念などを分かりやすく説明するという支援である。日本を代表する大企業が公表するサステナビリティレポートを見ると、SDGsに取り組むことをコストとは捉えず、自社ビジネスを脅かしかねないリスクもしくは、新たな商品・サービスの開発や競争力の強化といった機会と捉えていることが分かる。SDGsの理念を伝えることを通じて、ビジネスリスクやビジネスチャンスを深く考えるきっかけを提供していると考えられる。
次の支援は、SDGsに取り組む企業に対する支援である。新たなビジネスリスクを認識した場合は、そのリスクへの対処方法として事業継続計画を策定する必要があり、環境対策に積極的な企業としてのブランドイメージを確立したければ、まずは自社のCO2排出量を把握する必要がある。自社だけではハードルの高い事業継続計画を策定やCO2排出量を把握等で専門家のサポートが受けられるという支援である。更に、企業間のビジネスマッチング等の支援もある。
長野県と上田信用金庫の取組は、SDGsに資する資金の提供だけでなく客観的な視点で企業の取組を評価するという特徴がある。
SDGsの理念の下、ビジネスリスクやビジネスチャンスを深く考えたとしても、自社だけでは限界もある。異なる価値観を持つ人の視点・意見がより良いアイデアを生む可能性は高い。自社のビジネスを熟知している金融機関の担当者が、通常の審査とは異なる視点で評価し、気付きを与えてくれるという支援である。もちろん、前述の取組同様、継続的な支援も含まれる。
このように、企業の伴走者は株主とは限らないし、伴走の仕方も多種多様である。株式か貸付かといった資金提供方法によらず資金提供者にとっては、企業の持続的成長は望ましいものであり、企業の持続的成長には、適切な伴走者の存在が重要なのだから、ESG投融資が単なる資金支援にとどまらず、企業規模や事業内容に適合したESG経営の促進につながる支援に広がることに期待したい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年05月09日「基礎研レター」)

03-3512-1851
- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
高岡 和佳子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/30 | ふるさと納税のピットフォール-発生原因と望まれる改良 | 高岡 和佳子 | 基礎研レポート |
2025/04/03 | 税制改正でふるさと納税額はどうなる? | 高岡 和佳子 | 研究員の眼 |
2025/02/26 | ふるさと納税、確定申告のススメ-今や、確定申告の方が便利かもしれない4つの理由 | 高岡 和佳子 | 研究員の眼 |
2025/02/18 | ふるさと納税、事務負荷の問題-ワンストップ特例利用増加で浮上する課題 | 高岡 和佳子 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年05月02日
金利がある世界での資本コスト -
2025年05月02日
保険型投資商品等の利回りは、良好だったが(~2023 欧州)-4年通算ではインフレ率より低い。(EIOPAの報告書の紹介) -
2025年05月02日
曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その11)-螺旋と渦巻の実例- -
2025年05月02日
ネットでの誹謗中傷-ネット上における許されない発言とは? -
2025年05月02日
雇用関連統計25年3月-失業率、有効求人倍率ともに横ばい圏内の動きが続く
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【ESG資金提供者の役割-ESG経営の伴走者は株主とは限らない】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
ESG資金提供者の役割-ESG経営の伴走者は株主とは限らないのレポート Topへ