コラム
2020年11月04日

WHO「健康な高齢化の10年(2020-2030年)」始まる

経済研究部 専務取締役 部長 兼 ジェロントロジー推進室長   宮垣 淳一

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世界保健機関(World Health Organization, 以下WHO)が提唱する「健康な高齢化の10年(2020-2030年)」1が始まった。ただ、残念ながら国内ではほとんどその内容が報道されていないようである。それでここでは、WHOが発表した計画の一部を紹介すると共に、この計画を受けて私たちにできることは何かを考えてみたい。

1――計画の概要

WHOはこの計画を「10年間にわたる協調的で、触媒的で、持続的な協力から作られるもの」であり「高齢者自身がこの計画の中心となり、政府、市民社会、国際機関、専門家、学界、メディアそして民間部門が一緒になって、高齢者、その家族、高齢者の住まう地域社会の生活を改善する。」計画という。

そして健康な高齢化とは、高齢期における幸せ(wellbeing)の実現を可能にするような機能的能力(functional capacity)を発達させ維持するプロセスのことである。「病気でない」ことだけに注目するのではなく、「価値があると考える行動ができる能力を養い維持すること」に焦点を移すべきだとしている。

2――背景

この計画が必要になった背景として、WHOは次のようなことを挙げている。世界的に高齢化が進行していること。これからは、発展途上国において高齢化が今後急速に進展することが懸念されていること。高齢者の健康は、社会的・経済的不平等により大きな格差が生じていること。高齢化の予測はできていても、その為の準備は国によって大きな差があること。こうした状況の中、社会は現在の高齢者と将来の高齢者にニーズに対応して行かないといけない、としている。そのために各国が協力するこの計画が必要だということであろう。

3――基本原則

SDGsに沿った計画の9つの基本原則が述べられている。

(1) 全てはつながっていて、分けられないということ
(2) 包摂
(3) パートナーシップ
(4) ユニバーサル
(5) 誰一人取り残さない
(6) 平等
(7) 世代間の連帯
(8) コミットメント
(9) 誰も傷つけない

4――行動領域

計画は4つの行動領域を提唱する。

(1) 私たちの年齢・高齢化に対するネガティブな考え方・感じ方・行動を変化させる。

(2) コミュニティが高齢者の能力を高めることを確かにする。
多様な能力を持つ高齢者が、自らの自立性、尊厳、健康、幸福を維持しながら、希望する場所で年齢を重ねることができる、高齢者にやさしい環境を確保していく。

(3) 個人を中心に据えた高齢者向け統合ケア、プライマリー医療サービスを提供する。<

(4) 介護が必要な高齢者に介護を提供する。高齢者が機能的能力を維持し、その基本的人権が守られ、尊厳を持って生きるためには品質の良い介護サービスの提供が不可欠である。

5――どんな協力が必要か

4.の行動を実現するために協力のプラットフォームが必要であり、そのプラットフォームのより、次のことが可能になるとWHOは言う。

(1) 多様な声に耳を傾け、高齢者、その家族、介護者、地域社会の有意義な参加を可能にする。

(2) セクター横断的な行動を可能にするリーダーシップの育成とそれを支える能力を育成する。

(3) 世界中のさまざまなステークホルダーをつなぎ、他者の経験を共有し学ぶ。

(4) 計画の実現に向け、データ、研究、イノベーションを強化する。

6――私たちに何ができるか

それでは、このWHOの「健康な高齢化の10年」に呼応して、私たちに何ができるだろうか。
 
(3) 世界中のさまざまなステークホルダーをつなぎ、他者の経験を共有し学ぶ。
高齢化の先頭を走ってきた日本はその経験を他の多くの国々に伝えることが求められている。特に介護保険20年の歴史は、高齢者の尊厳を大切にし、高齢者が自ら選択できる介護サービスを目指して懸命に努力してきた経験であり、これから本格的な高齢化を迎える国々にとっては大変貴重なものであろう。この貴重な財産を正確に各国に伝えていくためにも、私たちはその歴史をきちんと振り返る努力を続けなければならない。2
 
(4) 計画の実現に向け、データ、研究、イノベーションを強化する。
日本では、「介護に関するサービス・状態等を収集するデータベース(CHASE)」の本格運用が始まろうとしている。こうしたデータ収集が、これからの介護サービスの改善に役立つことが期待される。データ収集・蓄積、その活用については海外に学ぶこともあるだろう。国際的な協力も期待される。

データ収集の方法についても、多忙な介護現場に負担をかけず、高齢者自身にも負荷がかからない方法が今後開発されていくことが大切だ。身体につけたデバイスにより高齢者の精神状態(幸せか、怒っているのか、不安なのか)もわかるようになれば、高齢者のQOLが大きく改善するためのデータ蓄積も期待できるであろう。
 
このWHOの計画の中には、「高齢者が中心」であり、「高齢者の尊厳を守る」、ということが繰り返し語られている。しかし、高齢者の置かれた状況や高齢者が幸福を感じる状況は、高齢者によって極めて多様である。各国が必要な高齢者へのサービスを提供しようとするときに、どこまで個人毎の声に耳を傾けられるかは大変難しい課題である。財源が限られる中で、ユニバーサルな制度に基づいて個別性の高いニーズに応える給付を実現していくことが、これからの日本にとっても、これから高齢化を迎える各国にとっても重要なことである。
 
2 手前味噌だが、ニッセイ基礎研究所では三原岳主任研究員が、「20年を迎えた介護保険の足取りを振り返る」や「20年を迎えた介護保険の再考」等を執筆している。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   専務取締役 部長 兼 ジェロントロジー推進室長

宮垣 淳一 (みやがき じゅんいち)

研究・専門分野
経済研究部統括

(2020年11月04日「研究員の眼」)

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