2022年03月25日

働き方改革と健康経営-労働者の健康改善と生産性向上に繋がる「真の働き方改革」の実施を-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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健康経営を取組むうえで課題になること(なると予想されること)について尋ねた結果、「何から開始・取組めばいいか分からない」が30.9%で最も高く、「人員がいない」(27.1%)、「メリットが分からない」(15.8%)を上回った(「特に課題はない」は24.3%)。「何から開始・取組めばいいか分からない」と回答した企業の割合は、企業規模別では300名以下(32.2%)、業種別では非製造業(31.0%)、地域別では、甲信越・北陸(33.2%)が高く、業種別(詳細)では製造業の場合、「繊維・衣服」(38.1%)、「鉱業・石油・窯業・土石」(37.2%)、「農林水産業」(36.4%)が上位3位を、非製造業の場合、「専門サービス」(39.6%)、「卸売」(36.1%)、「飲食」(33.9%)が上位3位を占めた。
健康経営を取組むうえで課題になること(なると予想されること)
企業規模、地域、業種と「健康経営を取組むうえで課題になること」の関係をクロス集計でみたところ、企業規模と地域では有意水準1%で統計的に有意な結果が、業種では有意水準5%で統計的に有意な結果が得られた。
企業規模別「健康経営を取組むうえで課題になること」(クロス集計)
地域別「健康経営を取組むうえで課題になること」(クロス集計)
業種別「健康経営を取組むうえで課題になること」(クロス集計)

3――健康経営が日本の企業に少しずつ普及

3――健康経営が日本の企業に少しずつ普及

経済産業省は2017年度から「健康経営優良法人認定制度」を実施しており、2020年6月には健康経営への取り組みが会社にとってどのようなメリット(投資対効果)があるのかを定量的に見える化するための「健康投資管理会計ガイドライン」を策定し、公表した。経済産業省の発表によると、2021年現在大規模法人部門では1,788社が、中小企業法人部門では7,928社が健康経営優良法人に認定されていることが明らかになった。2017年と比べると健康経営優良法人数は、それぞれ約7.6倍と約83.5倍も増加しており、健康経営が日本の企業に少しずつ普及していることが分かる。
健康経営優良法人(大規模法人部門)・健康経営優良法人(中小規模法人部門)認定企業数
一方、HR総研が2021年12月に実施した調査によると、企業が健康経営を実施する目的は「従業員の生産性維持向上」、「企業全体の労働生産性向上」、「従業員のモチベーション維持向上」等であることが確認された。また、健康経営で実践している取組みとしては、「ストレスチェックの実施」、「従業員の労働時間、休暇取得等の状況把握」、「管理職・従業員への教育」、「時間外労働の是正」が上位4位を占めた。このような結果から健康経営を実現するにあたっては、従業員の健康状況の把握や意識改善のみならず、労働時間の短縮や休暇の取得状況の適正な把握等、働き方改革に向けた企業の一層の取り組みが欠かせないことが分かる。

4――結びに代えて

4――結びに代えて

今後、企業が働き方改革を実施する際には、生産性向上のみならず、労働者の健康や生活の満足度向上も考慮する必要がある。つまり、成果主義の強化が労働者のメンタルヘルスにマイナスの影響を与えていないか、また残業を含めた労働時間の短縮が労働者の収入を減らし、生活水準の低下につながっていないか、更に労働時間の短縮が過度な労働強化につながり労働者の健康悪化をもたらしていないか等、企業側は各項目においてきめ細かく考慮しながら働き方改革を進めていくことが必要だ。働き方改革が長時間労働の習慣を改善させ、従業員の健康改善や生産性向上に繋がる「真の働き方改革」になることを期待したい。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2022年03月25日「基礎研レポート」)

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