コラム
2021年11月10日

「三角関数」と「フーリエ変換」-三角関数の幅広い実社会利用での基礎となる重要な数学的手法-

中村 亮一

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はじめに

これまで、三角関数については、研究員の眼「「三角関数」って、何でしたっけ?-sin(サイン)、cos(コサイン)、tan(タンジェント)-」(2020.9.8)で、「三角関数」の定義について、また、研究員の眼「数学記号の由来について(7)-三角関数(sin、cos、tan等)-」(2020.10.9)では、三角関数の記号(sin、cos、tan等)の由来について紹介した。そして、高校時代に学んだいくつかの公式や定理等のうち、「余弦定理」「正弦定理」「正接定理」「加法定理」「二倍角、三倍角、半角の公式」「合成公式」「和と積の変換公式」等について、その有用性を含めて紹介した。さらに、前回前々回の研究員の眼(「三角関数」のシリーズ、以下同様)では「三角関数」の社会での応用として、最も幅広い関りがある「波」との関係について触れた。

今回の研究員の眼では、通常の波を三角関数によって表現するための数学的手法である「フーリエ級数展開」や「フーリエ変換」について、その概要を紹介する。その前段として、三角関数・指数関数・対数関数の微分・積分やべき級数転換、オイラーの公式を通じた対数・指数関数との関係等について簡単に紹介する。

今回の報告では、結果等の事実についてのみ紹介することとし、その証明等については行わない。また、あくまでもイメージを把握してもらうための概要に焦点を当てているため、細部等については必ずしも十分に正確ではないことを述べておく。これらの証明を含めたさらに詳しい細かい内容等について、興味・関心を抱いていただけた方々は、数多くの書籍等が出版されているので、それらを参照していただければと思っている。

三角関数・指数関数・対数関数の微分

「微分」というのは、以下で定義される「導関数」を求める過程をいう。

関数f(x)の導関数は、
導関数
三角関数・指数関数・対数関数の微分(導関数)は、以下の通りとなる。なお、角度はラジアンである。また、eはネイピア数であり、loge xやlog xはeを底とする自然対数である。 
三角関数・指数関数・対数関数の微分
これにより、例えば、正弦関数sin xの微分を繰り返すと、以下の通りとなる。

sin x → cos x → -sin x → -cos x  → sin x

このように、正弦関数は4回微分すると、元の正弦関数に戻る。  

また、eを底とする指数関数を微分しても、同じ指数関数となる。

三角関数・指数関数・対数関数の積分

「積分」というのは、ある関数f(x)の「原始関数」F(x)を求める演算のことをいう。原始関数F(x)とは「微分するとf(x)になる関数」のことをいう。つまり、この時、f(x)はF(x)の導関数となり、微分の逆の演算が積分となる。

関数f(x)の積分は、∫(インテグラ)と呼ばれる記号を使って、で表される。

積分には、「定積分」(ある関数の特定の区間における瞬間的な変化量の積み重ねの値を求めること)と「不定積分」(原始関数を求めること)がある。

三角関数・指数関数・対数関数の不定積分は、以下の通りとなる。ここで、Cは積分定数である。
三角関数・指数関数・対数関数の不定積分

三角関数の極限

三角関数の極限

三角関数の指数関数による表現

三角関数の指数関数による表現

三角関数・指数関数・対数関数のべき級数展開(マクローリン展開)

関数を無限和の形で表す「べき級数展開(マクローリン展開)」1 は、以下の通りとなる。
関数を無限和の形で表す「べき級数展開(マクローリン展開)」
 
1 「0」を中心としたテイラー級数が「マクローリン級数」と呼ばれる。

オイラーの公式

オイラーの公式は、三角関数と指数関数を結びつける以下の関係式である。
オイラーの公式
この式は、上記のべき級数展開からも導き出される。

これにより、eixは、周期2πの周期関数となっていることがわかる。

三角関数の直交性

三角関数のsinとcosには、「直交性(又は直交関係)」があるということが大きな意味合いを有している。

「直交性」というのは、まさに「直角に交わる」という意味で、直角に交わるX軸とY軸のような関係があることを意味している2 。具体的には、区間[a,b]で定義されている2つの関数f(x)とg(x)が「直交する」とは、以下の式が成り立つことを言う。
2つの関数f(x)とg(x)が「直交する」
「直交性」がある場合、計算により、合成されたものを分解することが可能となる。

三角関数のsinとcosには、直交関係があるため、これらから合成された関数からsin、cosそれぞれの成分(係数)を取り出すことができることになる。

三角関数の直交性により、以下の3つの式が成り立つ(mとnは自然数)ことになる。
三角関数の直交性により3つの式が成り立つ
 
2 関数は高校時代に学んだベクトルの一種(成分の数が無限個あるベクトルとみなすことができる)で、ベクトルが「直交」しているとは、その「内積が0」であること、即ち「成分の積の和が0」であることを意味している。sinとcosを複素平面上で示すことでイメージを有することができると思われる。

フーリエ級数

さて、いよいよ、ここで「フーリエ級数」に入ることにする。

フーリエ級数(Fourier series)」(又は「フーリエ級数展開(Fourier series expansion)」)とは、複雑な周期関数や周期信号を、単純な形の周期関数の(無限の)和によって表したものである。より具体的には、関数f(x)を以下のようにsin nx、cos nxの無限個の和で表した式をいう。
フーリエ級数
上記の式で、実数xに対して、f(x)を周期2πの周期関数とすると、
実数xに対して、f(x)を周期2πの周期関数とすると
となる。これらを「フーリエ係数」と呼ぶ。

即ち、f(x)は、sin nx、cos nxという異なる周期を有する関数の線形結合で、係数anとbnがそれらの加重を示す指標になっている。

以前の研究員の眼で述べたように、一定の周期を有する「周期関数」については、「区分的に滑らかな」という条件を満たす場合には、単純な波動の数学的な表現である正弦関数や余弦関数の和としての「フーリエ級数」で表すことができることになる。さらには、周期関数ではない関数も、「区分的に滑らかで、かつ連続で、かつ絶対可積分(絶対値が積分可能)」という条件を満たす場合には、同様に三角関数で表現することができることになる。

前回の研究員の眼で紹介した「矩形波」や「のこぎり波」等の表現が、まさにこの「フーリエ級数」になっている。無限級数になっているのは、正弦波のような基本的な三角関数の波が曲線となっているのに対して、「矩形波」や「のこぎり波」のような直線を有する波を表現するためには、無限に足し合わせることが必要になってくるためである。もちろん、(波という意味において)単純な波は有限個の和(即ち、上記級数において、自然数Nが存在して、an=bn=0(n≧N))で表すことができる場合もある。

また、初項の「a0/2」は、「関数の平均値」を示している。「a0」も上記のanの算式でn=0 として得られるものであることから、結果的に「a0/2」という表現になってくる。

なお、有限な関数を無限級数で表現することで、本当に収束するのだろうかという疑問も当然に発生してくるものと思われる。これは、三角関数が正値と負値が交互に現れてくる周期関数であるということが関係していて、これらの和がお互いに打ち消しあっていく要素が大きいことになる。

複素フーリエ級数 

なお、zが複素数の場合、
zが複素数の場合
ここで、
zが複素数の場合
となる。

周期の変更

上記の算式は、周期が2πの周期関数f(x)に対するものであるが、周期が2Lの周期関数g(y)の場合には、以下の通りとなる。
周期が2Lの周期関数g(y)の場合
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