2022年01月27日

フィリピン経済:21年10-12月期の成長率は前年同期比7.7%増~3期連続のプラス成長、民間消費が順調に回復

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2022年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比7.7%増1(前期:同6.9%増)と上昇し、市場予想2(同6.3%増)を上回る結果となった(図表1)。

10-12月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に民間消費の増加が成長率上昇に繋がった。

まず民間消費は前年同期比7.5%増(前期:同7.1%増)となり、3期連続で堅調に拡大した。民間消費の内訳を見ると、レストラン・ホテル(同21.9%増)と保健(同17.7%増)、交通(同14.7%増)が二桁成長を続けたほか、民間消費全体の約4割を占める食料・飲料(同5.2%増)や通信(同8.0%増)、衣服・履物(同8.6%増)、教育(同7.5%増)、住宅・水道光熱(同2.6%増)も増加傾向を保った。

政府消費は同7.4%増(前期:同13.8%増)と鈍化したものの、底堅い伸びを維持した。

総固定資本形成は同9.5%増(前期:同15.5%増)と鈍化したものの、高い伸びが続いた。建設投資が同15.0%増(前期:同23.8%増)と好調を続けた一方、設備投資が同2.7%増(前期:同6.6%増)と減速した。なお、設備投資の内訳を見ると、産業用機械(同8.3%増)こそ伸びが加速したが、全体の約半分を占める輸送用機器(同3.8%増)が鈍化すると共に、一般工業機械(同6.4%減)が減少した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲2.5%ポイントとなり、前期の▲2.1%ポイントからマイナス幅が拡大した。まず財・サービス輸出は同8.3%増(前期:同9.1%増)と高い伸びを維持した。輸出の内訳を見ると、財輸出(同8.3%増)が若干鈍化したものの、サービス輸出(同14.1%増)が大きく伸びた。一方、財・サービス輸入は同13.7%増(前期:同13.0%増)となり、輸出を上回る伸びを続けた。
 
(図表1)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、主に第二次産業の加速が成長率上昇に繋がった(図表2)。

まずGDPの約6割を占める第三次産業は同7.9%増(前期: 同7.7%増)と僅かに上昇して堅調な伸びを維持した。宿泊・飲食業(同22.8%増)と運輸・倉庫業(同18.2%増)、保健衛生・社会活動(同15.9%増)が二桁成長となったほか、全体の約2割を占める卸売・小売(同7.4%増)や専門・ビジネスサービス業(同7.6%増)、不動産業(同3.4%増)、情報・通信業(同8.5%増)や金融・保険業(同4.6%増)、行政・国防(同3.3%増)もそれぞれ底堅い伸びとなった。

第二次産業は同9.5%増(前期:同8.1%増)と上昇した。まず製造業は同7.2%増(前期:同6.4%増)だった。製造業の内訳をみると、主力のコンピュータ・電子機器(同11.0%増)や食品加工(同7.2%増)、石油製品(同104.8%増)が増加を続ける一方、化学製品(同10.9%減)や輸送用機器(同23.5%減)は減少した。また建設業(同18.5%増)や電気・ガス・水道(同4.4%増)、鉱業・採石業(同7.9%増)もそれぞれ増加傾向を続けた。

第一次産業は前年同期比1.4%増(前期:同1.7%減)とプラスとなった。天候不順やアフリカ豚熱発生の影響により家畜(同9.7%減)が引き続き減少、コメ(同0.2%増)が停滞したものの、トウモロコシ(同28.7%増)が急増したほか、漁業・養殖業(同1.4%増)が3四半期ぶりのプラスとなった。
 
1 2022年1月27日、フィリピン統計庁(PSA)が2021年10-12月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査

10-12月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は新型コロナウイルスの感染拡大を背景に2020年に景気が悪化して実質GDP成長率が前年比▲9.6%と減少した。ウイルス感染の長期化により政府が外出・移動制限措置を続けたため、経済活動の再開が遅れたが、昨年4-6月期以降は成長率が前年同期の落ち込みからの反動増(ベース効果)や経済活動の再開によって押し上げられ、2021年は前年比+5.6%と2年ぶりのプラス成長となった。

今回発表された10-12月期の成長率は同+7.7%となり、前期の同6.9%増から上昇した。この成長率上昇は感染状況の改善に伴う経済活動の再開が進んだ影響が大きい。フィリピンでは昨年デルタ株の流行により第2波が到来すると8月末には感染者数が1日2万人台を突破したが、政府が8月上旬に首都圏・周辺州の外出・移動制限措置を2週間最も厳しい水準に引き上げたことやワクチン接種の加速によって9月から感染状況が改善に転じ、12月中旬には新規感染者数が数百人程度まで減少することとなった(図表3)。政府は首都圏で実施する外出・移動制限措置を10月中旬、11月上旬に段階的に緩和して5段階の上から4番目に厳しい措置まで制限を緩めたが、ワクチン接種の進展(12月の完全接種率は約4割、首都圏に限れば対象人口の約7割)も奏功して、経済再開と感染抑制の両立を進めることができた。外出制限が緩和されたことにより、10-12月平均の小売・娯楽施設への人流はコロナ前と比較して5%減(7-9月平均:約3割減)まで改善した(図表4)。結果として、10-12月期はベース効果による成長率の押上げ効果が弱まるなかでも民間消費(前年同期比+7.5%)と総固定資本形成(同+9.5%)は堅調に拡大、前期比で見てもそれぞれ+20.9%、+17.7%となり急回復を遂げた。

しかし、足元ではオミクロン株の出現によりフィリピンの新規感染者数は1日3万人前後まで急増している。オミクロン株は感染力が強い一方で重症化リスクは低いとみられているが、感染急拡大で重症者数が増えれば感染対策の厳格化を余儀なくされる恐れがある。また原油高や原材料価格の高騰によりインフレ率も高止まりしている。10-12月期の消費者物価上昇率は前年同月期+4.2%となり、中央銀行のインフレ目標(+2~4%)の上限を上回る水準で推移している。今後の米FRBの利上げ加速により新興国市場が揺らぐと、フィリピン中銀はこれまでのように低金利政策を維持することが難しくなる可能性がある。フィリピン経済は未だコロナ禍からの回復の途上にあるだけに、早期の利上げは内需回復の重石となりかねない。
(図表3)フィリピンの新規感染者数の推移/(図表4)小売・娯楽施設への移動量
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

(2022年01月27日「経済・金融フラッシュ」)

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