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拒否権のパワー-国連安保理で常任理事国と非常任理事国の投票力格差は?
基礎研REPORT(冊子版)5月号[vol.302]

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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◇ 常任理事国は拒否権を持っている
この拒否権があるために、これまでさまざまな議案が否決されてきた。大国の利害の不一致が、安保理の機能不全を引き起こしてきたと指摘されるゆえんだ。
拒否権にはものすごいパワーがあることは直感的にもわかる。実際に、常任理事国は、他の理事国14ヵ国がすべて賛成している議案であっても、拒否権の発動により不成立にもっていける。
◇ 投票力を示す指数
◇ 指数の考え方は意外と簡単
投票者は、ある議案に順番に賛成票を投じていくとする。まず、このような投票順が何通りあるか、計算してみる。これは、5の階乗(5!)=120通り。つぎに、ある投票者が投票する前には成立しておらず、その投票者が投票したことによって成立する、という投票順の個数を数えてみる。3人目が賛成票を投じた段階で過半数となるので3人目の投票者となる投票順の数で、それぞれ24通りずつだ。そして、この2つの投票順の数を割り算する。24÷120=0.2で、どの投票者も5分の1ずつ投票力を持つことになる。
◇ 安保理での投票力を計算すると…
つぎに、ある常任理事国が投票した時点で、議案が成立する投票順の数を計算してみると、256,657,766,400通りある。この2つの数を割り算すると、19.627%となる。他の常任理事国も同じパワーを持つから、常任理事国全体では、約98.135%(≒19.627%×5)。非常任理事国は、全部合わせても残りの1.865%のパワーに過ぎない。非常任理事国のうちの1ヵ国は、さらにその10分の1で、0.1865%となる。つまり、常任理事国は、非常任理事国の約105倍( ≒19.627%÷0.1865%)のパワーを持っていることになる。拒否権には、ものすごいパワーがあることが数字で表されたわけだ。
◇ もし議決方法を変更したら…
また、ある常任理事国が拒否権を発動した場合でも、他の14ヵ国(他の常任理事国4ヵ国と非常任理事国10ヵ国)が賛成することによって、再可決して議案を成立できるよう、議決方法を変更したらどうなるか。この場合は、常任理事国は1ヵ国で14.865%、非常任理事国は1ヵ国で2.5674%となる。常任理事国は、非常任理事国の約6倍(≒14.865%÷2.5674%)のパワーを持つようになる。まだ、約6倍もパワーの違いは残るが、現在の約105倍の違いに比べれば、常任理事国と非常任理事国の投票力の格差は、だいぶ縮まることとなる。
今回は、国連安保理の議決を取り上げたが、他の会議の議決でも、この指標を用いて投票力を測ることができる。会議で誰かが拒否権を発動しそうなときには、そのパワーを計算してみるとよいだろう。
* 計算細部については次をご参照下さい。
・「拒否権のパワー-国連安保理で常任理事国と非常任理事国の投票力格差は?」(研究員の眼, 2022年3月1日)
・「拒否権のパワー [もう一度]-常任理事国と非常任理事国の投票力格差を別の指標でみると…」(研究員の眼, 2022年4月12日)
(2022年05月11日「基礎研マンスリー」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
篠原 拓也のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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