コラム
2021年05月06日

「三角関数」の基本的な定理とその有用性を再確認してみませんか(その2)-加法定理、二倍角、三倍角、半角の公式等-

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はじめに

これまで、三角関数については、研究員の眼「「三角関数」って、何でしたっけ?-sin(サイン)、cos(コサイン)、tan(タンジェント)-」(2020.9.8)で、「三角関数」の定義について、研究員の眼「数学記号の由来について(7)-三角関数(sin、cos、tan等)-」(2020.10.9)では、三角関数の記号(sin、cos、tan等)の由来について紹介した。さらに、前回の研究員の眼では、高校時代に学んだいくつかの公式や定理等のうち、「余弦定理」、「正弦定理」、「正接定理」等について紹介した。

今回の研究員の眼では、三角関数の「加法定理」、「二倍角、三倍角、半角の公式」、「合成公式」、「和と積の変換公式」等について、その有用性を含めて紹介したい。

加法定理

三角関数の「加法定理」と呼ばれるものは、以下のような公式である。これを用いることによって、1°の値が分かれば、全ての角度の値を得ることができることになる。また、後で紹介する各種の公式の証明は、この「加法定理」が基本になっているので、ある意味でこれをしっかり覚えておくことが、三角関数の応用等においては重要になってくる。
三角関数の加法定理
この「加法定理」の証明には、いくつかの方法があるが、ここでは3つの方法の概略を示しておく(以下の証明で示している図等におけるαやβに関しては、代表的なケースを想定したものとなっているので、必ずしも一般性はないことには注意が必要である)。

[証明1]単位円周上の2点間の距離の公式と余弦定理を利用する方法
右図のように、単位円周上に、2点、P(cosα、sinα)、Q(cosβ、sinβ)をとる。
単位円周上の2点間の距離の公式と余弦定理を利用する方法 距離の公式から、

PQ2=(cosβ―cosα)2+ (sinβ―sinα)2
  =(cos2α+sin2α)+(cos2β+sin2β)
   ―2(cosα・cosβ+sinα・sinβ)
      =2-2(cosα・cosβ+sinα・sinβ)

一方で、△POQに(前回の研究員の眼で説明した)余弦定理を適用して、

PQ2=OP2+OQ2-2OP・OQ・cos∠POQ
  =2-2cos(α―β)  

上記の2つの式から

2-2(cosα・cosβ+sinα・sinβ)=2-2cos(α―β)  
∴cos(α―β)=cosα・cosβ+sinα・sinβ
[証明2]図形を利用する方法
下図の三角形の面積Sについて、それぞれの図が示す捉え方から、

S=1/2・b・c sin(α+β)  (右図より)
  =1/2・c sinα・b cosβ+1/2・c cosα・b sinβ  (左図より)
  =1/2・b・c(sinα・ cosβ+cosα・sinβ)
∴ sin(α+β)=sinα・ cosβ+cosα・sinβ
図形を利用する方法
[証明3]オイラーの公式(Euler's formula)を利用する方法
オイラーの公式 eiθ=cosθ+i sinθ を用いると

ei(α+β)=cos(α+β)+i sin(α+β)

一方で、

ei(α+β)= eiα・eiβ
    =(cosα+i sinα)・(cosβ+i sinβ)
    = cosα・cosβ-sinα・sinβ+i(sinα・cosβ+cosα・sinβ)
∴ sin(α+β)=sinα・cosβ+cosα・sinβ
  cos(α+β)=cosα・cosβ-sinα・sinβ

なお、加法定理を発見したのは、ギリシアの天文学者であるプトレマイオス(Claudius Ptolemaeus, 83年頃 - 168年頃)であると言われている。

彼は、「円に内接する四角形ABCDにおいて、AC×BD=AB×CD+BC×AD という等式が成り立つ」という「トレミー(Ptolemy)の定理」(プトレマイオスの英語名がトレミー)を発見し、加法定理と本質的に同じ結論を導いている。

「トレミーの定理」は、例えば余弦定理を用いて、以下のように証明できる。
トレミーの定理の証明 〔トレミーの定理の証明〕
右図において、△ABD及び△BCDに余弦定理を適用して

BD2=a2+b2-2ab cos∠A=c2+d2-2cd cos∠C

ここで、円に内接する四角形の性質より、∠C+∠A=π であることから、cos∠C=-cos∠Aとなり、

BD2=a2+b2-2ab cos∠A=c2+d2+2cd cos∠A

上記の両辺の式からcos∠Aを消去して、整理すると以下の通りとなる。

(ab+cd)BD2=(a2+b2)cd+(c2+d2)ab=(ad+bc)(ac+bd)

ACについても、同様にして、

(ad+bc)AC2=(ab+cd)(ac+bd)

両式を掛け合わせて、

(ab+cd)(ad+bc)AC2・BD2=(ab+cd)(ac+bd)(ad+bc)(ac+bd)

これを整理して、平方根をとれば、

AC・BD=ab+cd

となることが示される。

この「トレミーの定理」を用いて、加法定理を以下のように証明できる。


[証明4]トレミーの定理と正弦定理を利用する方法
右図のようなACを直径1とし、∠DAC=α、∠CAB=βとなる四角形ABCDを考えると、
トレミーの定理と正弦定理を利用する方法 AD=cosα   CD=sinα
AB=cosβ   BC=sinβ

また、正弦定理から、外接円の直径が1であることから

BD=sin(α+β)

これらをトレミーの定理に代入すると

sin(α+β)=sinα・cosβ+cosα・sinβ

が得られる。

ここで、これまでの証明では、それぞれの代表的なケースの加法定理を証明している。それ以外のケースについては、後述の(参考)で示している「余角、補角、負角の公式」等の補助公式を利用して証明できることになるので、ここでは省略している。

二倍角、三倍角、半角の公式

上記の「加法定理」を使用することで、「二倍角、三倍角、半角の公式」が得られる。これを用いることで、一定の角度の定数倍等の角度の値をより簡単に算出できることになる。
二倍角、三倍角、半角の公式

合成公式

また、同様に「加法定理」を使用することで、以下の「合成公式」(以下の公式が示すように、2つの三角関数を1つの三角関数で表現することを「三角関数の合成」という)が証明される(右辺を加法定理により分解すれば左辺になる)。
合成公式
この合成公式を用いることにより、「sinとcosの定数倍の和」という扱いにくい関数をsinやcosという1つの関数のみで表すことができることになる。これにより、例えば関数の最大値や最小値等の算出が容易になって、扱いやすいものとなる。

和と積の変換公式

三角関数の積で表されているものを和に、和で表されているものを積に変換する公式がある。これらの公式も、右辺のαとβを加減算する角度に対して、加法定理を適用することで左辺を導くことができる。
和と積の変換公式
一般的には、掛け算よりも加減算の方が計算が簡単なため、計算機の無い時代においては、sin、cos、tan等の三角比の表等から値を求めるために、積和公式は有用なものだった。

加法定理や和と積の変換公式等の利用

今回述べてきた各種の定理や公式は、どのように利用されるのであろうか。

まずは、〔証明1〕の単位円の図が示しているように、角度αに角度βを足すことは、単位円上で角度βだけ「回転」させることに相当している。この考え方を利用すると、各種のゲームのプログラミングやCG(コンピュータ・グラフィックス)、人工衛星の軌道計算、さらにはアート作品等の様々な分野で活用することができることになる。

さらには、次回説明する三角関数の「」との関係に基づくと、「積和公式」を用いることで、2つの(周波数を有する)波を表す三角関数を掛け合わせることで、別の2つの(周波数を有する)波を形成することができることになる。このようにして(例えば、自らが適切に処理でき、必要とする)周波数を有する波への変換を行うことができることになる。

(参考)三角関数の対称性・周期性等に関する公式

三角関数の相互関係
三角関数の相互関係
対称性に関する公式(余角、補角、負角の公式)
ここでは証明しないが、いくつかの線に対して対称な図形を考えることにより、以下の公式が得られる。なお、これらの公式は、加法定理の特別な場合としても得ることができる。
対称性に関する公式
周期性に関する公式
また、単位円における回転を考えた場合に、以下の関係式が得られる。π又は2πの回転で同じ関数が得られることになる。
周期性に関する公式

まとめ

以上、今回は「三角関数の性質」として、高校時代に学んだいくつかの公式や定理等のうち、「加法定理」、「二倍角、三倍角、半角の公式」、「合成公式」、「和と積の変換公式」等について、その有用性を含めて紹介した。

「加法定理や和と積の変換公式等の利用」で述べたように、今回説明してきた加法定理や積和公式等の各種の定理や公式は、「三角関数」と「波」との関係において、波の表現への利用等を通じて、大きく役に立っている。これらについては、次回以降の研究員の眼で説明していくこととしたい。

(2021年05月06日「研究員の眼」)

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