コラム
2024年12月06日

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1――はじめに

厚生労働省1によると2040年度には、2022年度対比で+約57万人の介護職員が新たに必要になると言う。あらゆる業界で人手不足が叫ばれる中、容易に確保できる人数ではない。人材確保のための方策として、厚生労働白書2では、処遇の改善、ICTや介護ロボット等のテクノロジーを活用した生産性向上、外国人介護人材の受入れなどが示されている。

10月2日から4日まで東京ビッグサイトで開催された国際福祉機器展2024に行ってきた。「テクノロジーが介護人材不足の解決策となるのか」の観点から、筆者が注目した製品は、株式会社カナミックネットワークが開発した主に居宅介護を支援するソフトとエコナビスタ株式会社が開発した高齢者見守りシステム「ライフリズムナビ」である。両製品ともに日本生命保険グループの事業体で利用されているため、人材不足の解決策になるのか、探ってみた。
 
1 令和6年7月12日厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
2 令和6年版厚生労働白書

2――カナミックの介護ソフト

カナミックの介護ソフトでは、介護事業所が、訪問ヘルパーのシフトを入力すれば、同時に訪問ヘルパーの手元のスマホあるいはタブレットのスケジュールに反映される。ヘルパーは、その日の訪問先、提供すべき介護サービスが一覧でわかり、それぞれの介護サービス完了後に完了ボタンを押せば事業所に連携され、事業所は介護給付の請求へと連携していける等、介護事業にかかる多くの業務のIT化を進めるシステムである。これまで訪問先で紙の書類に記入を行い、それを事業所に持ち帰り、その紙から事業所の職員が介護給付請求をまた入力していた作業から解放されることになる。
カナミックのタブレット画面(筆者撮影)
カナミックのシステムを導入した(株)ニチイホールディングスにその導入の意図、効果について聞いてみた。DX本部IT事業部 関隆顕シニアマネージャーは、「自社専用システムを活用してきたが、制度改正のシステム改修コストやシステム改修のスピードが追い着かない等の経営課題があり、外部システムを導入することにした。」スマホからヘルパーが介護記録を入力することで、各事業所において労働時間が明確に削減できるなど効果は出ている。ということであった。しかしながら「15,000人のヘルパーが全員100%このシステムを利用するところまで持って行くことはなかなか難しい。」「活用に向けた研修体制を整えるのも困難。」といった課題も多いようであった。

介護人材確保の観点からは、「ITを活用し、テクノロジーによる介護業務の生産性向上、現場の負担軽減に取り組んでいる企業だ。」というイメージを学生など求職者にもってもらうことが採用時の強みになる、ということであった。

興味深かったのは、比較的高齢の方が多い介護ヘルパーに新しいシステムでの入力を浸透していくのに「自分のスマホが使える」ということがキーワードになっていたことだ。会社から介護業務用に新たにスマホあるいはタブレットを貸与されて、それに入力するのではなく、自分の手持ちのスマホに新しいアプリが一つ増えたという感覚で利用できることが活用のハードルを大きく下げているということであった。

3――エコナビスタのライフリズムナビ

ライフリズムナビは、写真のようなセンサーをベッドにセットすると入居者の脈拍、血圧、睡眠状態などの情報が管理者のパソコンのモニターに一覧表示される。これまでは老人ホームの各居室を実際に巡回し、その状況を目視で確認していたものが、モニターに表示され、またナースコールとも連動しているため異常事象もすぐに把握できる。

ライフリズムナビを導入した松戸ニッセイエデンの園に導入の意図、効果について聞いてみた。金子宏美介護居室サービス課長は、「もともと夜間業務の見直しを進めていたので、スムーズに導入できた。」夜勤配置職員を実質的に削減できているなど効果は大きいようだ。「新たに導入した夜22時から翌朝7時までの時短夜勤シフトでは、定期的にライフリズムナビをモニター上で確認することが業務の中心となった。」ことで、「もう夜勤はきつい」と言い始めていた高齢職員も「これならできそう。」と勤務継続となったケースもある。また、派遣職員であっても一定の研修ののち任せられるようになった。業務負担の軽減が、高齢スタッフのつなぎ止めにつながり、介護業務へのハードルを低くしていた。
ライフリズムナビのセンサー(筆者撮影)

4――まとめ

テクノロジーの導入は生産性向上を通じた介護人材不足解決の手段となりうることはわかった。ただし、テクノロジーを導入すれば自動的に効果が得られるということではない。業務の見直しテクノロジー導入をどう組み合わせて相乗効果を得るか、いかに現場を巻き込んでいくかが大きな鍵を握っているようであった。まさしくDXが求められているということであろう。生産性の向上による人員削減だけでなく、負担軽減が高齢者や妊娠中など体力面で不安のある職員の介護業務継続や新たに参加するハードルを下げることになり、介護人材プールの拡大につながることも発見であった。ここでみてきた努力・改善は57万人という数字の前では小さいが、事業者、現場、テクノロジーが努力を継続することで介護人材不足が解決していくことを期待したい。

(2024年12月06日「研究員の眼」)

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経済研究部   部長

宮垣 淳一 (みやがき じゅんいち)

研究・専門分野
経済研究部統括

経歴
  • 【職歴】
    1983年 日本生命保険相互会社入社
    2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
    2013年 日本生命保険相互会社 支配人
    2014年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部部長
    2020年4月 専務取締役経済研究部部長
    2024年4月より現職

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