2022年03月15日

データで見るコロナ禍の行動変容(4)-移動手段の変容~公共交通機関からパーソナル手段へのシフト

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」で見るコロナ禍の移動手段の変容は?

前稿では、コロナ禍における行動変容として、食生活の変容について報告した。コロナ禍で外食が控えられる一方、テイクアウトやデリバリーなどの中食の利用が増え、外食需要の一部が中食へとシフトしていた。また、食料の品目別支出額の変化から、家での食事では手軽に食事をしたい志向と質を高めたい志向の両面が存在し、コロナ禍2年目では手軽さ志向が一層高まる様子が見て取れた。

本稿では、具体的な行動変容の第三弾として、移動手段の変容について捉える。これまでと同様にニッセイ基礎研究所の「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査1」のデータを用いるとともに、適宜、政府統計などを用いて実態把握を補完していく。
 
1 調査対象は全国に住む20~74歳の男女約2,500名(第4回までは20~69歳の男女約2,000名)、インターネット調査、株式会社マクロミルのモニターを利用。

2――移動手段の変容

2――移動手段の変容~公共交通機関のパーソナルシフト、高齢層は外出控え、職業で代替手段の違いも

1全体の状況~公共交通機関から自家用車やカーシェアなどのパーソナル空間による移動手段へシフト
まず、全体の状況を確認する。コロナ禍前(2020年1月頃)と比べた移動手段の利用の増減をたずねると、電車やバス、タクシー、飛行機などの公共交通機関では減少の割合の高さが目立つ(図表1(a))。

国内で初めて全国に緊急事態宣言が発出された2020年4月から直近調査の2021年12月にかけて、電車やバスの減少層(「減少」+「やや減少」)は約4割で推移し、タクシー(13.7%→15.4%で+1.7%pt)や飛行機(13.9%→24.1%で+10.2%pt)ではむしろ上昇している。ただし、いずれも利用していない割合は低下している。つまり、コロナ禍で他人と空間を共にする公共交通機関の利用を控える傾向は続くものの、当初、公共交通機関を全く利用していなかった層などでは必要に応じて利用が再開されているようだ。

なお、飛行機については、2020年6月から9月(図表1では9月は省略)にかけて、利用者層(全体から利用していない割合を差し引いた値)が21.7%から35.1%(+13.4%pt)へと増え、このタイミングで比較的大きく増えている。背景には、日本国内で経済活動が再開されたこと、また、当初、未知のウイルスの発現によって全世界で海外渡航が制限されていたが、2020年6月頃から徐々に解除され始め、8月には世界最大の感染国である米国でも全世界への渡航中止勧告が解除され、世界的に往来が再開されたことがあげられる。さらに、日本国内では2020年7月下旬からGoToトラベルが始まった影響もあるだろう。

一方、自家用車や自転車、徒歩といったパーソナル空間による移動手段では、増加層(「増加」+「やや増加」)が減少層を上回り、上昇傾向を示している。なお、利用者層は自転車ではおおむね横ばいだが、自家用車では上昇傾向にある。よって、公共交通機関の利用控えが続く中で、公共交通機関の利用の一部がパーソナル手段へとシフトしている様子がうかがえる。
図表1 コロナ前(2020年1月頃)と比べた移動手段の利用の変化(単一回答)(a)公共交通機関やセルフ手段
図表1 コロナ前(2020年1月頃)と比べた移動手段の利用の変化(単一回答)(b)シェアリングサービス
ところで、パーソナルな移動空間としては、カーシェアやシェアサイクルもあげられる。これらは他と比べて利用率が低いために、利用していない割合を除く形で図表1(b)に掲載しているのだが、どちらも減少層が増加層を上回って推移している。また、2020年4月から2021年12月にかけて、カーシェアの減少層は4%前後、シェアサイクルでは3%前後で推移しており、おおむね同水準を維持している。なお、どちらの利用者層も、経済活動の再開以降、2020年6月から2020年9月にかけて増えたが、デルタ株による爆発的な感染拡大時期である2021年7月から9月にかけては減っている。2021年12月には、秋以降の感染状況の改善を受けて、利用者層は再び増えているが、2020年4月と比べればやや減っており、シェアリングサービスの利用に慎重な姿勢が見える。

なお、その他のシェアリングサービスについては、コロナ禍でフリマアプリでは利用者層が増え、増加層が減少層を上回って推移しているが、洋服やバッグなどのモノのシェア、民泊などのスペースのシェアではカーシェアと同様に、減少層が増加層を上回り、利用者層は当初より減っている2

つまり、フリマアプリを除くシェアリングサービスの利用状況は感染状況と連動している。よって、コロナ禍で他人と空間を共有する公共交通機関の利用の一部がパーソナル空間による移動手段へシフトしているが、感染拡大下ではシェアリングサービスの利用に慎重な態度も見られるようだ。

ただし、コロナ禍でカーシェアやシェアサイクルの利用が減ったように見える背景には、これまでは日常生活の移動手段の代替というよりも、旅行での利用が多かった影響もあるだろう。

一般社団法人日本シェアリングエコノミー協会によると、コロナ禍の2020年度や2021年度において、カーシェアを含む移動のシェアリングサービスの市場規模は拡大傾向にある(図表2)。コロナ禍のマイナス要因としては「旅行者利用の減少」があげられる一方、プラス要因としては「近隣地への旅行向け増加」や「公共交通機関から自動車、自転車へのシフト」、「買い物に伴う外出、外食等を避けるための利用増加(食事の宅配等のみ)」があげられ、トータルで見れば拡大しているとのことだ(各要因による市場規模は未公開)。
図表2 シェアリングエコノミーの市場規模
よって、当調査の結果と協会の市場規模推計をあわせると、コロナ禍でパーソナルな移動空間の需要が強まることで、公共交通機関の利用が自家用車のほかカーシェアも含むパーソナル手段の利用へシフトしている動きもあるが、感染拡大下では他人とモノをシェアすることに慎重な態度を示す消費者もいる、と見ることが妥当だろう。
 
2 ニッセイ基礎研究所「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査 第6回」調査結果概要など。
2年代別の状況~高年齢層ほど公共交通機関の利用を控えるとともに外出そのものを控えている
年代別に見ても、コロナ禍当初からの推移は全体とおおむね同様である。概略を述べると、電車やバス、タクシー、飛行機については全ての年代で減少層が目立つが、利用者層は当初より増えている。自家用車や自転車については増加層が目立ち、利用者層は自家用車では増えているが、自転車では横ばいで推移している。カーシェアやシェアサイクルについては減少層が増加層を上回り、利用状況は感染状況と連動している。

直近の2021年12月のデータについて年代別に見ると、電車やバス、タクシー、飛行機などの公共交通機関の利用では、感染による重篤化リスクの高い高年齢層ほど減少層は増える傾向がある(図表3(a)~(c))。特に減少層の多い電車やバスでは70~74歳(53.6%)の減少層は半数を超えるが、20歳代(31.5%)では約3割にとどまり、変わらない層(34.1%)を下回る。

また、電車やバスの利用が変わらない層は20歳代(34.1%で全体28.4%より5.7%pt)のほか、40歳代(32.5%で+4.1%pt)などで多い。これは次項で詳しく見るが、学生や就業者が多い影響と見られる。

一方、自家用車や自転車などのパーソナル手段については、「増加」あるいは「やや増加」の割合で見れば一部で有意差が確認される年代もあるが、増加層として見ると有意差は確認されず、いずれの年代も同程度である(図表3(d)~(f))。
図表3 年代別に見たコロナ前(2020年1月頃)と比べた2021年12月の移動手段の利用の変化(単一回答)(a)~(f))
図表3 年代別に見たコロナ前(2020年1月頃)と比べた2021年12月の移動手段の利用の変化(単一回答)(g)~(h))
また、シェアリングサービスについては、カーシェアもシェアサイクルも他の消費行動と同様に、モノを所有するよりも利用する志向の高い若い年代ほど増加層や利用者層が多い(図表3(g)(h))。ただし、20歳代では減少層がどちらも約1割を占めて目立ち、増加層を上回る。これは、前述のようにコロナ禍で旅行でのカーシェアなどの利用が減った影響が、従来からシェアリングサービスの利用に積極的な若い年代で色濃くあらわれているのだろう。

ところで、コロナ禍で高年齢層ほど公共交通機関の利用を控えているが、高年齢層では他年代と比べて自家用車やカーシェアなどのパーソナル手段の利用が必ずしも増えているわけではない。つまり、高年齢層ではコロナ禍で外出自体を控えているという様子が読み取れる。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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【データで見るコロナ禍の行動変容(4)-移動手段の変容~公共交通機関からパーソナル手段へのシフト】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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