2021年10月29日

コロナ禍における子育て不安(2)-不安が強いのは緊急事態宣言発出地域の小学生や高校生の親

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~コロナ禍で親の抱える不安、地域別の違いは?

前稿では、コロナ禍において親が抱える子ども関連の不安について、ライフステージ、すなわち子どもの年齢による違いを捉えた。その結果、未就学児などワクチン接種対象外である比較的低年齢の子どもの親では感染不安や休校等による仕事への支障などの不安が強く、学校へ通う子どものいる親では行事等の経験不足やオンライン教育による悪影響等への不安が強い傾向があった。また、比較的多方面において小学生の親で不安が強く、父親より母親で不安が強い傾向が見て取れた。

本稿では、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発出の有無といった地域別の違いを捉える。分析には前稿と同様、ニッセイ基礎研究所「第6回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査1」を用い、分析対象は大学生以下の子どもを持つ子育て世代の親2とする。
 
1 全国の20~74歳の男女約2,500名(うち、本稿の分析対象は535名)を対象にインターネットで調査。株式会社マクロミルのモニターを利用。調査期間は2021年9月22日~29日。
2 前稿で見た通り、コロナ禍における子ども関連不安は子育て世代(ライフステージが第一子誕生から第一子大学入学まで)では強い一方、子育て終了世代(第一子独立以降)では弱いなど顕著な違いがあったため、本稿では子育て世代に注目している。

2――地域別に見たコロナ禍における子どもに関わる不安

2――地域別に見たコロナ禍における子どもに関わる不安~大都市を含む緊急事態宣言発出地域で強い

1地域別の状況~休校等の多い緊急事態宣言発出地域で生活リズムの乱れなどの不安が強い
調査では、いくつかの子どもに関わる不安をあげ、それぞれについて「非常に不安」「やや不安」「どちらともいえない」「あまり不安ではない」「不安ではない」「該当しない」の6つの選択肢で回答を得ている。「非常に不安」と「やや不安」を合わせた不安層の割合に注目すると、全国の子育て世代の親で最も高いのは「式典や行事の縮小・中止による経験不足」(59.4%)であり、次いで「(子ども関連施設の休館や入場制限などの)遊び場不足によるストレス」(56.8%)、「登校機会減少による生活リズムの乱れ」(54.6%)、「子どもからの家庭内感染」(52.0%)、「オンライン教育増加による教育格差」(51.6%)までが半数を超えて続く(図表1)。
図表1 緊急事態宣言等発出地域別に見たコロナ禍における子ども関連の不安のある割合(%)
地域別(2021年9月13日~31日時点の緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発出の有無別3)に見ると、不安層の割合は、いずれの地域でも「式典や行事の縮小・中止による経験不足」や「遊び場不足によるストレス」が半数を超えて上位にあがるほか、まん延防止等重点措置の発出地域では「家で過ごす機会が増えネット使用時間が長くなる」(67.5%)も上位にあがる。

各地域の比較については、それぞれの調査対象数が大きく異なるため4厳密な分析は難しいが、比較的調査対象数の多い緊急事態宣言発出地域と発出無しの地域に注目すると、「急な休校や休園等による仕事への支障」を除けば、緊急事態宣言発出地域の不安層の割合は発出無しの地域をおおむね上回る。

特に「登校機会減少による生活リズムの乱れ」(+10.1%pt)では約1割上回るほか、「オンライン教育による教育格差」(+4.8%pt)や「家で過ごす機会が増えゲーム時間が長くなる」(+4.2%pt)、「子どもからの家庭内感染」(+3.7%pt)、「遊び場不足によるストレス」(+3.3%pt)でもやや上回る。

なお、文部科学省が幼稚園から高等学校までの公立学校に対して9月からの新学期における学校の対応を調査した結果5によると、緊急事態宣言発出地域では、他の地域と比べて全ての学校種別において「夏季休業の延長又は臨時休業を実施している」や「短縮授業又は分散登校を実施している」の割合が高い。この2つのいずれかの対応をしている割合は緊急事態宣言発出地域では約4分の1、まん延防止等重点措置の発出地域では約1割、発出無しの地域では約3%である6

よって、文部科学省の調査では調査対象が限定されるものの、緊急事態宣言発出地域では、休校や短縮授業等の対応を取ることで対面授業の機会が減った学校が比較的多くなり、親は子どもの生活リズムの乱れやオンライン教育による悪影響、ゲーム時間の延長といった対面授業が減ることで派生する不安を比較的強く感じている可能性がある。

ところで、「急な休校や休園等による仕事への支障」については、発出無しの地域の不安層が他の地域を上回る(緊急事態宣言発出地域より+7.9%pt、まん延防止等重点措置より+3.9%pt)。感染が比較的拡大していない地域で休校関連の不安が強いという、逆にも見える状況の要因の1つには親の働き方の違いの影響があげられる。

地域別に親の職業を見ると(図表略)、発出無しの地域の親では自営業・自由業従事者の割合が高い7とともに、就業者のうち在宅勤務を利用していない割合が高い8傾向がある。本稿では、調査対象数の制限から、地域別の分析をさらに深化させることは難しいが、コロナ禍において親が感じる子ども関連の不安には親の働き方による違いが影響することが予想されるため、次稿で分析する予定だ。
 
3 参考:内閣官房「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言の実施状況に関する報告」(令和3年10月)等
4 調査対象は「国勢調査」の性年代別人口を基に割付けている。調査期間では緊急事態宣言発出地域に東京をはじめとした大都市が多く含まれていたため、緊急事態発出地域の調査対象数が自ずと多くなる。
5 「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた新学期への対応等に関する状況調査(第2回)の結果について(令和3年9月17日)」、調査対象は公立の幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校および特別支援学校を所管する教育委員会。
6 都道府県別・学校種類別の公表値から、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発出の有無別に手元で再集計した値。
7 本稿における調査対象について、地域別に親の職業を見たところ、正規雇用者は緊急事態宣言発出地域49.6%・まん延防止等重点措置発出地域45.0%・発出無しの地域50.0%、同様に非正規雇用者は19.8%・20.0%・23.8%、自営業・自由業は4.6%・0.0%・11.3%、専業主婦・主夫は24.8%・30.0%・15.0%、無職・その他は1.2%・5.0%・0.0%。
8 就業者の在宅勤務利用率は、緊急事態宣言発出地域44.0%、まん延防止等重点措置発出地域42.3%、発出無しの地域36.8%。
2緊急事態宣言等発出地域の地方別の状況~不安の強さは人口密度や感染者数の規模などが影響か
緊急事態宣言発出地域について地方別に見ると、不安層の割合は、いずれの地方でも全国で上位にあがる「式典や行事の縮小・中止による経験不足」や「遊び場不足によるストレス」が半数を超えるほか、関東や中部、近畿では「登校機会減少による生活リズムの乱れ」や「オンライン教育増加による教育格差」も半数を超える(図表2)。このほか、関東や中部では「子どもからの家庭内感染」が、中部では「家で過ごす機会が増えゲーム時間が長くなる」も半数を超える。
図表2 緊急事態宣言発出地域について地方別に見たコロナ禍における子ども関連の不安のある割合(%)
前述と同様、各地方の比較については、それぞれの調査対象数が大きく異なるため厳密な分析は難しいが、「式典や行事の縮小・中止による経験不足」を除けば、関東や中部、近畿では広島・福岡・沖縄の不安層の割合をおおむね上回る。

特に、「登校機会減少による生活リズムの乱れ」では約2割上回るほか(関東は広島・福岡・沖縄より+16.2%pt、同様に中部+20.8%pt、近畿+17.1%pt)、「子どもからの家庭内感染」(関東+16.2%pt、中部+9.0%pt、近畿+6.7%pt)や「家で過ごす機会が増えゲーム時間が長くなる」(関東+5.7%pt、中部+14.9%pt、近畿+6.6%pt)、「家で過ごす機会が増えネット時間が長くなる」(関東+7.8%pt、中部+10.1%pt、近畿+4.6%pt)などでも上回る。

なお、先の文部科学省の調査によると、同じ緊急事態宣言発出地域であっても、休校等の対応は様々であり、「夏季休業の延長又は臨時休業を実施している」や「短縮授業又は分散登校を実施している」のいずれかの対応をしている割合は、北海道は約2%、関東は約4割、中部は約2割、近畿は約3%、広島県は約1割、福岡県は約半数、沖縄県は約3割である。

よって、文部科学省の調査では調査対象が限定されるものの、緊急事態宣言発出地域に注目して見ると、必ずしも休校等の対応を取る学校が多い地方で親の不安が強いわけではなく、東京や大阪、名古屋など、より人口密度が高く感染者数の規模が大きな大都市を含むかどうかなどの影響が大きな印象を受ける。
3緊急事態宣言等発出地域のライフステージ別の状況~比較的不安が強いのは大半がワクチン接種対象外の小学生と休校等の多い高校生の親
最後に、緊急事態宣言発出地域についてライフステージ別に見ると、前稿と同様、第一子誕生や第一子小学校入学など比較的低年齢の子どもの親では「遊び場不足によるストレス」や「子どもからの家庭内感染」が、学校に通う子どもの親では「式典や行事の縮小・中止による経験不足」や「登校機会減少による生活リズムの乱れ」、「オンライン教育増加による教育格差」が、第一子高校入学や第一子大学入学など子どもの年齢が比較的高い親では「家で過ごす機会が増えゲーム時間が長くなる」や「家で過ごす機会が増えネット使用時間が長くなる」の不安層の割合が高い傾向がある(図表3)。
図表3 緊急事態宣言発出地域についてライフステージ別に見たコロナ禍における子ども関連の不安のある割合(%)
また、それぞれのライフステージで不安層の割合が6割を超えて高いものに注目すると、第一子誕生では「遊び場不足によるストレス」(61.2%)が、第一子小学校入学では「遊び場不足によるストレス」(69.2%)や「式典や行事の縮小・中止による経験不足」(66.9%)、「子どもからの家庭内感染」・「登校機会減少による生活リズムの乱れ」(いずれも62.3%)、第一子高校入学では「式典や行事の縮小・中止による経験不足」(65.8%)や「登校機会減少による生活リズムの乱れ」(63.2%)、「オンライン
教育増加による教育格差」・「家で過ごす機会が増えゲーム時間が長くなる」(いずれも60.5%)、第一子大学入学では「登校機会減少による生活リズムの乱れ」(62.5%)があがる。

つまり、緊急事態宣言発出地域では小学生や高校生の親で比較的多方面においてコロナ禍で子どもに関わる不安を強く感じている。また、小学生の親は子どもの大半がワクチン接種対象外であるために感染不安を、高校生の親は登校の機会が減ることで派生する不安を強く感じている傾向も見て取れる。なお、前稿で見た通り、全国で見ると小学生の親で不安が強い傾向があった。

また、先の文科省の調査によると、緊急事態宣言発出地域において、「夏季休業の延長又は臨時休業を実施している」や「短縮授業又は分散登校を実施している」のいずれかの対応をしている割合は、高等学校は約45%、中学校や小学校は約25%である。なお、全国では高等学校は約35%、中学校や小学校は約15%である。

つまり、緊急事態宣言発出地域の高校生の親で登校機会の減少から派生する不安などを強く感じる傾向がある背景には、緊急事態宣言発出地域の高等学校では同じ地域の小・中学校や他地域の高等学校と比べて登校を制限している学校が多い影響があるのだろう。

3――まとめ

3――まとめ~緊急事態宣言発出地域で不安は強く、子どもの年齢や人口密度、感染者数の規模も影響か

本稿ではニッセイ基礎研究所「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」を用いて緊急事態宣言等の発出の有無など地域別にコロナ禍において親が抱える子ども関連の不安を捉えた。その結果、緊急事態宣言発出地域では発出無しの地域と比べて、休校や短縮授業等の対応を取り、対面授業の機会が減少した学校が多かったことの影響もあり、親は子どもの生活リズムの乱れやオンライン教育による悪影響、ゲーム時間の延長といった不安が比較的強い傾向が見られた。

緊急事態宣言発出地域について地方別に見ると、必ずしも休校等の対応を取った学校の多い地方で不安が強いわけではなく、より人口密度が高く感染者数の規模が大きな大都市を含むかどうかなどが影響しているようだ。

また、緊急事態宣言発出地域についてライフステージ別に見ると、小学生や高校生の親で比較的多方面において不安が強い傾向があり、大半がワクチン接種対象外の小学生の親では感染不安が、小・中学生や他地域の高等学校と比べて休校等の対応が多かった高校生の親で登校機会の減少から派生する不安が強い傾向が見られた。

なお、当調査は継続的に実施予定であり、緊急事態宣言の解除された時期との比較なども今後、捉えていく予定だ。次稿では親の就業形態や在宅勤務利用の有無など、親の働き方の違いに注目する。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

(2021年10月29日「基礎研レター」)

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