2022年02月07日

AIオンデマンド乗合タクシーの成功の秘訣(中)~全国30地域に展開するアイシン「チョイソコ」の事例から

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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チョイソコのエリアスポンサーの集客のために、アイシンがイベントを企画運営

坊: 次に、チョイソコの成果と課題をどう考えているか、それぞれお聞きしたいと思います。まず加藤さんには、アイシンと、協賛しているエリアスポンサーさんにとっての、それぞれの成果と課題をお尋ねしたいと思います。
 
加藤氏: 最新の展開状況が成果と言えます。現時点で既に運行しているのは全国27か所(図表1)。この他にも、導入が決まっている地域も5つぐらいあるので、約30か所に増えたということです。ただ運行の仕方、運行する曜日や時間帯、車両の台数などは、地域によってまちまちです。

重要なのは、現状で1か所もやめたところが無いということです。競合他社では、多数の地域で実証実験を行ったけど、うち7割以上でサービスをやめたというところもあります。
図表1 チョイソコの全国展開状況(2021年10月末時点)
豊明市では、最初は会員数91人で始まりましたが、住民への周知がじわじわ進み、今は2,000人を超えています。使って便利だと思うと増えていくし、安定します。

継続させていくことがとても大事で、私は絶対に実証実験で終わらせたくないのです。だから、事業として継続していきたい。当時の伊原社長に助けてもらったのは、私が「チョイソコはこれだけ住民や自治体を巻き込んだのだから、止められませんよ、いいですね」というと「大丈夫」と言ってくれました。我々は公共交通サービスをやっているのだから、企業の都合で「ちょっと走らせてみて儲からないから撤退だ」ということは、簡単にはできないと思っています。まして、もう全国30か所まで増えて、各地域で自治体や企業と様々な取り組みを展開しているので、ここまで来ちゃったら絶対止められない。だから、何とかして継続させていこうとしています。

そうは言っても、エリアスポンサーになってくれた事業所には、それぞれ事情があるので、ちゃんとメリットを出してあげないといけない。だから会員に「チョイソコ通信」を配布して、スポンサー企業を宣伝してさしあげたり、飲食店であれば、そこを活用したイベントをアイシンが企画運営して、「ちゃんとお客さんを連れて来ていますよ」と示したりしています。

でも、エリアスポンサーが出したお金に対して100%以上売り上げとして返ってきているかというと、返ってないところも多いと思います。クリニックは患者さんが大幅に増えて、大きなメリットが出ているようですが、スーパーや商業施設はそこまでいかない。だから、スポンサー企業になる魅力付けを、我々が別の形で行う必要がある。例えば今年12月には、協賛会社を集めて「感謝祭」というイベントを開催します。JAさんによる料理の実演や、美容室によるヘアスタイリングの実演、弁当のブース出展などがあります。こういう工夫をしながら、全国で、エリアスポンサーさんを維持していく取組をしています。
写真1 チョイソコ会員に毎月送られる「チョイソコ通信」。エリアスポンサーが宣伝されている
坊: チョイソコは、エリアスポンサーから協賛金をもらって支えてもらう仕組みですが、一方的にお金をもらうだけではなく、逆に、チョイソコでお客さんが増えるようなイベントを企画して、支えていくということですか。
 
加藤氏: はい。全国の協賛企業にメリットが出るように運用を工夫していく。例えば、去年は餅つき大会をやって、40人ぐらい会員が参加されたのですが、その時に何キロもち米を使ったとか、何時頃から餅を蒸かし始めたとか、そういう情報も全部、全国のチョイソコの導入地域で共有して、他のところでもやってみてください、と呼びかけています。月1回、そういう情報を全国に送っています。
 
坊: 豊明市にも、成果と課題をお聞きしたいと思います。一つは住民への影響です。もともとの目的であった、高齢者の外出機会の増加は、どの程度かなったのでしょうか。二つ目は、お金についてです。豊明市では、従来あったコミュニティバスを減らして、チョイソコを導入したということですが、公共交通事業全体への市からの支出額は減ったのでしょうか。
早川佳介・豊明市行政経営部企画政策課施設・交通マネジメント係主事 早川氏: 昨年、チョイソコ利用者600人を対象にアンケートを実施しました。その中で、回答者にとって最も外出頻度の高い目的について、その外出を始めた要因を尋ねると「チョイソコ利用がきかっけになった」と回答した人は約2割いました。従って、チョイソコは、高齢者の外出促進に寄与していると考えています。

公共交通事業全体への市の補助額は、チョイソコ導入により減ったのではなくて、むしろ増えました。コミュニティバスの再編事業は、路線をコンパクトに集約して、効率よく運行することにしました。それによって、空白になるエリアが出てくるので、そこにチョイソコをあてがいました。そのチョイソコへの負担金が、むしろ増えた部分です。
川島氏: デマンド交通というものは、各市町村は、公共交通関連の経費削減の手段として考えがちですが、我々はそうではなく、どちらかというと、エリアごとに、より使いやすい公共交通をはめこんでいこうという考え方で導入しました。チョイソコによって補助金額を減らそうとか、効率よく運行しようということは、最初から考えていません。

坊: 公共交通への補助額を減らして効率を上げるということではなく、公共交通の利用を増やす、利便性を向上するために、交通体系を見直すという考え方ですね。
 
川島氏: はい、住民にとって本当に使いやすい、その地域に合ったモビリティを入れていこうと取り組んでいます。

そうは言っても、負担額の限度はあります。本当は、チョイソコの車両も3台、4台まで増やせたら良いですが、いきなりそういうことはできないので、まずは、これまでの実証実験の課題を整理しながらやり方を改善し、利用を増やしてきたいと思います。

予約が少ない午後の利用を促す

予約が少ない午後の利用を促すため、ダイナミックプライシングの導入も視野に

早川氏: 課題としては、やっぱり車両2台でできる運行本数としては、ほぼ上限に達しているかなと思います(図表2)。コロナ禍で利用が減っているとはいえ、その前のピーク時は、運行本数が高止まりでした1。豊明市のチョイソコはフルデマンドで走行しており、1日に運行できる本数には物理的に限りがあります。そのような中で、今後利用者を増やすとなると、1台当たりの乗客を増やす、乗合率を上げていかないとどうしようもない。

乗合率を上げるために、アイシンもいろんなイベントを企画してくれていますが、乗車率は大体、1.6から1.7当たりを推移している状況です。他の自治体さんが運営しているデマンド交通の利用実績を見ても、乗合率が2を超えている例は見たことがなく、大体1台の前半なので、チョイソコは高い方かと思っていますが、この先も持続可能にしていくためには、そういうところを上げていかないといけないと思います。

また、現状では車両2台で運行しているため、予約の電話があっても車が空いておらず、予約不成立になることがあります。予約不成立が発生する原因としては、通院での利用が多いので、予約が午前中に集中するということがあります。ですから、今後考えられる対策としては、予約を均等化するために、午後の乗車には特典をつけること。例えば、午後の利用料を安くするダイナミックプライシングなど、オフピーク時に予約を促す流れを作ると、ある程度、予約不成立も減ってくるかなと思います。法的には現状でも可能ですが、協議運賃になるので、地域公共交通会議で説明して、委員の合意を図らないといけない。まだそこまで対応が追い付いていないのが現状です。

もう一つの課題としては、先ほども述べたように、チョイソコが通院目的に多く使われていることです。チョイソコの導入目的である健康増進のためには、通院の状態になる手前の段階で、お出かけに利用してもらいたい。娯楽や趣味の目的地がもっと増えてほしいと思っています。
図表2 チョイソコとよあけの1日あたりの運行本数の推移
川島氏: 利用目的になるイベントをうまく企画できれば、同じ時間帯に、同じ目的地に向けて、多くの会員が利用してくれるから、乗合率も高まってくると思います。通院だと、皆行きたい医療機関がバラバラだから乗合率が高まらないけど、できれば利用を揃えられるような目的を作れると良いので、そこが課題ということですね。
図表3 チョイソコとよあけの時間帯別の乗合率
 
1 「令和3年度第1回豊明市地域公共交通会議」配布資料によると、2020年10月~2021年3月の車両2台の時間帯別運行本数は、2.6本から1.0本。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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