- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- アジア経済 >
- 東南アジアで新型コロナ感染がピークアウト
2021年11月09日
1―東南アジアの感染状況
感染拡大の背景には、デルタ株の流行とワクチン接種の遅れのほか、感染対策の不徹底や祭事期に伴う人流の増加がある。東南アジアは昨年の感染第1波が軽度で済み、海外産ワクチンの調達競争や国産ワクチンの製造に出遅れた。また人口の多さやワクチン供給体制の整備などの問題もあり、ワクチン接種率の伸び悩んでいる国が多い。さらに医療体制が脆弱なことは都市封鎖の長期化に繋がった。
東南アジア地域のなかでもASEAN-5(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム)は感染者数が多く、地域全体の9割程度を占めるが、現在は感染状況が改善傾向にある。1~2ヵ月間に渡る厳格な活動制限措置が奏功した結果、感染者数はインドネシアが7月中旬、タイが8月中旬、マレーシアとベトナムが8月下旬、フィリピンが9月上旬にそれぞれピークアウトした[図表2]。
東南アジア地域のなかでもASEAN-5(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム)は感染者数が多く、地域全体の9割程度を占めるが、現在は感染状況が改善傾向にある。1~2ヵ月間に渡る厳格な活動制限措置が奏功した結果、感染者数はインドネシアが7月中旬、タイが8月中旬、マレーシアとベトナムが8月下旬、フィリピンが9月上旬にそれぞれピークアウトした[図表2]。
感染状況の改善を受け、各国政府は早い段階で都市部を中心に適用した制限措置の解除に舵を切り、現在も段階的な制限緩和を進めている。
2―タイ、ベトナムの感染状況と政府の封じ込め措置
この間、タイ政府は首都バンコクなどで店内飲食の禁止や商業施設の営業時間制限などの行動規制を次第に強めていったが、デルタ株の猛威を止められず、感染拡大ペースは加速した。
タイ政府は7月中旬に首都バンコクを含む10都県(全77都県)を対象に夜間外出禁止など事実上の都市封鎖措置を発令し、8月には都市封鎖の対象地域を29都県に拡大、その後も工場従業員の移動を制限することで感染を防ぐバブル・アンド・シールやファクトリー・サンドボックスの追加措置を講じるなど行動規制の強化を続けた。
一連の感染対策が奏功した結果、感染者数は8月中旬に2.3万人のピークをつけ、足元では1万人前後まで減少している。タイ政府は9月から都市封鎖地域の店内飲食や商業施設の営業の制限などを一部緩和すると、10月中旬から都市封鎖の対象地域を23都県に縮小すると共に夜間外出禁止を2時間短縮した。また11月からはワクチン接種済みの外国人旅行者に対する検疫隔離を免除する方針を表明しており、段階的な制限解除を進めていく考えだ。
2|ベトナム:ゼロコロナ戦略を断念
ベトナムはこれまで水際対策や濃厚接触者の強制隔離など極めて厳格な感染防止策を実施し、短期間で感染を収束することに成功してきた。しかし、今年4月末に北部を中心に感染第4波が広がると歯止めがかからない状況に陥った。政府は当初感染源となっていた北部2省(バクザン省、バクニン省)を中心に首相指示16号に基づく社会隔離措置を講じることで新規感染者数を6月まで100~300人程度に抑え込んでいたが、人口密度の高い南部ホーチミン市に感染が広がると、感染源の特定が難しくなり感染者が急増した[図表4]。
タイ政府は7月中旬に首都バンコクを含む10都県(全77都県)を対象に夜間外出禁止など事実上の都市封鎖措置を発令し、8月には都市封鎖の対象地域を29都県に拡大、その後も工場従業員の移動を制限することで感染を防ぐバブル・アンド・シールやファクトリー・サンドボックスの追加措置を講じるなど行動規制の強化を続けた。
一連の感染対策が奏功した結果、感染者数は8月中旬に2.3万人のピークをつけ、足元では1万人前後まで減少している。タイ政府は9月から都市封鎖地域の店内飲食や商業施設の営業の制限などを一部緩和すると、10月中旬から都市封鎖の対象地域を23都県に縮小すると共に夜間外出禁止を2時間短縮した。また11月からはワクチン接種済みの外国人旅行者に対する検疫隔離を免除する方針を表明しており、段階的な制限解除を進めていく考えだ。
2|ベトナム:ゼロコロナ戦略を断念
ベトナムはこれまで水際対策や濃厚接触者の強制隔離など極めて厳格な感染防止策を実施し、短期間で感染を収束することに成功してきた。しかし、今年4月末に北部を中心に感染第4波が広がると歯止めがかからない状況に陥った。政府は当初感染源となっていた北部2省(バクザン省、バクニン省)を中心に首相指示16号に基づく社会隔離措置を講じることで新規感染者数を6月まで100~300人程度に抑え込んでいたが、人口密度の高い南部ホーチミン市に感染が広がると、感染源の特定が難しくなり感染者が急増した[図表4]。
ホーチミン市は7月9日から社会隔離措置を適用して事実上の都市封鎖に入り、外出や他地域との移動が原則禁止されると、その後も南部19省市全域や北部ハノイ市(首都)、中部ダナン市といった大都市へと社会隔離措置の対象範囲が広がった。その後も暫くの間は感染状況が改善せず、感染リスクが最も高いホーチミン市では8月23日から9月6日まで外出禁止措置を終日とするなど、政府は更なる規制強化を実施した。
新規感染者数が8月下旬の1.7万人をピークに減少に転じると、首都ハノイは9月15日、ホーチミン市は10月から社会隔離措置の緩和に転じ、製造業の操業規制やサービス業の営業規制が段階的に緩和されることとなった。ベトナムは市や省ごとに感染者がゼロになってから暫く経つまで、厳格な防疫措置を続ける「ゼロコロナ戦略」を執ってきた。企業と国民の不満が限界に達しており、政府はゼロコロナ戦略からの転換を迫られた格好だ。
新規感染者数が8月下旬の1.7万人をピークに減少に転じると、首都ハノイは9月15日、ホーチミン市は10月から社会隔離措置の緩和に転じ、製造業の操業規制やサービス業の営業規制が段階的に緩和されることとなった。ベトナムは市や省ごとに感染者がゼロになってから暫く経つまで、厳格な防疫措置を続ける「ゼロコロナ戦略」を執ってきた。企業と国民の不満が限界に達しており、政府はゼロコロナ戦略からの転換を迫られた格好だ。
3―経済活動の継続に向けてワクチン接種動向がカギに
しかし、各国政府はワクチンの普及を急ぎ、年後半から海外産ワクチンの普及が加速してきたことも確かだ。また今後はワクチンの国内製造を既に開始しているタイに続き、インドネシアとフィリピン、ベトナムでも来春までに国産ワクチンの供給が始まるとみられる。
変異株の脅威に対してワクチンの有効性は不透明な部分があるが、ワクチン接種が加速するにつれて医療体制は確保しやすくなる。つまり、経済活動と感染対策を両立しやすくなり、デルタ株の広がりで都市封鎖が長期化した今夏のような状況から抜け出せるようになるだろう。また各国ではワクチン接種完了者を対象に行動規制を緩和し始めており、対面型サービス業に希望が見えてきている。
東南アジア各国では、これまで個人に対する行動制限措置が多かったが、今回の感染拡大では企業の操業を制限する措置が導入されるケースが目立った。特にベトナムは操業制限が厳しく、製造業は従業員の「労・食・住」を工場内に集約することが条件とされ、操業を続けることが難しかったようだ。東南アジアには電機や自動車など数多くの日系企業が進出しているが、感染拡大の影響で現地工場が停止し、半導体や自動車関連部品の供給に支障が生じることとなった。
これまで東南アジアは世界の製造業から低コストの生産拠点として注目を集めてきた。しかし、今回のように有事の際の脆弱性が目立てば今後訪れる新たな脅威に対して生産基地の役割を担うことが難しいと判断され、東南アジアへの進出を躊躇する企業が増えかねない。コロナ禍の長期化は東南アジア経済への長期的な打撃となる恐れがある。
変異株の脅威に対してワクチンの有効性は不透明な部分があるが、ワクチン接種が加速するにつれて医療体制は確保しやすくなる。つまり、経済活動と感染対策を両立しやすくなり、デルタ株の広がりで都市封鎖が長期化した今夏のような状況から抜け出せるようになるだろう。また各国ではワクチン接種完了者を対象に行動規制を緩和し始めており、対面型サービス業に希望が見えてきている。
東南アジア各国では、これまで個人に対する行動制限措置が多かったが、今回の感染拡大では企業の操業を制限する措置が導入されるケースが目立った。特にベトナムは操業制限が厳しく、製造業は従業員の「労・食・住」を工場内に集約することが条件とされ、操業を続けることが難しかったようだ。東南アジアには電機や自動車など数多くの日系企業が進出しているが、感染拡大の影響で現地工場が停止し、半導体や自動車関連部品の供給に支障が生じることとなった。
これまで東南アジアは世界の製造業から低コストの生産拠点として注目を集めてきた。しかし、今回のように有事の際の脆弱性が目立てば今後訪れる新たな脅威に対して生産基地の役割を担うことが難しいと判断され、東南アジアへの進出を躊躇する企業が増えかねない。コロナ禍の長期化は東南アジア経済への長期的な打撃となる恐れがある。
(2021年11月09日「基礎研マンスリー」)
このレポートの関連カテゴリ
03-3512-1780
経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/09/13 | インド消費者物価(24年8月)~8月のCPI上昇率は小幅上昇も2ヵ月連続で物価目標を下回る | 斉藤 誠 | 経済・金融フラッシュ |
2024/09/05 | インド経済の見通し~政府支出の加速と農業部門の回復により6%台後半の高成長軌道が続く | 斉藤 誠 | Weekly エコノミスト・レター |
2024/08/19 | タイ経済:24年4-6月期の成長率は前年同期比2.3%増~観光と輸出に支えられ5四半期ぶりの+2%成長に加速 | 斉藤 誠 | 経済・金融フラッシュ |
2024/08/16 | マレーシア経済:24年4-6月期の成長率は前年同期比+5.9%~内外需が揃って改善して6四半期ぶりの高成長 | 斉藤 誠 | 経済・金融フラッシュ |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年09月17日
今週のレポート・コラムまとめ【9/10-9/13発行分】 -
2024年09月13日
ECB政策理事会-予想通り利下げ、今後は引き続きデータ次第 -
2024年09月13日
自動車保険料率の引き上げに向けた動き-自動車保険と傷害保険の参考純率の改定 -
2024年09月13日
インド消費者物価(24年8月)~8月のCPI上昇率は小幅上昇も2ヵ月連続で物価目標を下回る -
2024年09月12日
外国株式ファンドが一時、売却超過に~2024年8月の投信動向~
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
【東南アジアで新型コロナ感染がピークアウト】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
東南アジアで新型コロナ感染がピークアウトのレポート Topへ