2021年12月15日

シンガポール、人による保険サービスに根強いニーズ-高難度商品、保険金請求手続き場面で高ニーズ オンラインと人によるサービスの融合が今後のカギ

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1―はじめに

新型コロナウイルスの影響を受け、これまでは対面中心だった保険に関する諸手続き・サービスにもパラダイムシフトが発生し、先進国、途上国問わず、世界的にオンライン化の波が著しい。

このような中、シンガポールに本社を置く、金融関係比較情報提供サイトを運営しているマネースマート社が、同国内において過去2年以内に保険に加入した人を対象に、人/オンラインによる保険サービスに関する調査結果に関するレポートを公表1した。そこでは、オンライン化が急速に進行している中にあっても、人による保険サービスも根強いニーズがあることがわかった。

顧客との接点として、人とオンラインとをどう位置付け、どのような手を打っていくかは、日本の保険会社においても重要な課題の一つと考えられることから、その概要について、紹介したい。
 
1 マネースマート社は、シンガポール国内において過去2年以内に保険に加入した人を対象にした調査を2021年7月から8月に実施し、562名からの回答をまとめた調査結果レポート“Bots vs Bodies”を2021年9月16日付で公表している。

2―全体的な傾向

2―全体的な傾向

同レポートによれば、シンガポールの消費者は、保険加入を検討する際は、まずオンラインで情報収集し、そこで一通り学習した後、加入決定に至る前に、自らの選択について、誰かに検証してもらう、という流れを辿るのが一般的である。

また、同調査は、前述のとおり2年以内に保険に加入した人を対象にしているが、回答者のうち、保険加入時にアドバイザーを経由して加入した人と、オンラインによる加入者はほぼ同数であった。

一方、保険金請求手続き場面では、より多くの人々が、オンラインを通じた手続きインフラがあっても、アドバイザー1を経由した請求手続きを行うケースが多い(表1)。
【表1】対人とオンラインの保険加入検討時、保険加入時、保険金請求時における利用状況
それぞれのチャネルを選択した主な理由としては、人を経由して加入を選択した人は、「アドバイザーを個人的に知っている、または知人から推薦された人だから」、「アドバイザーの方がオンラインと比べて安心感があるから」となっている。

一方、オンライン経由で加入した主な理由としては、「簡単さ」、「便利さ」となっている(表2)。
【表2】保険加入時に「人/オンライン」を選択した理由
なお、保険加入にあたっての満足度は、アドバイザー経由での保険加入の方がオンライン加入よりも高く、人々はリスクがより高いと感じているとき、アドバイザーのサポートにより高水準で満足している。
 
1 同レポートでは、保険サービスの提供主体について、「オンライン」に相対するものとして「アドバイザー」と記載されている。AXCOの調査によれば、シンガポールの生命保険の募集チャネルは、代理店、バンカシュアランス、ファイナンシャル・アドバイザーに大別され、それぞれのチャネルの2019年における新契約保険料シェアは、それぞれ、34%、36%、22%、それぞれのチャネルを通さない直接加入は5%となっており、同レポートでは、それら「人によるチャネル」を総称して、「アドバイザー」と記載しているものと考えられる。

3―商品ごとの状況

3―商品ごとの状況

同レポートでは、「自動車保険」、「重大疾病保険」、「家財保険」、「入院保険」の4つの保険商品別2に、調査結果を公表しており、商品ごとに加入・請求の場面において状況も異なっている。
 
2 同レポートでは、これらの商品に対して人々が感じる難易度につき、易しい順から、自動車、重大疾病、家財、入院、としている(同レポートP.11)。なお、重大疾病保険については、MoneySmart社のHPに掲載しているガイダンス(Critical Illness Insurance in Singapore: The Complete Guide)によれば、例えば癌、心筋梗塞等、リスト上に掲載している疾病に罹患したと診断された場合に一時金が支払われるタイプが一般的とされている。
1加入チャネルの状況
商品ごとの保険加入チャネルを見てみると、自動車、重大疾病、家財については、オンラインを通じた保険加入が多く、約6割となっている一方、入院については、人を介した保険加入が約4分の3を占めており、他の3つと大きく異なっている。
【表3】保険商品ごとの加入チャネル状況
入院保険については、カバーする必要性や、どのように保険金が設定されるのか等、商品内容についての理解が他商品に比べて乏しく、安心して購入プロセスに入る前に、人々は自らの選択についての学習と確信を必要としている。

また、申込みプロセスに際して、アドバイザーがサポートする場合、全商品に共通して顧客の満足度は非常に高くなることがわかった。
2保険金請求時における満足度の状況
保険金請求については、保険加入と異なり、回答者のうち7割近く(65%)がアドバイザーを通じて手続きを行っている。保険金請求場面においては、多くの人々が、オンラインでの請求手続きは複雑で時間がかかると思っており、さらに、手続きにミスがあった場合は、請求がスムーズに進まないリスクがあると感じている。

また、保険金請求処理に対する満足度は、自動車保険については、アドバイザー経由とオンラインではほぼ同等となっているが、それ以外の重大疾病保険、家財保険、入院保険については、アドバイザー経由の方が15%以上高い水準となっている。アドバイザーが書類を揃え、請求の処理と提出をサポートすることで、顧客は高いレベルでの満足と安心感を得ることが確認された。
【表4】保険金請求処理に対する満足度

4―おわりに

4―おわりに

これまで紹介してきた通り、オンラインでの手続きは、「簡単」「便利」ではあるものの、特に複雑な商品加入・提出書類が複雑で多い手続き場面等では、仕組みの理解、安心感の提供といった面から、人による保険サービスに対する根強いニーズがあり、また、人による保険サービスを通して顧客満足度も高水準となることが確認された。

保険関係手続きについてのオンライン化の流れは、今後も止まることはないと考えられる中で、マネースマート社では、オンライン化と人によるサービスの融合・バランスが今後のキーポイントだと位置付けている。

こうした動きについては、アジアのみならず、先進国含めた課題と考えられることから、今後も引き続き注視していきたい。
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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴
  • 【職歴】
    1989年 日本生命入社
    1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
    1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

(2021年12月15日「保険・年金フォーカス」)

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レポート紹介

【シンガポール、人による保険サービスに根強いニーズ-高難度商品、保険金請求手続き場面で高ニーズ オンラインと人によるサービスの融合が今後のカギ】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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