2022年02月21日

AIオンデマンド乗合タクシーの成功の秘訣(総括編)~全国30地域に展開するアイシン「チョイソコ」の事例から

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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本対談は、AIオンデマンド乗合タクシー「チョイソコ」を運営する株式会社アイシン(本社・愛知県刈谷市)と、同社から相談を受けてスキーム構築に協力し、導入第1号となった愛知県豊明市の当時と現在の担当職員、筆者との間で行った。

本対談では、チョイソコのシステムの技術面や、運営の工夫の仕方、各地域に導入する際のハードル、豊明市において残された移動課題等、幅広い論点についてディスカッションを行った。その中から得られた示唆について、本稿で整理したい。全国で増加するオンデマンド乗合タクシー事業の中でも、成功事例と言われるチョイソコの課題と今後の展望を総括することにより、同事業のビジネスモデルと将来像について検討したい。

1――オンデマンド乗合タクシー事業の収益性

1――オンデマンド乗合タクシー事業の収益性

1 | 移動サービスに対する需要と消費者意識
本対談(上)でも触れたように、CASEや脱炭素といったキーワードに注目が集まり、異業種からの新規参入が増え、モビリティ業界は活性化している。しかし、企業がオンデマンド乗合タクシー事業に乗り出す場合、運賃収入だけでは収益性や事業性を確保することは難しいと考えられる。理由として、大きく二つ、需要側の事情を挙げることができる。一つ目は、オンデマンド乗合タクシーが導入される地方では、移動需要そのものが小さいということ、二つ目は、非日常的な旅行は別として、消費者が、日常的な移動に支出する単価が安いということである。

一点目については、オンデマンド乗合タクシーが検討される地域では、人口減少や高齢化、モータリゼーションなどにより、旧来の路線バスが撤退したり、もともと運行されていなかったりするケースが多く、移動需要が小さいからである。都市部のようにまとまった需要がなく、一定の輸送量を確保できなければ、乗合サービスが事業性を確保するのは難しい。

二点目は、消費者が移動サービスに支払う単価の安さにある。過去には、交通事業者が運賃値上げをした結果、乗客離れで負のスパイラルを招いた経験がある。鉄道や路線バスなどの公共交通事業の運賃の決定方法は、道路運送法で定められた上限認可制である1。各事業者は、必要な運送原価に適正な利潤を加えて「総括原価」を割り出し、これを超えない範囲の運賃水準を申請している(総括原価方式)。先行研究によると、過疎地などで公共交通の乗客が減少して以降、交通事業者はこの制度に基づいて賃値上げをしたが、かえって乗客逸走を生み、その後は事実上、値上げが凍結されてきたという2

大量輸送時代に安価な運賃が定着し、その後、市町村が導入したコミュニティバスの中には無料のものまであり、「公共交通は安いもの」という消費者意識を一層、強めた可能性がある。その結果、公共交通の事業モデルは「低運賃+公的補助」という構造が定着した。これはコロナ禍になっても変わっておらず、結果的に、行政の赤字補填額が膨らみ続けている3

株式会社アイシン(以下、アイシン)の加藤氏も、全国約30か所でチョイソコの展開にこぎつけ、市町村と交渉してきた経験から、運賃が1回500円を超えると、急激に需要が落ち込むと打ち明けている。加藤氏は「お金がない訳ではないが、(往復)1,000円出すぐらいなら、もうちょっと我慢して、まとめて行こうという考え」(対談(中))だと表現している。

総務省の家計調査の結果でも、交通にかける1世帯当たりの支出金額(二人以上世帯)は、世帯主65歳以上で見ると月平均3,816円(2019年平均。自動車、自転車への支出は除く)、75歳以上では3,313円(同)である。65歳以上の単身世帯では2,371円(同)である。このような家計の状況であれば、仮に1回の利用で往復1,000円かかるなら、標準的な世帯であれば、乗車機会を絞るという選択になりやすいだろう。

したがって、オンデマンド乗合タクシー事業を行う事業者は、赤字前提の社会貢献事業ということでない限り、アイシンのように、多数の地域に横展開することでコストを下げたり、サービスを多様化して収益源を増やしたりする工夫が必要になる。

アイシンは、今後もチョイソコの導入地域拡大を目指し、コスト幅を削減していく戦略である。また、チョイソコのプラットフォームを使って、弁当の貨客混載から電話による高齢者の見守りサービス、道路の破損状況のデータ収集と自治体への送信など、地域ごとに多様なサービスを行っている。ただし同社においても、まだこれらに取り組んでいる途中段階である。豊明市におけるチョイソコ事業「チョイソコとよあけ」でも、自力では赤字が大きく、同市から年間約1,600万円の負担金を受け取っている。

アイシンはこの他、利用者層拡大などを目的に、2022年度に埼玉県入間市で実証実験として車椅子対応車両を導入する予定である。この計画は大変興味深い。これまで車いす使用者等、介助が必要な人を対象とした移動サービスは、福祉有償運送を行うNPOなどが担ってきたが、チョイソコもこの分野に参画しようというものである。各地で後期高齢者が増加している中で、車いす使用者が利用できる移動サービスの供給が増えることは歓迎されるものであり、実証実験を通じたノウハウと課題の蓄積が期待される。
 
1 2006年の道路運送法改正では、「地域における需要に応じ当該地域の住民の生活に必要な旅客輸送の確保その他の旅客の利便の増進を図るために乗合旅客の運送を行う場合」の例外規定として、地方公共団体や事業者、住民などの関係者の間で協議が整ったときは、届出によって運賃を決めたり、変更したりすることができる「協議運賃」の制度が設けられた。
2 加藤博和「日本の地方部における公共交通プライシング転換の方向性~総括原価方式から協議運賃へ~」『土木計画学会研究・講演集』 Vol.62,CD-ROM(7341),2020.11
3 公的負担の膨張については、 坊美生子、百嶋徹「自動運転は地域課題を解決するか(中)~群馬大学のオープンイノベーションの現場から」ジェロントロジー対談(2021年11月18日)参照。
2|AIの有用性と必要性
最近では、AIを使用したオンデマンド乗合タクシーの配車システムも相次いで開発されているが、その必要性については、導入する市町村があらかじめよく検討する必要がある。

アイシンのチョイソコのシステムでは、AIは、正確な所要時間を計算し、乗客の待ち時間を少しでも短縮するために使用されていることを、加藤氏は明らかにした(対談(上))。乗客は高齢者が多いため、真夏や真冬、日差しや雨風の強い日などに、長時間待たせることができないからだと言う。

しかし、配車システムによって、もしAIが乗客を送迎するための最短ルートを設定するためだけに使用されているのであれば、地方部では必ずしも必要な技術とは言えない。車両1台当たりの乗客数が平均1人前後のケースが多いからである。乗客が一人か二人であれば、配車センターのオペレーターやドライバーが頭でルートを考えれば足りる。実際に、そのような判断で、AI配車システムを採用しなかったという市町村もある。加藤氏が「従来のカーナビゲーションも立派なAI」と言うように、車両にカーナビが装着されていれば、各車両がルート設定することもできる。高度なAI配車システムを使用することで、かえってシステム開発費や運営費がかさむ可能性もある。

2――デジタルとアナログの最適解

2――デジタルとアナログの最適解

1|予約システム
オンデマンド乗合タクシーの予約は、スマートフォン上のアプリを使うものが多く開発されている。コールセンターを設置してスタッフを雇うには人件費がかかり、場所の確保や雇用管理も必要になるからである。高齢者のインターネット利用率やスマホ使用率は上がっていると言われているため、事業者にとってはアプリを使う方がハードルが低い。しかし、高齢者向けサービスを実施するにあたっては、高齢者が何にインターネットやスマホを使っているのかを押さえておく必要がある。

例えば総務省「令和2年通信利用動向調査」によると、60歳代のインターネット利用率(過去1年間にインターネットを利用した人の割合)は77.2%、70歳代は52.4%、80歳以上は22.0%である。数字だけ見ると、60歳代と70歳代は過半数がインターネットを利用できる、と考えやすい。しかし、利用目的をみてみると、「電子メールの送受信」(60歳代78%、70歳代70.7%、80歳以上51.8%)や「情報検索」(60歳代77.1%、70歳代62.7%、80歳以上39.1%)の割合が比較的高いのに比べて、「商品・サービスの購入・取引」は60歳代47.1%、70歳代31.2%、80歳以上15.8%にとどまっている。同調査によれば、過去1年にインターネットを利用した人に限っても、60歳代から80歳代の8~9割が個人情報の漏洩に不安を感じており、決済や取引での利用は敬遠していると考えられる。

チョイソコとよあけの場合は、当初からアイシンと豊明市は協力関係にあったことから、実証実験を始める前に、アイシンが地元の高齢者らから複数回、ヒアリングを実施していた。その場で高齢者に質問したところ、スマホでモノを買ったり、サービスを予約したりしたことがある人は、わずか3%だったため、電話予約を取り入れるしか選択肢が無かった、と加藤氏は述べている(対談(上))。チョイソコでは結局、インターネットなどデジタル手段による予約とアナログな電話予約の両方を採用した。

しかしアイシンの場合は、人件費をかける代わりに、オペレーターを事業効率化のためにフル活用している。その1点目は乗合率の向上である。電話予約が入ったときに「9時だと車が空いていないが、9時半にずらしてもらえば迎えに行ける」などと提案することにより、乗合を実現している。2点目は営業への展開である。電話予約で、停留所の無い施設へ行きたいと言われたら、即、営業社員に伝え、停留所の増設につなげている。3点目は、乗客への連絡である。車両の到着予想時間が遅れたら、乗客に電話をかけて「時間がかかりそうなので、屋根のあるところで待機していてください」などと伝え、円滑な乗降につなげている。4点目は他の業務との兼務である。会員登録などの定型的な事務作業だけでなく、電話による見守りサービス等、実証実験にも活用している。

チョイソコの乗客アンケートでも、オペレーターへの満足度は高い。地域の高齢者とコミュニケーションを取れる人材がいることで、チョイソコの今後の事業展開の幅も広がっている。

筆者がコールセンターを視察した時、オペレーターの女性たちがヘッドホン越しに、ゆっくり大きな声で、丁寧に応対している姿が印象的だった。専門スタッフによる分かりやすい説明や、温かいコミュニケーションは、乗合タクシーに限らず、高齢者サービスでは、顧客満足度を上げ、リピーターを確保するための重要な要素になるだろう。
2|ルートの設定と選択
デジタルとアナログの組み合わせは、予約だけではなく、運行ルートの設定でも行われている。

チョイソコでは、AIを使用したシステムでルートを設定するが、現場で運行するドライバーには、そのルートを走行するかどうかを判断する裁量を与えている(対談(上))。

特定地域の局所において、例えば「こっちの信号が赤になったら、向こうの信号が青になる」、「この道路はこの時間帯は路上駐車が多いので通れない」など、極めてローカルな情報は、チョイソコのシステムでは把握していない。それは、現場の交通事情を熟知するベテランタクシードライバーならではの情報である。従って、現場のドライバーが選択できる余地を作っている。

AIを使用した高度なシステムを、人が補正することでサービスを最適化させるという運用方法は、非常に興味深い。AIがあれば最適な判断ができるとは限らないからである4。このようなデジタルとアナログの組み合わせは、オンデマンド乗合タクシーに限らず、自動運転など、他のサービスを実装する上でも参考になるものだろう。
 
4 自動運転システムにおけるAIの活用については坊美生子、百嶋徹「自動運転は地域課題を解決するか(上)~群馬大学のオープンイノベーションの現場から」ジェロントロジー対談(2021年11月9日)参照。

3――フルデマンドとセミデマンドの違いと課題

3――フルデマンドとセミデマンドの違いと課題

市町村がオンデマンド乗合タクシーを導入後、よく課題に挙がることの一つが、車両1台の平均乗車人数を表す乗合率の低迷である。チョイソコとよあけの乗合率は、新型コロナウイルス感染拡大前の2019 年 10 月~12 月だと、時間帯によって1.95から1.22である5。豊明市の早川氏が述べていた通り、フルデマンドで乗合タクシーを運営している他の市町村に比べれば高いと考えられるが、公費で負担金を出していることや、申し込んでも車両の都合がつかずに利用できない「予約不成立」が発生していることから、より乗合率を上げていくことが期待される。

豊明市を始め、乗合タクシー事業には市町村が公費を支出している場合が多いが、乗合率が1前後であれば、サービスレベルは実質、個別輸送を担う一般的なタクシーに近いものとなる。地域にタクシーの営業所が存在する場合、タクシー事業者には補助金を交付していないのに6、サービス内容が近い乗合タクシーの運営主体にだけ公金を支出すると、公平性を保てなくなる恐れがある7

乗合タクシーには、個別に予約を受けてすぐに運行する「フルデマンド」と、前日や数時間前に予約を締め切って、その都度ルートを決めて運行する「セミデマンド」があるが、フルデマンドの場合は、偶然同じ時間に同じ方向のルートを希望する乗客がいなければ、乗合が発生しにくく、よりタクシーに近いサービスになる。また、予約不成立も発生しやすく、予約できた人と、予約できずに一般的なタクシーを利用したり、外出を諦めたりした人との不公平も生じる。

豊明市は、乗合率向上を課題と認識しており、今後は、予約の少ない午後の時間帯の運賃を値下げするダイナミックプライシングや、イベントを開催してまとまった需要を喚起するなど、様々な案について言及した(対談(中))。フルデマンドの難しさをどのようにフォローし、メリットをどのように発揮していけるか、今後の施策に注目したい。

乗合率を上げるためには、セミデマンドの方がハードルが低い。例えば、▽運行エリアごとに車両を分ける、▽事前予約制にする、▽運行は1時間に1本に限定する――など、供給を絞って移動需要を集約する方法が考えられる。

乗客から見れば、自分の都合に合わせて送り迎えしてくるフルデマンドの方が好都合であるが、個人の要望に合わせた送迎は本来、個別輸送を担うタクシーの機能であり、乗客にはサービスに見合った対価が求められる。市町村が乗合タクシー事業だけに公金を支出する場合は、一般的なタクシーと乗合タクシー、それぞれの機能と役割の違いを整理しなければならない。
 
5 令和元年(平成31年)度第4回豊明市地域公共交通会議配布資料。
6 新型コロナウイルス関連の補助金を除く。
7 実際には、乗合タクシーの運行を委託しているのは、地元のタクシー事業者であるケースが多いが、その場合も、委託先以外のタクシー事業者には不公平が生じる。

4――導入後の点検と見直し

4――導入後の点検と見直し

オンデマンド乗合タクシーを導入した後は、実際に住民が移動しやすくなったのか、外出機会が増えたのかを点検していく必要がある。

チョイソコは、スポンサー制度によって収益率を向上させるスキームが注目され、全国的に有名になったが、地域の移動課題が解消した訳ではない。対談でも述べたように、豊明市が2019年、要介護認定を受けていない市内の高齢者対象に行ったアンケートでは、「徒歩移動がつらい・きつい」「バスの本数が少ない、時間が合わない」など、自身の移動手段に何らかの不安や不便を感じる高齢者の割合は、約4割に上っていた。チョイソコ導入後、外出機会が増えた高齢者がいる一方で、利用できていない高齢者も残されていると考えられる。

このアンケートは、老人福祉法と介護保険法に基づき、同市の福祉部局が「第8期高齢者福祉計画・介護保険事業計画」を策定するために、実施したものである。この結果を交通部局にフィードバックし、チョイソコだけでなく、鉄道や路線バス、コミュニティバスなど、公共交通ネットワークの改善に活かしていくことが期待される。

豊明市に限らず、福祉部局は高齢者の移動困難を把握している場合が多いが、必ずしも交通施策に反映されていない。豊明市の川島氏が指摘していたように、福祉担当は高齢者の生活に目線を置いて、個別の課題解決を目指しているのに対して、公共交通担当は最大公約数の「輸送」の実現を目指し、交通事業者や交通機関に目線を置いているため、話がかみ合いにくい、という事情があるからである(対談(上))。

しかし、高齢化によって、移動困難に直面している住民が少数ではなくなっている以上、これからは公共交通担当も、住民の個別の課題に目を向けなければならないだろう。大量輸送ではないとしても、「少数輸送」のサービスを実践していくことによって、住民の移動需要に最大限、応えていく必要がある。各市町村のなかで、福祉部局と交通部局が連携し、それぞれに把握している調査結果や輸送資源、事業者、ドライバー人材など、あらゆる情報を共有して、双方の施策に反映させていく必要がある8

特に、市町村の公共交通担当や交通事業者がアンケートを実施する場合は、事業者や乗客を対象にする場合が多いため、公共交通を利用できていない住民の課題を把握することが難しい。それに比べて、例えば高齢者福祉計画・介護保険事業計画のためのアンケートは、高齢者全体を対象にして健康状態や生活上の困難を尋ねるものであり、大変貴重である。

「高齢者の高齢化」が進む今後は、自立した高齢者から、サポートが必要な高齢者まで、切れ目なく移動サービスを提供していく必要がある。豊明市でチョイソコが生まれたのも、当初から福祉担当と公共交通担当が目的意識を共有し、協力してきた成果と言えるだろう。各市町村が、地域公共交通ネットワークを改善するための最初の一歩は、庁舎内の垣根を超えることにあるかもしれない。
 
8 市町村の交通部局と福祉部局の連携の必要については、坊美生子、三原岳「高齢者の移動支援に何が必要か(上)~生活者目線のニーズ把握と、交通・福祉の連携を~」基礎研レポート(2021年4月27日)参照。

5――新たな機能と役割への期待

5――新たな機能と役割への期待

公共交通ネットワーク維持のために、オンデマンド乗合タクシーを導入する市町村は多いが、今後はそれだけではなく、高齢者の活躍と地域コミュニティ活性化のツールとして活用していける可能性がある。加藤氏と豊明市の川島氏からも、その方向で、それぞれ貴重な示唆があった(対談(下))。

加藤氏は、チョイソコの主なターゲットである高齢者について「GDPを作っていく方に回ってもらう」という考えを披露した。社会保障給付を受けるだけではなく、移動サービスを利用して、積極的に地域活動や経済活動に取り組んでもらい、結果的にGDP増加に寄与してもらう、という考えである。アイシンはそのためにも、チョイソコを利用して、地域で高齢者が主体となる様々なイベントを企画している。

川島氏は、チョイソコの停留所を決めるプロセスそのものが、既に、地域の高齢者に役割と活躍の機会を提供していると説明した。元気な高齢者が集まり、地域の移動課題について考え、どこに停留所を設置すれば最も住民が助かるかを話し合って決定する――、このプロセス自体が、元気な高齢者たちが主体的に動き、他人の役に立つきっかけを提供しているという。他人の役に立ったり、感謝されたりする経験は、高齢者の幸福度やQOLを上げると考えられる。

従来の路線バスや一般のタクシーでは、乗客は輸送対象と捉えられてきたので、このような機会は少なかった。しかし、オンデマンド乗合タクシーは、車内空間や会員向けイベントを通じて、住民同士が顔見知りになったり、コミュニティを活性化させたりする可能性がある。チョイソコがそれを実践できれば、移動サービス以上の付加価値を提供することができるだろう。また、3で指摘したような、タクシーとの差異化を図ることもできる。

筆者もまた、高齢者を支援対象として考えていたが、高齢者が退職後、どのように活き活きと生活していけるか、そのために移動サービスに何ができるのかという、順序をひっくり返して考える必要を認識した。本対談において、アイシン、豊明市、筆者の3者でこのような考え方を共有できたことは大変貴重であった。チョイソコの議論をすることにより、オンデマンド乗合タクシーに期待する新たな機能と役割が見えてきた。
 

(この対談は2021年11月25日、愛知県刈谷市の株式会社アイシンで行いました)
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2022年02月21日「ジェロントロジーレポート」)

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【AIオンデマンド乗合タクシーの成功の秘訣(総括編)~全国30地域に展開するアイシン「チョイソコ」の事例から】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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