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AIオンデマンド乗合タクシーの成功の秘訣(中)~全国30地域に展開するアイシン「チョイソコ」の事例から

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
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チョイソコのエリアスポンサーの集客のために、アイシンがイベントを企画運営
加藤氏: 最新の展開状況が成果と言えます。現時点で既に運行しているのは全国27か所(図表1)。この他にも、導入が決まっている地域も5つぐらいあるので、約30か所に増えたということです。ただ運行の仕方、運行する曜日や時間帯、車両の台数などは、地域によってまちまちです。
重要なのは、現状で1か所もやめたところが無いということです。競合他社では、多数の地域で実証実験を行ったけど、うち7割以上でサービスをやめたというところもあります。
継続させていくことがとても大事で、私は絶対に実証実験で終わらせたくないのです。だから、事業として継続していきたい。当時の伊原社長に助けてもらったのは、私が「チョイソコはこれだけ住民や自治体を巻き込んだのだから、止められませんよ、いいですね」というと「大丈夫」と言ってくれました。我々は公共交通サービスをやっているのだから、企業の都合で「ちょっと走らせてみて儲からないから撤退だ」ということは、簡単にはできないと思っています。まして、もう全国30か所まで増えて、各地域で自治体や企業と様々な取り組みを展開しているので、ここまで来ちゃったら絶対止められない。だから、何とかして継続させていこうとしています。
そうは言っても、エリアスポンサーになってくれた事業所には、それぞれ事情があるので、ちゃんとメリットを出してあげないといけない。だから会員に「チョイソコ通信」を配布して、スポンサー企業を宣伝してさしあげたり、飲食店であれば、そこを活用したイベントをアイシンが企画運営して、「ちゃんとお客さんを連れて来ていますよ」と示したりしています。
でも、エリアスポンサーが出したお金に対して100%以上売り上げとして返ってきているかというと、返ってないところも多いと思います。クリニックは患者さんが大幅に増えて、大きなメリットが出ているようですが、スーパーや商業施設はそこまでいかない。だから、スポンサー企業になる魅力付けを、我々が別の形で行う必要がある。例えば今年12月には、協賛会社を集めて「感謝祭」というイベントを開催します。JAさんによる料理の実演や、美容室によるヘアスタイリングの実演、弁当のブース出展などがあります。こういう工夫をしながら、全国で、エリアスポンサーさんを維持していく取組をしています。
加藤氏: はい。全国の協賛企業にメリットが出るように運用を工夫していく。例えば、去年は餅つき大会をやって、40人ぐらい会員が参加されたのですが、その時に何キロもち米を使ったとか、何時頃から餅を蒸かし始めたとか、そういう情報も全部、全国のチョイソコの導入地域で共有して、他のところでもやってみてください、と呼びかけています。月1回、そういう情報を全国に送っています。
坊: 豊明市にも、成果と課題をお聞きしたいと思います。一つは住民への影響です。もともとの目的であった、高齢者の外出機会の増加は、どの程度かなったのでしょうか。二つ目は、お金についてです。豊明市では、従来あったコミュニティバスを減らして、チョイソコを導入したということですが、公共交通事業全体への市からの支出額は減ったのでしょうか。

公共交通事業全体への市の補助額は、チョイソコ導入により減ったのではなくて、むしろ増えました。コミュニティバスの再編事業は、路線をコンパクトに集約して、効率よく運行することにしました。それによって、空白になるエリアが出てくるので、そこにチョイソコをあてがいました。そのチョイソコへの負担金が、むしろ増えた部分です。
坊: 公共交通への補助額を減らして効率を上げるということではなく、公共交通の利用を増やす、利便性を向上するために、交通体系を見直すという考え方ですね。
川島氏: はい、住民にとって本当に使いやすい、その地域に合ったモビリティを入れていこうと取り組んでいます。
そうは言っても、負担額の限度はあります。本当は、チョイソコの車両も3台、4台まで増やせたら良いですが、いきなりそういうことはできないので、まずは、これまでの実証実験の課題を整理しながらやり方を改善し、利用を増やしてきたいと思います。
予約が少ない午後の利用を促すため、ダイナミックプライシングの導入も視野に
乗合率を上げるために、アイシンもいろんなイベントを企画してくれていますが、乗車率は大体、1.6から1.7当たりを推移している状況です。他の自治体さんが運営しているデマンド交通の利用実績を見ても、乗合率が2を超えている例は見たことがなく、大体1台の前半なので、チョイソコは高い方かと思っていますが、この先も持続可能にしていくためには、そういうところを上げていかないといけないと思います。
また、現状では車両2台で運行しているため、予約の電話があっても車が空いておらず、予約不成立になることがあります。予約不成立が発生する原因としては、通院での利用が多いので、予約が午前中に集中するということがあります。ですから、今後考えられる対策としては、予約を均等化するために、午後の乗車には特典をつけること。例えば、午後の利用料を安くするダイナミックプライシングなど、オフピーク時に予約を促す流れを作ると、ある程度、予約不成立も減ってくるかなと思います。法的には現状でも可能ですが、協議運賃になるので、地域公共交通会議で説明して、委員の合意を図らないといけない。まだそこまで対応が追い付いていないのが現状です。
もう一つの課題としては、先ほども述べたように、チョイソコが通院目的に多く使われていることです。チョイソコの導入目的である健康増進のためには、通院の状態になる手前の段階で、お出かけに利用してもらいたい。娯楽や趣味の目的地がもっと増えてほしいと思っています。
1 「令和3年度第1回豊明市地域公共交通会議」配布資料によると、2020年10月~2021年3月の車両2台の時間帯別運行本数は、2.6本から1.0本。
(2022年02月07日「ジェロントロジーレポート」)
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03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
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