2022年02月08日

ASEANの貿易統計(2月号)~12月も輸出の堅調な拡大が続くも、当面はオミクロン株の感染拡大が輸出の下振れリスクに

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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21年12月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比24.3%増(前月:同29.1%増)と大幅な増加が続いた(図表1)。輸出は20年に新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が本格化して一時的に大きく落ち込んだ後、経済活動の再開やテレワーク需要の増加に伴う電気・電子製品の出荷増、商品市況の改善を受けて増加傾向が続いている。12月は引き続き域内の感染状況の改善に伴い経済活動の再開が進むなかで輸出の伸びが加速、特に国際商品市況の上昇によりインドネシアやマレーシアを中心に資源輸出が好調だった。もっとも、足元ではオミクロン株の感染拡大が続いており、再び域内外の需要が停滞するほか、供給制約が強まる恐れがある。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、12月は東南アジア向け(同25.8%増)の伸びが加速した。前年の水準が低かったことや、今夏の感染再拡大に伴う活動制限措置が解除されていったことにより高い伸び率となった。このほか、東アジア向け(同45.1%増)と北米向け(同48.8%増)、EU向け(同35.9%増)も大幅な増加が続いた。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン主要6カ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの21年12月の輸出額(通関ベース)は前年同月比25.1%増(前月:同26.3%増)の345億ドルと好調を維持した(図表3)。輸出の基調は20年に新型コロナ感染対策として国内外で実施された活動制限措置の影響を受けて一時的に落ち込んだ後、世界的な経済活動の再開や電子機器の需要拡大により大きく拡大、その後も高水準で推移している。また輸入額も前年同月比13.3%増(前月:同24.1%増)の316億ドルとなり二桁増が続いた。結果として、貿易収支が+29.7億ドルの黒字となり、前月から17.1億ドル拡大した。

輸出を品目別に見ると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が前年同月比21.9%増(前月:同21.5%増)、電気製品・同部品が同23.1%増(前月:同20.6%減)と急上昇した(図表4)。またアパレル関連では、履物が同11.4%増(前月:同3.9%増)、織物・衣類が同27.7%増(前月:同35.8%増)と、それぞれ二桁増となった。農林水産物を見ると、水産物(同23.2%増)やコーヒー(同49.6%増)、カシューナッツ(同0.3%増)、天然ゴム(同18.9%増)などが増加を続けたものの、コメ(同13.3%減)は4カ月ぶりに減少した。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同20.3%増(前月:同22.3%増)、地場企業が同38.6%増(前月:同38.2%増)と、それぞれ大幅な伸びが続いた。
(図表3)ベトナムの貿易収/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの21年12月の輸出額(通関ベース)は前年同月比24.2%増(前月:同24.7%増)の249億ドルとなり、好調が続いた(図表5)。輸出の基調は新型コロナ感染拡大の影響が直撃した20年に一時大幅に減少した後、世界的な電子機器の需要増加、国際商品市況の上昇などから増加傾向が続いている。また輸入額も前年同月比33.4%増(前月:同20.5%増)の252億ドルとなり、大幅な増加が続いた。結果として、貿易収支が▲3.5億ドルの赤字となり、前月から13.7億ドル悪化した。

輸出を品目別に見ると、全体の約7割を占める工業製品が同26.0%増(前月:同23.6%増)と10カ月連続の二桁増となった(図表6)。製造品の内訳を見ると、在宅時間が増加した影響で電子機器(同22.3%増)や家電製品(同20.5%増)が堅調に拡大、また機械・装置(同6.8%増)や石油化学製品(同20.4%増)、自動車・部品(同39.1%増)などの主要輸出品も引き続き増加した。また鉱業・燃料は同36.0%増(前月:同113.8%増)と伸びが鈍化したものの、石油製品(同35.9%増)を中心に大幅な増加が続いた。このほか、農産物・同加工品は同16.1%増(前月:同13.5%増)と好調が続いている。ゴム製品(同15.9%減)が減少したものの、コメ(同24.9%増)がプラスとなったほか、天然ゴム(同22.7%増)や果物(同21.2%増)、加工食品(同25.3%増)が二桁成長を続けるなど、総じて増加した品目が多かった。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの21年12月の輸出額(通関ベース、ドル換算)の伸び率は前年同月比24.4%増(前月:同30.5%増)の294億ドルとなり引き続き好調だった(図表7)。輸出の基調は20年に新型コロナ感染拡大と国内外の活動制限措置の影響が本格化して一時約3割の減少を記録した後、世界経済の回復や商品市況の高騰、電気電子製品の需要拡大を追い風に増加傾向が続いている。また輸入額も前年同月比19.0%増(前月:同36.0%増)の220億ドルとなり二桁増が続いた。結果として、貿易収支が+73.6億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から28.2億ドル拡大した。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同30.3%増(前月:同17.6%増)となり、主力の電気・電子製品(同31.0%増)を中心に5カ月連続で増加した(図表8)。また鉱物性燃料は同25.0%増(前月:同82.9%増)と好調を維持した。石油製品(同22.9%増)と天然ガス(同46.5%増)は大幅な増加が続いたが、原油(同4.9%減)は2ヵ月連続で減少した。このほか、化学製品(同43.2%増)、動植物性油脂(同25.0%増)の二桁増が続いた一方、ゴム手袋(同51.3%減)は昨年好調だった反動で減少した。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの21年12月の輸出額(通関ベース)は前年同月比35.2%増(前月:同49.7%増)の223億ドルとなり、大幅な増加が続いた(図表9)。輸出の基調は20年に新型コロナの感染拡大の影響が直撃して最大約3割減まで落ち込んだ後、経済活動の再開や国際商品市況の上昇により増加傾向が続いている。また輸入額も前年同月比47.9%増(前月:同52.6%増)の213億ドルとなり、大きく増加した。結果として、貿易収支が+10.1億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から25.1億ドル縮小した。

全体の9割を占める非石油ガス輸出が同37.1%増(前月:同48.4%増)と大幅な増加が続いたものの、石油ガス輸出は同7.3%増(前月:同74.8%増)と伸びが鈍化した(図表10)。品目別にみると、鉄・鉄鋼(同93.3%増)や鉱産物(同47.2%増)、電気機械(同23.9%増)、機械類(同18.4%増)、動植物性油脂(同13.7%増)、自動車・同部品(同3.6%増)、ゴム製品(同10.8%増)などが増加した。一方、天然又は養殖真珠、貴石、半貴石(同22.2%減)は再び減少した。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの21年12月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比15.8%増(前月:同23.4%増)の131億ドルとなり、伸びが鈍化した(図表11)。輸出は昨年から世界的な電子製品の需要拡大や石油製品の価格上昇により総じて好調が続いている。なお、総輸出額が同25.1%増(前月:同30.1%増)の434億ドル、総輸入額が同32.3%増(前月:同30.8%増)の398億ドルと、それぞれ増加した。結果として、貿易収支が+35.7億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から8.9億ドル縮小した。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約2割を占める電子製品は同11.0%増(前月:同28.3%増)と伸びが鈍化したものの、13カ月連続の二桁増となった(図表12)。電子製品の内訳を見ると、主力のIC(同15.1%増)やPC(同29.5%増)、ダイオード・トランジスタ(同7.7%増)が堅調に拡大したほか、ディスクメディア(同9.6%増)が2カ月連続で増加した。また全体の約3割を占める化学品は同35.6%増(前月:同36.0%増)と好調を維持した。化学品の内訳を見ると、医薬品(同68.3%増)と石油化学製品(同25.5%増)がそれぞれ大幅な増加が続いた。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの21年12月の輸出額(通関ベース)は前年同月比7.1%増(前月:同6.6%増)の62億ドルと、伸びが加速した(図表13)。輸出は2020年に新型コロナ感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が現れて急減した後、世界経済の再開を受けて増加傾向が続いているが、足もとでは主力の電子部品の輸出が鈍化して伸び悩みつつある。また輸入額は前年同月比38.3%増(前月:同36.8%増)の114億ドルと大幅に増加した。結果として、貿易収支が▲52.1億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から5.1億ドル拡大した。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の6割弱を占める電子製品が同1.8%増(前月:同5.6%増)と、伸びが鈍化した(図表14)。電子製品の内訳を見ると、主力の半導体デバイス(同1.6%増)が小幅に増加したものの、電子データ処理機(同1.3%減)が減少した。その他9品目については、ココナッツオイル(同135.2%増)やその他製造品(同53.5%増)、化学品(同43.0%増)、機械・輸送用機器(同19.2%増)、電子機器・部品(同16.5%増)、その他鉱物製品(同4.9%増)がそれぞれ増加した一方、イグニッションワイヤーセット(同24.1%減)、金属部品(同5.3%減)、製錬銅(同4.8%減)が減少した。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2022年02月08日「経済・金融フラッシュ」)

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