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拒否権のパワー-国連安保理で常任理事国と非常任理事国の投票力格差は?
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
代表的なものは、国際連合(国連)だ。その中でも、とくに安全保障理事会(安保理)は、紛争地域での国連平和維持活動の設立、多国籍軍の承認、テロ対策、各種制裁措置の決定などを審議する機関として重要なものとなっている。じつは、国連の他の機関は、加盟国に対して勧告しかできない。国連憲章のもとで、加盟国に実施の義務づけを伴う決定を行う権限は、安保理だけが有している。今回は、その議決の方法をみてみよう。
◇ 日本は12回目の非常任理事国選出に向けて立候補
安保理は、全部で15ヵ国からなる。そのうち、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国の5ヵ国は、常任理事国で改選されない。残り10ヵ国は、それぞれ2年の任期で毎年半数が改選される、非常任理事国だ。
日本はこれまでに、合計で11期22年間に渡って、非常任理事国を務めてきた。これは、非常任理事国としては、他国をおさえて、最長の期間となっている。
そして、日本は、今年6月に予定されている非常任理事国選挙に立候補している。もし選出されれば、2023~24年の2年間が12回目の任期となり、最長期間を更新することとなる。
◇ 常任理事国は拒否権を持っている
安保理の議決は、全15ヵ国のうち9ヵ国以上が賛成した場合に議案が可決・成立となる仕組みだ。ただし、重要問題である実質事項の議決では、常任理事国のうち1ヵ国でも反対すると議案は成立しない。これは、常任理事国が持つ拒否権といわれる。
この拒否権があるために、これまでさまざまな議案が否決される事態が生じてきた。大国の利害の不一致が、安保理の機能不全を引き起こしてきたと指摘されるゆえんだ。
拒否権にはものすごいパワーがある、ということは直感的にもわかる。実際に、常任理事国は、他の理事国14ヵ国がすべて賛成している議案であっても、拒否権の発動により不成立にもっていける。
◇ 投票力を表示する、「シャープレイ=シュービック指数」
ここで、よく使われるのが、会議での採決や投票で各投票者の投票力を表示する、「シャープレイ=シュービック指数」という指標だ。シャープレイ氏とシュービック氏は、アメリカの経済学者で、この2人が開発した指数であるために、このような名前で呼ばれている。
この指標を使うと、投票力を数値で表すことができる。これは、ゲーム理論の中で、協力ゲームと呼ばれるものの分析に出てくる。議決の安定性や、各投票者の投票力の分析などによく使われる。
◇ シャープレイ=シュービック指数の考え方は意外と簡単
投票者は、ある議案に順番に賛成票を投じていくとする。まず、このような投票順が何通りあるか、計算してみる。これは、中学の数学で出てきた「場合の数」の順列だ。順列は、投票者数の階乗だけある。投票者が5人なら、5の階乗(5!) = 5×4×3×2×1=120通りとなる。
つぎに、ある投票者が投票する前には成立しておらず、その投票者が投票したことによって成立する、という投票順がいくつあるかを数えてみる。5人の投票者が賛成票を投じていく場合は、3人目の人が賛成票を投じた段階で、過半数となって成立となる。各投票者が3人目の投票者となる投票順の数は、それぞれ24通りずつある。
そして、この2つの投票順の数で割り算をしてみる。投票者数が全部で5人、過半数によって可決、という投票では、24/120=0.2となって、どの投票者も5分の1ずつ投票力を持つということになる。このようにして、投票力が計算できるわけだ。
◇ 常任理事国と非常任理事国の投票力を数字で表すと…
つぎに、常任理事国のうち、アメリカが投票した時点で、議案が成立する投票順の数を計算してみる。アメリカが投票したときに議案が成立する条件は、他の4つの常任理事国(イギリス、フランス、ロシア、中国)と、非常任理事国のうち4ヵ国以上が投票を終えていることである。そこで、このような条件を満たす投票順はどれだけあるのか、計算してみると、256,657,766,400通りとなる。(*)
つまり、アメリカのパワーは、256,657,766,400/1,307,674,368,000 となる。これは、約分すると、421/2,145となり、0.19627 という値になる。
他の常任理事国も同じパワーを持つから、常任理事国全体では、約0.98135(≒0.19627×5)。非常任理事国は、全部合わせても残りの0.01865(=1-0.98135)のパワーに過ぎない。非常任理事国のうちの1ヵ国は、さらにその10分の1で、0.001865となる。(**)
つまり、常任理事国のパワー0.19627に対して、非常任理事国のパワーは0.001865となる。常任理事国は、非常任理事国の約105倍のパワーを持っていることになる。拒否権には、ものすごいパワーがあることが数字で表されたわけだ。
◇ 拒否権が発動されても、他の14カ国の賛成で再可決・成立できるよう、議決方法を変更したら…
上記と同様の計算をしてみよう。この場合は、常任理事国であるアメリカのパワーは、194,387,558,400/1,307,674,368,000 となる。これは、0.14865 という値になる。
他の常任理事国も同じパワーを持つから、常任理事国全体では、約0.74326(≒0.14865×5)。非常任理事国は、全部合わせて残りの0.25674(=1-0.74326)のパワーとなる。非常任理事国のうちの1ヵ国は、その10分の1で、0.025674となる。(***)
常任理事国のパワー0.14865に対して、非常任理事国のパワーは0.025674となる。常任理事国は、非常任理事国の約6倍のパワーを持つようになる。まだ、約6倍もパワーの違いは残るが、現在の約105倍の違いに比べれば、常任理事国と非常任理事国の投票力の格差は、だいぶ縮まることとなる。
◇ 家族会議でも応用してみるとよいかも
いま、「つぎの連休にはどこに旅行にいくか?」について、家族の間で白熱した話し合いが展開されているとする。もし、話し合いがまとまらなければ、これまでに出されたいくつかの案の中から、採決を行うことになる。
家族が公平に一票ずつ投票していって、多数決で決められれば、旅行先は決着するはずだ。だが、もしかしたら、家族のうち誰かが拒否権を持っているかもしれない。
そんな場合には、家族のそれぞれの投票力を計算してみるとよいように思われるが、いかがだろうか。
(2022年03月01日「研究員の眼」)
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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