2021年11月10日

SNSは若者だけのモノではない?-80歳以上の36%がSNSを利用するIT時代の到来

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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1――Windows95の発売から25年以上が経った

高齢者向けのデバイスの開発やインターネット教室が開講されているように、今までシニア層は通信市場では「インターネット」が苦手な層として認識されてきたように思われる。しかし、Windows95が一般的に使われるようになった1995年から25年以上経ち、シニア層においてもインターネットに慣れ親しんだ層が、我々がイメージしているよりも遥かに増加してきていると考える。実際に総務省「令和2年度 通信利用動向調査」のインターネットの利用率を世代別にみると、シニア層においても60~69歳は90.5%、70~79歳は74.2%、80歳以上は57.5%となっており、若者には及ばないもののシニア層の半数以上がインターネットを利用している1
図1 2019年属性別インターネット利用率 (N=37,182;単位%)
では、シニア層のなかでも、年代においてその利用方法に違いはあるのだろうか。前述した総務省の『通信利用動向調査』では「過去1年間にインターネットで利用した機能・サービスと目的・用途」を聞いている。以降では、このうち「ソーシャルメディアの利用」に焦点を置き、2011年度調査から2020年度調査の10年間におけるシニア層を60~64歳、65~69歳、70~79歳、80歳以上の4つの年代層別に利用状況について分析した。
 
1 当然のことながら若年層においては13~19歳は98.4%、20~29歳は99.1%と概ねすべての若者が利用している。

2――シニア層SNS利用率の実態

2――シニア層SNS利用率の実態

図2「ソーシャルメディア」の利用率
全体をみると、2011年度調査の37.6%から右肩上がりに増加し、2020年度調査では70.2%(2011年度比+32.6ポイント)となっている。シニア層においても同様に増加しており、シニアの各年代における利用率はこの10年間で“60~64歳”では63.4%(同比+45.3ポイント)、“65~69歳”では52.8%(同比+38.7ポイント)、“70~79歳”では43.1%(同比+32.4ポイント)、“80歳以上”では36.2%(同比+27.8ポイント)と、全ての年代において大幅に増加している。SNSは主に若者が使用しているイメージが強いが、このように60代においても半数以上が利用しており、もはやシニア層においても日常的に使われていると言ってもよいだろう。

このようなシニア層におけるソーシャルメディア利用者の増加の背景には、SNS3市場の拡大とネットワーク外部性があると筆者は考える。まずSNS市場の拡大である。SNSは今でこそ手軽にスマートフォンから利用でき、そのインターフェイスもスマートフォンを意識した仕様になっているが、通信利用動向調査によれば、2011年度調査が行われた当時のスマートフォンの普及率は14.6%であり、多くのSNSはパソコンやガラケーを用いて利用されていた。また、当時は音楽や芸術に特化したMyspaceや紹介制のmixiが主流であり、そもそもシニア層がターゲットとは言えない状況にあったといえる。しかし、2016年にはスマートフォン普及率は56.8%に増加し、それに伴いInstagramやTwitterなどスマートフォンを意識したSNSの人気が高まっていった。従来のパソコンを利用したSNSでは、使用できる場所に制限があることに加え、写真や動画といったメディアを投稿するには、一度パソコンに取り込んでからアップロードする必要があるなど、利便性に問題があった。しかし、スマートフォンの登場により撮影した写真を気軽に、即時に投稿することが可能となった。また、時間や場所を問わず、SNSを通じてリアルタイムのコミュニケーションがとれるなど、スマートフォンの機能や提供価値がSNSの特性とマッチしていったのである。特にInstagramは2014年12月の国内認知度は48.6%であったが、2016年1月には72.8%に増加 しており、2017年には「インスタ映え」という言葉が流行語に選ばれている。このようにスマートフォンの普及に伴いSNSユーザー数も拡大することで、シニア層においてもその利用価値を見出す層が増加したものと考える。

次にネットワークの外部性である。ネットワークの外部性とは、同じ商品・サービスを消費する個人の数が増えるほど、その商品・サービスから得られる利便性や効用が増加する現象を指す。例えば「メルカリ」のようなフリマアプリでは、利用者(登録者)が少ない場合、売り手にとっては商品の販売相手が少なく、買い手にとっては購入できる商品の種類が少ないため、利便性を見出しにくい。しかし、利用者が増加するほど購入者そして、販売されている商品の種類も総じて増加するため、サービスそのものの価値が高まり、消費者が数あるフリマアプリからそのアプリを選考する動機付けに繋がるのである。そこで“65~69歳”の層におけるソーシャルメディアの利用率をみると、2020年度調査では52.8%であるが、彼らが“60~64歳”であった2015年度の調査結果では23.6%であり、この5年間で約30ポイント増加している。前述した通り 1995年に登場したWindows95をきっかけにインターネットは一般的な通信ツールとなり、日常的な仕事においても使用される機会が増えていった。2020年度調査で“65~69歳”の層は、1995年当時は“40~44歳”であり、この年代層は、現在に至るまでにインターネット環境に囲まれた中で日常を過ごてきたデジタル・イミグラントとして通信環境に適応していった者も多いと推測される。実際に1996年度の 通信利用動向調査では、業務で5割以上パソコンを使うと回答した“40~49歳”は35.1%であった。更にFacebookとTwitterの日本版が公開された2008年には彼らは“53~57歳”であり、年齢的にもみてもSNSに興味を持ち参加するようになったとしてもおかしくない。とりわけFacebookはビジネスの場面において名刺交換代わりにフレンド登録されることも多く、利用者が未利用者に対してサービスを紹介し、関係する人たちを巻き込みながらネットワークを拡大していくという、正にネットワークの外部性によって同年代の利用者が増加していったと考えられる。

一方で高齢者の中でも上述のようなデジタル・イミグラントとしてSNSに慣れ親しんだ者以外の者についても、シニア向けのSNSが誕生している。なかでも「趣味人倶楽部」、「らくらくコミュニティ」、「Slownet」といったサービスは、高齢者同士が使いやすいインターフェイスで高齢者のネットワークや交友関係の拡大をサポートしている。

また、「令和元年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」4のSNS種別利用率によると、60代ではFacebookが12.1%、TwitterとInstagramがそれぞれ9.3%、Tiktokが2.8%である一方で、YouTubeは44.8%であった。株式会社アスマークの「シニアのSNS利用実態・認知購買行動調査」5によれば、YouTubeはシニア層においては、息抜き・暇つぶしという用途とは別に情報収集の場として利用されている。シニア層にとって、YouTubeは「自分の好きなジャンルの情報を得るため」と「気になる商品・サービス等の情報を得るため」という目的においては、Twitter、Instagram、Facebookよりも高い割合を示している。このことを踏まえると、シニア層において興味がある動画を視聴するだけでなく、視聴経験を購買行動の参考にするという側面は、ハッシュタグを用いて商品情報を収集する若者のSNSを利用した消費行動に類似性を見出すことができると筆者は考える。
図3 60代のSNS種別の利用率  (N=282;単位%)
 
2 2012年度調査以前は項目が「ソーシャルメディアの利用」と「ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)への参加」の2つに分けられていたため一概に比較はできない。
3 ソーシャルメディアは「個人が情報を発信することができ、また情報を受信することもできる媒体」、SNSは「登録サイトのユーザー同士がコミュニケーションを取り合うことを目的としたソーシャルメディアの一種」と位置付けられてきた。しかし、昨今ではSNSのやり取りがメディアや社会を巻き込んだり、ユーザー同士のやり取りの範疇を超えて利用されることも多く、それぞれの定義や境界線が曖昧になっているようにも思われる。ユーザーの日記やつぶやきに同じサービス内のユーザーのみがコメントができたmixi型のサービスや食べログなどの他の消費者に向けて自身のレビューを発信するようなソーシャルメディアのように、その利用目的が明確にコミュニケーションと情報発信に分かれていたからこそ、ソーシャルメディアとSNSとが分離できていた。主要SNSの一つであるLINEにおいても、メッセージ交換や通話などコミュニケーションに重点が置かれていたが、ニュースやタイムラインという機能が追加され、情報発信という側面も加わったため一概にただのSNSと言えなくなっている。この視点からみると2012年度以前の通信利用動向調査においてはソーシャルメディアとSNSの項目が分かれており、その目的の違いが明確であったのかもしれない。
4 総務省情報通信政策研究所「令和元年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書<概要>」https://www.soumu.go.jp/main_content/000708015.pdf
5 株式会社アスマーク「シニアのSNS利用実態・認知購買行動調査」https://www.asmarq.co.jp/data/ex202007senior_sns/ (2020/07/06)

3――本当に「高齢者はインターネットが苦手」なのか

3――本当に「高齢者はインターネットが苦手」なのか

TIME&SPACE(KDDI株式会社が運用する情報メディア)による18~22歳のスマートフォン利用者を対象とした「若者世代のスマートフォン利用に関するアンケート」6によれば、若者の主なスマートフォンの用途として、「SNS やアプリなどを利用したコミュニケーション」が72.5%で最も高かった。若者の多くがスマートフォン(インターネット)を主にコミュニケーションのために利用していると言えるだろう。しかし、これは若者に限ったことではなく、シニア層においても今後は同様のことがいえるだろう。今後シニア層に加わる層は、現在のシニア層よりもインターネットを使いこなしてきた層だからである。併せて、現在のシニア層においても、ますますインターネットが不可欠な生活を強いられるようになり、今以上にインターネットが取り巻く社会に順応していくと思われる。従来の「高齢者はインターネットが苦手」というイメージを我々はアップデートする頃合いなのかもしれない。
 
6 TIME&SPACE(KDDI株式会社)「若者世代のスマートフォン利用に関するアンケート」
https://time-space.kddi.com/au-kddi/20210415/3098 (2021/04/15)
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

(2021年11月10日「基礎研レポート」)

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