2022年03月08日

花粉症は海外でも増加

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――国内の花粉症の有病者は増加

図表1 鼻アレルギー 有病率 全国の耳鼻咽喉科医本人とその家族を対象に、1998年から約10年おきに実施されている「鼻アレルギーの全国疫学調査1」によると、2019年に花粉症の有病者は、スギ花粉症が38.8%、スギ以外の花粉症が25.1%で、花粉症全体では42.5%だった(図表1)。いずれも1998年から増加し続けており、もっとも増加が著しいスギ花粉症についてみると、1998年に16.2%、2008年に26.5%、2019年に38.8%の有病率であり、10年で10ポイント以上増加している。

同調査では、すべての年代で有病率が増加しており、自然寛解が少ない疾患であることから年齢を重ねるほど有病者が増えているほか、発症の低年齢化が指摘されている。​

また、厚生労働省の「アレルギー疾患対策推進協議会」では、児童について、花粉とフルーツのアレルギー等といった、交差反応によって起こる食物アレルギーが増えていることも懸念事項とされている2
 
1 松原篤他「鼻アレルギーの全国疫学調査2019 (1998年, 2008年との比較) : 速報―耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として」日本耳鼻咽喉科学会会報 123巻 (2020) 6号
2 厚生労働省「第14回アレルギー疾患対策推進協議会」(2021年7月29日)

2――海外でも花粉症有病率は上昇

2――海外でも花粉症有病率は上昇

花粉症は、「国民病」とも言われることがあるが、日本国内だけでなく、世界中で問題となっている。

世界アレルギー機構(World Allergy Organization)のWorld Allergy Week 2016の報告資料3によると、13~14歳の小児における花粉症の有病率は、世界全体で22.1%だった。地域別にみると、アフリカ29.5%、アジア23.9%、東地中海20.1%、インド亜大陸15.8%、中南米23.7%、北米33.3%、北欧・東欧12.3%、オセアニア39.8%、西ヨーロッパで21.2%だった。過去15年間を平均すると年間平均0.3%増加しているという。

また、同報告資料によると、気候変動によって、花粉の飛散期間の長期化や、飛散量の増加が指摘されている。例えば、二酸化炭素(CO2)の増加と気温の上昇は、ブタクサ等の花粉生産量を大幅に増加させるほか、シラカバ、ヨモギ、イネ科、スギなどのアレルギー誘発植物を対象とした研究でも、花粉飛散開始時期の早期化が確認されているという4

地域によって生育する草木が異なるため、花粉症を引き起こす草木も異なり、ヨーロッパの各地ではイネ科、アメリカではブタクサ等、オーストラリアではアカシア(ミモザ)、南アフリカではイトスギが有名だ。スギは日本固有種であるため、スギ花粉症は日本の特徴だ。

現在、外務省による海外渡航・滞在情報の各国の医療情報には、相当数の国でその国の花粉症に関する情報が記載されており、関心の高さと深刻さを伺うことができる。
 
3 POLLEN ALLERGIES: Adapting to a Changing Climate How are you managing pollen allergies in a changing global climate? ,WAO(https://www.worldallergy.org/UserFiles/file/waw16-slide-set.pdf、2022年3月3日アクセス)
4 JETROビジネス短信 2019年5月24日「春が短いロシアでも花粉症罹患者が増加」(https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/05/b39360182034bd63.html、2022年3月3日アクセス)などの情報もある。

3――国の対策

3――国の対策

スギは、二酸化炭素を大量に吸収するほか、材木として加工がしやすく、成長スピードも速いため、積極的に植林されてきた。日本では、1960年代に花粉症の最初の系統的な研究が行われており、ブタクサ花粉症やスギ花粉症が報告されている5

スギ花粉症対策として、国内では、花粉の少ないスギや花粉を出さないスギの苗木への植え替えが進められている。林野庁の「スギ花粉発生源対策推進方針(2018年)」では、2032年度までに、この割合を7割にまで増加させることを目標としており、2019年時点で、花粉の少ない苗木の生産量は、スギ苗木の全体の半数程度となっている。花粉が生産されるのは、樹齢30年程度以上と言われているが、国内の人工林の多くが植えられて30年以上となっている6。安価な輸入材木の増加や他の素材の利用増加にともなって当初の予想どおりに伐採が進んでいないことや、花粉症対策スギ苗木の供給不足等によって、植え替えにはまだある程度の時間を要することになりそうだ。

海外においても、地中海地域では、花粉生産量の多い樹種の植栽を制限することが提言されている事例や、花粉飛散量を減少させるために、フランスではヒノキの刈り込みが検討されている事例、北米地域では、ブタクサの駆除に関する事例があるようだ7

しかし、上述の世界アレルギー機構の報告資料にもあるように、花粉症増加の要因としては、花粉の飛散量だけでなく、樹木の手入れの状態、排気ガス、人々の食生活や住環境なども影響すると考えられており8、花粉症発症メカニズムの研究や、予防・治療技術の進歩、大気汚染物質等一般環境との関係解明などもあわせて行っていくことが必要とされている。
 
5 安髙志穂「国会における花粉症対策に係る議論の動向-国会会議録を分析して-」Journal of Forest Economics Vol.65 No.1(2019)
6 林野庁「森林・林業とスギ・ヒノキ花粉に関するQ&A」(https://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/kafun/qanda.html、2022年3月3日アクセス)
7 河瀬麻里「海外の花粉症対策と比較した日本の花粉症対策の特性」第123回日本森林学会大会(2011年)
8 安髙志穂「国会における花粉症対策に係る議論の動向-国会会議録を分析して-」Journal of Forest Economics Vol.65 No.1(2019)

4――企業の対策

4――企業の対策

国民の4割が花粉症の症状をもつということから、医療費や労働損失も大きい。医療費については、2019年健康保険組合連合会が、花粉症患者に処方される花粉症治療薬の薬剤費のうち、薬局やドラッグストアでも購入できる成分の薬を保険対象外にすれば、最大で600億円弱の薬剤費削減効果があるとの推計を行った9。また、花粉症による経済損失は、医療費と労働損失をあわせて年間2,860億円という推計がある10。その多くが労働損失によるものとされており、企業においては医療費の問題よりも深刻である可能性がある。

2021年3月にニッセイ基礎研究所が実施した「被用者の働き方と健康に関する調査11」によれば、全体の19.6%が「この3か月間で、病気やケガなどで、体の具合が悪い所(自覚症状)」として、「花粉症/アレルギー性鼻炎」をあげていた。そのうち、35.9%が花粉症/アレルギー性鼻炎を仕事に影響をもたらしている健康問題の上位2つの症状としてあげており、症状があるときの仕事の効率12は、症状がない時と比べて平均63%程度であると回答している。

花粉症は、症状がある期間が長いものの、重篤な症状ではないことが多いことから、通常どおり業務を行うケースが多いが、実際は生産性が大きく下がることがある。こういった状況から、プレゼンティズムの課題として、最近では企業が花粉症の従業員に対するサポートを行うケースが出てきている。例えば、ドライバーの半数が花粉症の症状をもつ北王流通株式会社では、生産性の低下のみならず、大きな事故にもつながりかねないことから、花粉症の発症中も適切な睡眠をとれるよう眠気を増さない薬や点鼻薬を選定し、症状のあるドライバーに提供している13。また、株式会社ラフールにおいても福利厚生の一環として、花粉症用のスプレーや専用マスク、目薬といったグッズが支給されるほか、通院にかかった費用も会社が負担している14。また、リモートワークの活用によって、花粉が少ない地域での勤務を可能としている会社もあるようだ。

新型コロナウイルスの感染拡大で導入がひろまった在宅勤務であるが、こういった季節性の症状や、気象事情等で安全な通勤ができなかったり交通機関に乱れが予想される時などでも活用が進むことを期待したい。
 
9 健康保険組合連合会「政策立案に資するレセプト分析に関する調査研究Ⅳ(2019年8月)」(https://www.kenporen.com/include/press/2019/201908231.pdf 、2022年3月3日アクセス)
10 林野庁「林野庁における花粉発生源対策について」(令和2年8月26日 全国知事会花粉発生源対策推進PT)等。推計は、平成12年科学技術庁「花粉症克服に向けた総合研究」第Ⅰ期成果報告書によるもの。
11 全国18~64歳の男女被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)を対象とするインターネット調査。2021年3月実施。有効回答数5808。全国 6地区、性別、年齢階層別(10 歳ごと)の分布を、2015 年の国勢調査の分布に合わせて回収。
12 アレルギー性鼻炎/花粉症の症状があるときは、仕事の量×仕事の質が、症状がない時と比べて平均で約63%とになると回答。
13 北王流通株式会社サイト「北王流通 花粉症手当て実施により生産性向上に繋がる(2020-03-10)(https://www.hrg.co.jp/pages/54/detail=1/b_id=545/r_id=339、2022年3月3日アクセス)」
14 株式会社ラフールサイト「ラフール社員、働き方は自分で選ぶ! ストレスフリーで生産性向上へ ~“新しい働き方”で生産性は4%以上UP~(2018/03/16)(https://www.lafool.co.jp/news/198/、2022年3月3日アクセス)
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2022年03月08日「基礎研レター」)

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【花粉症は海外でも増加】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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