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- 気候変動とIFRS-サステナビリティ開示基準策定の担い手に
コラム
2021年11月05日
2021年11月3日、COP26において、IFRS財団はISSB(International Sustainability Standard Board、国際サステナビリティ基準審議会)の設立を発表した。これまで国際会計基準作りを担ってきたIFRS財団が、サステナビリティ関係の企業開示についても主役として登場することとなった。同時に、2022年6月を目処に、これまでサステナビリティ関係の開示基準の開発に携わってきたCDSB(Climate Disclosure Standards Board、気候変動開示基準委員会)とVRF(Value Reporting Foundation、価値報告財団)をISSBに統合することを発表している。
気候変動を含むサステナビリティ関連情報の企業による開示については、様々な機関による基準が乱立しており、情報利用者(主に投資家)から情報の比較可能性等を求める強い声が出ていた。
そうした中、IFRS財団はサステナビリティ報告に関する協議ペーパーを2020年9月に出し、次のような質問を問うた。
(1) 国際的なサステナビリティ基準に対するニーズはあるのか。
(2) IFRS財団が役割を果たすべきか。
(2) 役割を果たすとすれば、IFRS財団内に新たな基準審議会を作ることが答えになるのか。
その結果、得られたフィードバックは、
(1) 投資家がより良いグローバルに比較可能なサステナビリティ情報を求めている。
(2) IFRS財団が役割を果たすことに幅広い支持がある。
ということであった。
これを受け、さらにG7などに背中を押される形で、これまで財務会計分野の国際基準策定を担ってきたIFRS財団がIASB(国際会計基準審議会)のシスター審議会としてISSBを発足させることになった。
IFRS財団は、ISSB発足を前に今年3月にその戦略的な方向性を示している。
その内容は、
(1) 投資家にフォーカスする。企業価値への影響を重視する。
(2) まずは気候から始め、その後サステナビリティ(ESG)全体の開示へと進めていく。
(3) ISSBはグローバルなベースラインを策定する。その上に各国は事情に応じた対応を行う。(ビルディングブロック方式)
(4) 既存のフレームワークの活用。TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures、気候関連財務情報開示タスクフォース)を中心としたこれまでの取組みの成果を活かす。
ISSBが策定するサステナビリティ開示基準は、正式には今後ISSBを舞台に議論されていくことになるが、IFRS財団は、すでにTRWG(Technical Readiness Working Group、技術的準備ワーキンググループ)を3月にスタートさせており、ISSB発足に向けての準備を進めてきた。そのTRWGのメンバーには、IFRS財団、IFRS内の IASB(国際会計基準審議会)、TCFD、そしてTCFDと基準の統一に向けて協力してきたCDSB、VRFからの代表が含まれている。そしてダボス会議を主催するWorld Economic Forumからもメンバー入りしている。今回、このTRWGから二つのプロトタイプが発表された。気候変動以外のESG情報を含むサステナビリティ関連情報開示の一般要件プロトタイプと気候関連開示プロトタイプである。メンバー人事が固まった後に正式にスタートするISSBによる初仕事がこの二つのプロトタイプの検討ということになる。その検討を経た上で、公開草案の発表へと進んでいくと想定されている。
今後は、これまでのTCFDが提言してきたものを中心にスピードを上げて基準策定が進んでいくであろう。一方で、ISSBはサステナビリティ分野での概念フレームワークの策定、気候変動以外のESG関連情報の開示基準の策定も視野に入れているが、気候変動を超えた開示基準の策定は容易には進まないのではないかと思われる。
さて、こうして気候変動に関する企業開示が進んでいくことになると、比較可能な情報開示を望んでいた投資家や金融機関による開示情報の活用が今後は期待されることとなる。気候変動については、2030年、2050年に向けて長期的な移行が必要であり、その移行における企業行動を金融面から支えることが投資家や金融機関が求められている。これまでのややもすれば○か×か、グリーンかブラウンかといったデジタルになりがちであった評価から、企業の実績、将来へのコミットメントの内容、そしてその後の達成状況をきちんと踏まえた企業評価へと変化していくことを期待したい。
気候変動を含むサステナビリティ関連情報の企業による開示については、様々な機関による基準が乱立しており、情報利用者(主に投資家)から情報の比較可能性等を求める強い声が出ていた。
そうした中、IFRS財団はサステナビリティ報告に関する協議ペーパーを2020年9月に出し、次のような質問を問うた。
(1) 国際的なサステナビリティ基準に対するニーズはあるのか。
(2) IFRS財団が役割を果たすべきか。
(2) 役割を果たすとすれば、IFRS財団内に新たな基準審議会を作ることが答えになるのか。
その結果、得られたフィードバックは、
(1) 投資家がより良いグローバルに比較可能なサステナビリティ情報を求めている。
(2) IFRS財団が役割を果たすことに幅広い支持がある。
ということであった。
これを受け、さらにG7などに背中を押される形で、これまで財務会計分野の国際基準策定を担ってきたIFRS財団がIASB(国際会計基準審議会)のシスター審議会としてISSBを発足させることになった。
IFRS財団は、ISSB発足を前に今年3月にその戦略的な方向性を示している。
その内容は、
(1) 投資家にフォーカスする。企業価値への影響を重視する。
(2) まずは気候から始め、その後サステナビリティ(ESG)全体の開示へと進めていく。
(3) ISSBはグローバルなベースラインを策定する。その上に各国は事情に応じた対応を行う。(ビルディングブロック方式)
(4) 既存のフレームワークの活用。TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures、気候関連財務情報開示タスクフォース)を中心としたこれまでの取組みの成果を活かす。
ISSBが策定するサステナビリティ開示基準は、正式には今後ISSBを舞台に議論されていくことになるが、IFRS財団は、すでにTRWG(Technical Readiness Working Group、技術的準備ワーキンググループ)を3月にスタートさせており、ISSB発足に向けての準備を進めてきた。そのTRWGのメンバーには、IFRS財団、IFRS内の IASB(国際会計基準審議会)、TCFD、そしてTCFDと基準の統一に向けて協力してきたCDSB、VRFからの代表が含まれている。そしてダボス会議を主催するWorld Economic Forumからもメンバー入りしている。今回、このTRWGから二つのプロトタイプが発表された。気候変動以外のESG情報を含むサステナビリティ関連情報開示の一般要件プロトタイプと気候関連開示プロトタイプである。メンバー人事が固まった後に正式にスタートするISSBによる初仕事がこの二つのプロトタイプの検討ということになる。その検討を経た上で、公開草案の発表へと進んでいくと想定されている。
今後は、これまでのTCFDが提言してきたものを中心にスピードを上げて基準策定が進んでいくであろう。一方で、ISSBはサステナビリティ分野での概念フレームワークの策定、気候変動以外のESG関連情報の開示基準の策定も視野に入れているが、気候変動を超えた開示基準の策定は容易には進まないのではないかと思われる。
さて、こうして気候変動に関する企業開示が進んでいくことになると、比較可能な情報開示を望んでいた投資家や金融機関による開示情報の活用が今後は期待されることとなる。気候変動については、2030年、2050年に向けて長期的な移行が必要であり、その移行における企業行動を金融面から支えることが投資家や金融機関が求められている。これまでのややもすれば○か×か、グリーンかブラウンかといったデジタルになりがちであった評価から、企業の実績、将来へのコミットメントの内容、そしてその後の達成状況をきちんと踏まえた企業評価へと変化していくことを期待したい。
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(2021年11月05日「研究員の眼」)
03-3512-1793
経歴
- 【職歴】
1983年 日本生命保険相互会社入社
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2013年 日本生命保険相互会社 支配人
2014年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部部長
2020年4月 専務取締役経済研究部部長
2024年4月より現職
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【気候変動とIFRS-サステナビリティ開示基準策定の担い手に】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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