2021年12月22日

グーグルショッピングEU競争法違反事件判決-欧州一般裁判所判決

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任   松澤 登

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1――はじめに

欧州委員会はGoogle及びその親会社となったAlphabet(以下、まとめてGoogleという)に対して、2017年6月27日付けで24.2億ユーロの制裁金賦課命令を出した1。これは、Googleの事業の一つである、Google Shoppingという商品比較サービスに関するものである。欧州委員会の認定によれば、Googleは一般検索サービス市場において支配的な立場にあるが、その立場を濫用して、検索結果において自社サービスであるGoogle Shoppingに掲載されている商品の情報を、他の商品比較サービスのそれよりも上位に表示することによって、自社サービスへのトラフィック(traffic、流出量あるいは流入量)を増加させ、他のサイトへのトラフィックを阻害したとするものであった。欧州委員会はこの行為がEU機能条約(The Treaty on the Functioning of the European Union (TFEU))第102条違反行為(支配的地位の濫用)であると認定した 。このような行為により、商品比較サービス市場において競合事業者を締め出し、小売業者の手数料の上昇、消費者への価格上昇などの反競争的効果を生む可能性があるとした。

これに対し、GoogleはEU一般裁判所2(General Court)に欧州委員会命令の取り消しを求めて提訴を行ったところ、2021年11月10日付で判決が下された。結果としては、欧州委員会の主張をほぼ認め、課徴金の金額についても欧州委員会の命令通りとされた。
 
1 https://www.nli-research.co.jp/files/topics/66796_ext_18_0.pdf?site=nli 参照
2 一般裁判所は欧州委員会の決定に関する訴訟の管轄権を持つ事実審で、上級裁判所として司法裁判所(Court of Justice)がある。

2――前提事実と適用法令

2――前提事実と適用法令

1|Google検索を取り巻く事実関係
判決に触れる前に、判決が前提とする事実関係についてまとめて示すと下記図表1の通りである。
【図表1】判決が前提とする事実
Googleは商品にかかわる検索が行われた際に(たとえば冬用コート)、一般的な検索結果(natural results)と合わせて、比較ショッピングサイトに掲載されている商品も検索結果として表示する。一般的な検索結果は検索ワード(クエリという)に関連性の深いものを基準としてランキングの上で表示するが、商品については別の調整アルゴリズム(Universal Searchと呼ばれる)によって順位付けがなされる。このアルゴリズムによって、一般的な比較ショッピングサイトに掲載される商品は自然検索の下の方(場合によっては次頁以降)に掲示されるのみとなる。他方、Google Shoppingの商品はShopping Units(またはProduct Universals)3,4という検索結果の上部の欄に、写真付きなどで表示される。比較ショッピングサイトが検索結果の上位に掲示されるようにするには、料金を支払って、テキスト広告(リンクの頭に【広告】と表示されているもの)とするか、あるいは料金を払って、Shopping Unitに掲示してもらう必要がある(ただし後述の通り、一定の条件がある)。このような仕様となったのは2013年である5

EU委員会が問題にしたのは、要するに、(1)Google Shoppingの掲載商品については、上部に目立つように表示される一方で、(2)他の競合する比較ショッピングサイトの商品は、そのままでは検索結果の下位にしか表示されないことである。
 
3 Product Universalsは検索結果の上部に記載されていた商品検索結果表示であるOne Boxを、英国やドイツで名称変更したものである。現状はProduct Universalsも廃止され、本文の通りShopping Unitsに変更されている(判決文パラグラフ17)。
4 Googleは当初、一般検索結果上のリンクをクリックすると小売業者のサイトに遷移する仕様の下で、Product One Boxの特別なリンクをクリックするとFroogleという専門検索サイトに遷移するようにしていた。2007年以降、FroogleはProduct Searchに変更され、最終的にはGoogle Shoppingとなった。
5 判決文パラグラフ9~17。
2|適用法令
適用法令は上述の通り、EU機能条約の102条であり、具体的な条文としては、「域内市場又はその実質的な一部における独占的事業者(一又は複数)による濫用行為は、加盟国家間の交易に関する限りにおいて、域内市場と両立しないものとして禁止される」というものである。

Googleは訴訟において問題となったEU域内13か国の一般検索サービス市場において、独占的な地位を占めているとされており、この点についてGoogleは争っていない。

Googleは一般検索サービス市場において独占的事業者であることから、その隣接市場である比較ショッピングサービス市場において濫用行為を行ったことが本条違反となるというのがEU委員会の認定である6
 
6 欧州委員会は一般検索サービス市場での競争制限的行為も問題としているが、本稿では省略する。

3――日本における排他的私的独占に係る指針

3――日本における排他的私的独占に係る指針

以下では、判決文を分析していくが、そのまま書き下すと論点の羅列にとどまってしまうこととなる。そこで、日本における実務に関するものであるが、公正取引委員会の「排除型私的独占に係る独占禁止法上の指針」(以下指針)を、いわば物差しとして訴訟当事者が何を論じ、裁判所がどう判断したのかを見ていくこととする。

この点、Googleのようなオンライン検索サービスのようなビジネスモデルは、指針に記載はない。そこで本稿では、川上で事業を行う大きなメーカーが、川下市場にいる小規模メーカーに商品をおろす場合に差別的取り扱いを行う場合に類似するものとして検討を進めることとする。つまり、検索サービスで生ずる膨大なトラフィックを、比較ショッピングサイトへと流し込むにあたって、川上事業者であるGoogleが、川下事業者である比較ショッピングサイトに対して差別的な取り扱いをしている構図が、指針が対象としている事案に当てはまるものと仮定して検討を進めたい7

この観点からの指針の差別的取扱いに関する考え方を抽出すると、その概要は図表2の通りである。なお、指針には下記よりも細部にわたり判断基準を示しているが、本案件の重要ポイントに照らして項目は絞っている。
【図表2】指針に基づく差別的取扱が排除的私的独占として違法となる要素
大きくは(a)「排除行為」が行われたかどうか、そして(b)その行為により一定の取引分野における「競争が実質的に制限」されたかという二点により排他的私的独占に該当するかどうかを判断する。

そして(a)排除行為が行われたかどうかは、イ)川上事業者が川下事業者の事業活動の必須商品(本件においてはトラフィック)を供給しているか、ロ)取引条件は自由競争のもと、当事者間の調整で定まるものであるが、競争手段として合理的な範囲を超えるものかどうか、ニ)川上事業者が行っている行為がその態様や目的からして排除行為と言えるか、などで判断される。

次に、(b)一定の取引分野で競争が実質的に制限されたかどうかは、イ)影響の範囲が商品および地理的なものとして画定できるか、ロ)当該市場において川下事業者の事業が困難になるおそれがあり、競争自体が減少したか、ハ)効率性の向上や消費者利益の確保など正当化できる事情があるか、などで判断される。
 
7 指針では、市場で大きなシェアを持つ大手製缶メーカーが、缶詰の食品を製造する会社がコスト削減のために一部の缶を自家製造しようとしたところ、その食品会社が作っていない種類の缶を供給しないとした例が挙げられている(指針第2の1(注4)(1))。

4――Googleの主張と裁判所の判断

4――Googleの主張と裁判所の判断

1総論
判決文では5つのパートに分けてGoogleの主張をまとめ、それぞれについて検討を加えている。Googleによる市場濫用行為があったとの欧州委員会の認定に対して、Googleの主張は順に、(1)検索方法や表示方法の改善は品質改善という公正競争に沿ったものであり、濫用的とは言えない。(2)比較ショッピングサービス市場で差別的な取り扱いを行ってはいない。(3)Google検索の検索結果のランキング方式や表示方法の改善によって反競争的な結果が発生したとは言えない。(4)Google検索結果において、Shopping Unitsを自然検索結果と別に表示することは、検索結果ページからのトラフィックを歪めて(divert)はいない。(5)課徴金を科すことは正当でないというものである。
 
判決文は細部にわたって検討を加えているが、本稿は大まかな判決の判断を解説するものとして、それぞれの論点とそれに関する裁判所の判断のごく一部にしか触れていないことをあらかじめご了承いただきたい。
2|五つの主張それぞれに対する判断
(1)商品検索機能と表示方法の改善は公正競争にそった合理的なものであるとの主張
本論点は、排除行為が行われたかどうかにかかわるものである。排除行為が行われたかどうかについての判断要素は上記3の(a)イ)ロ)ハ)の通りであるが、Googleは一般検索サービス市場で独占者であり、トラフィックを比較ショッピングサイトに提供しているという点については争っていない。

本論点では、まず(a)イ) に関して、川上事業者(Google)が川下事業者(比較ショッピングサイト)に提供する商品(トラフィック)が川下事業者の事業活動に必須な商品であるといえるか、および(a)ロ)に関して、商品検索機能(調整アルゴリズム)と表示方法の改善が公正競争に沿ったものとして合理的なものであるかどうかについての議論に該当する。

(A)Googleの主張
Googleは、1)商品検索機能の改善や表示方法の変更は、通常の競争手段として行われた品質向上の結果であり、公正競争(competition on the merits)から逸脱したものではない。また、2)Googleの一般検索結果に比較ショッピングサイトがGoogle Shoppingと同様に掲載されないことが問題視されるためには、それが不可欠であり、Googleが供給義務を負うことを証明しなければならないが、そのような立証はなされていない。さらに3)Product Universals(現Shopping Units)を設けたのは、Google Shoppingへのトラフィックを増加させることを目的としたものではなく、検索結果の品質と関連性を高めるためのものであったと主張した8
 
8 パラグラフ139~145、199~207、250~251
(B)裁判所の判断
これに対して、裁判所は参入障壁が高い一般検索サービス市場において独占的地位を有するGoogleは、域内市場において公正競争を妨げてはならないという特別な強い責任が課されるとする。そして1)´一般の検索結果において、通常の一般検索方法とは異なる、ある種「異常な」方法でGoogle Shoppingと競合する比較ショッピングサイトを実質的に見えなくすることは、一般検索サービスの意図した目的と一致していない。そして一般検索サービスから専門検索サービス(=比較ショッピングサイト)へのトラフィックは専門検索サイトにとって重要な資産である。また、歪められたトラフィックを他の手段で補完することは困難である。したがって、Googleのこのような慣行は公正競争を構成するものとは言えない。また、2)´Googleからのトラフィックは比較ショッピングサイトに不可欠であり、実質的に代替可能なものではない。また本件は取引拒絶ではなく、差別的取り扱いが問題となっており、供給義務を負うことを立証する必要はない。さらに3)´目的や動機が行為にあたって評価すべきとの主張は正当であるが、法の禁止する濫用行為は客観的要素、すなわち、自社の比較ショッピングサイトへのトラフィックを増加させ、他の比較ショッピングサイトへのトラフィックを減少させる行為から構成されうるものであって、目的はこのような判断を左右するものではないとする(図表3)9
【図表3】判決の認定する事実関係
 
9 パラグラフ150~198、212~249、254~267
(C)評価
まず(a)イ)Googleからのトラフィックが事業活動に必須かどうかについては、指針によれば「他の供給者を容易に見出すことができない」かどうかと言い換えられる(指針第2の5)。この点上記判決1)´2)´で述べられている通り、Googleからのトラフィックは実質的に代替可能なものではない (後述(3)(B)5)´も参照)。したがって比較ショッピングサイトにとってみると、他のトラフィック供給者を容易に見出すことができないと考えられ、この点は要件を満たすことになる。

次に(a)ロ)競争手段として合理的な範囲を超えているかどうかであるが、そもそも一般検索サービス市場における支配的事業者であるGoogleにおいても品質改善を通じた公正な競争行為を行うことができることは当然である。したがって、一般検索結果ページにおいて、消費者にとって見やすくしたり、興味のあるものを上位に持ってきたりすることは特段問題のある行為ではない。

ただ、たとえば価格を引き下げる行為は、一般に競争手段としては最も合理的と言える手段であるが、それが競合する事業者から顧客を奪う手段として用いられるときには、排除型の私的独占として禁止される(指針第2の1(注3))。本事案では、実態として、一般検索結果では上位に表示される数件にしか消費者は興味を持たないとされているところ、自社サービスであるGoogle Shoppingの商品を一般検索サービスの上部に表示するのに対して、競合する比較ショッピングサイトの商品が調整アルゴリズム(上記2の1|参照)の結果として、下部または次頁以降に表示されることとなっている。したがって外形上、競合する比較ショッピングサイトからの顧客を奪取しているとの評価が可能であり、競争手段として合理性を欠き、この要件も満たすといってよいものと思われる。

また、意図的かどうかが争われているが、排除的な意図を有しているかどうかは重要な事実であっても不可欠な要素ではないとされる(指針第2の1(1))。ただ、本事案で真に意図的ではなかったかといえるかどうかについて疑義がある。

以上から、(a)イ)事業活動に必須の商品(トラフィック)を供給しており、かつロ)商品検索機能と表示位置の変更等については競争手段として合理性な範囲を超えるものと考えられる。
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保険研究部   常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長・ジェロントロジー推進室研究理事兼任

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

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