コラム
2021年10月07日

下落で買い増された米国株式ファンド~2021年9月の投信動向~

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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外国株式を中心に販売が盛り返す

2021年9月の日本籍追加型株式投信(ETFを除く。以降、ファンドと表記)の推計資金流出入をみると、引き続き外国株式に大規模な資金流入があり、その他にも国内債券、バランス型、外国債券にも資金流入があった【図表1】。9月は外国REITと国内REITに加えて国内株式も資金流出に転じたが、ファンド全体で8,200億円の資金流入があり、8月の6,500億円から1,700億円増加した。
 
このように投信販売が9月に復調したのは、外国株式(の投信販売)が盛り返したことが大きい。外国株式への資金流入は2021年に入ってから毎月6,000億円を超えていたが、8月に5,000億円まで減少し、大規模ではあるものの販売にやや陰りがみえていた。それが9月は再び6,800億円まで流入金額が膨らんだ。流入金額をタイプ別にみると、アクティブ・ファンドが8月の3,600億円から9月4,900億円、インデックス・ファンドが8月の1,400億円から9月1,900億円にと、アクティブ、インデックス問わず増加した。
【図表1】 2021年9月の日本籍追加型株式投信(除くETF)の推計資金流出入

下落した米国株式を買い増し

9月に外国株式の販売が再び盛り返した要因として、米国株式が2021年1月以来、8カ月ぶりに月を通じて下落したことがあげられる。米国株式は9月に入るまで主要指数が軒並み史上最高値を更新し続けていた。そのため、高値警戒感から投資を見合わせる、もしくは保有している一部を売却する投資家が増加したと思われる。それが9月2日以降は米国株式が下落し、高値警戒感が多少はやわらいだと考え、再び米国株式投資に向かう投資家が増えた模様である。
 
実際に米国株式ファンド全体で流入金額が8月の2,500億円から9月3,800億円と1,300億円増加した。特にアクティブ・ファンドは新設ファンド(【図表2】緑太字)の影響もあり、1,600億円から2,700億円と1,100億円の大幅な増加となった。また、インデックス・ファンドも900億円から1,100億円に増加した。9月に資金流入が大きかった米国株式ファンドを個別に見ても、アクティブ(赤太字)、インデックス(青太字)問わず、それぞれで8月を上回る資金流入があった。
 
米国株式ファンドの日次の資金動向をみると、下落後に買い増した投資家が多かったことが分かる【図表3】。8月から9月7日までは米国株式ファンドへの1日あたりの資金流入が多くの日で100億円前後であった。9月9日(緑囲い)は新設のアクティブ・ファンド(【図表2】緑太字など)の影響が大きかったが、それ以降も流入金額が連日100億円を超え続けており、明らかに流入が増加した。

なお、8月4日、9月3日、10月5日(赤囲い)と各月の第3営業日にインデックス・ファンドへの300億円に迫る大規模な資金流入があった。主に積立投資の月初買い付けによるものだと推察される。インデックス・ファンドは積立投資の機械的な買付も多いため、アクティブ・ファンドと比べて資金流入が安定している。
【図表2】 2021年9月の推計純流入ランキング
【図表3】 米国株式ファンドの推計日次資金流出入

分散投資商品の販売も堅調

また、9月は外国株式以外にもバランス型に900億円の資金流入があった。6月から4カ月連続で900億円前後の純流入となり販売が堅調であった。それに加えて、SMA専用ファンドに国内債券を中心に全体(紺棒)で2,400億円の資金流入があった【図表4】。SMA専用ファンドも5月以降、1,000億円を超える純流入が続いており、ラップ口座の販売も堅調であることが推察される。
 
外国株式ファンドはこれまで好調に売れているが、世界経済の回復鈍化懸念や米国の金融政策の動向や中国の不動産動向など、先行きに対する不透明感が強い状況が続いている。それもあって株式投資の今後を心配する投資家が増えてきて、そうした投資家の受け皿としてバランス型やラップ口座などの分散投資商品が売れているのかもしれない。
【図表4】 バランス型ファンドとSMA専用ファンドの資金流出入

意外と残高が増えている国内株式インデックス・ファンド

外国株式やバランス型の販売が好調である一方で、国内株式は9月にSMA専用ファンドに300億円の資金流入があったにも関わらず、国内株式全体では1,200億円の資金流出に転じた。特に、(非SMA・DC専用)国内株式インデックス・ファンドからは1,000億円に迫る資金流出があった。
 
国内株式のインデックス・ファンドの日次の資金動向をみると、9月中旬まで資金流出基調であったことが分かる【図表5】。やはり、株価上昇に伴い利益確定の売却をする投資家が多かった様子である。その一方で、9月下旬に株価が下落に転じるとともに資金流入基調に転じ、前営業日の下落が特に大きかった30日には400億円に迫る資金流入があった。
【図表5】 国内株式インデックス・ファンドの推計日次資金流出入
このように国内株式のインデックス・ファンドの資金動向は逆張り投資、つまり短期のタイミング投資の傾向がみられる。ただ、やや長めに純資産総額の推移をみると、見え方が異なる。国内株式のインデックス・ファンドの純資産総額は株価変動の影響を受けながらも、実は2021年に入ってからほぼ右肩上がりで増加しているためである【図表6】。
【図表6】 国内株式インデックス・ファンドの純資産残高の推移
国内株式の(非SMA・DC専用)インデックス・ファンドの純資産総額は、日経平均株価が3万500円に迫った2月中旬時点で2.1兆円であったが、9月末時点で2.3兆円に達している。分配金や信託報酬などが引かれ、また9月末に日経平均株価が再び2万9,500円を下回っていたにも関わらず、純資産総額は増加したわけである。実際にやや期間はずれるが3月から9月までの7カ月累積で国内株式の(非SMA・DC専用)インデックス・ファンドは2,000億円の流入超過であった。つまり、9月の売却は、あくまでもそれまで6カ月(3月から8月)の購入の一部にとどまっていたたといえよう。
 
ちなみに、外国株式のインデックス・ファンド(国内株式と同様に非SMA・DC専用)の純資産残高は2月中旬時点では2.6兆円と国内株式のインデックス・ファンド(2.1兆円)とそれほど違いがなかった。それが国内株式と比べて外国株式は堅調であったことも相まって、9月末時点で4.1兆円と国内株式の倍近くまで膨らんでいる。外国株式のインデックス・ファンドと比べると国内株式のインデックス・ファンドの純資産総額の増え方は極めて緩慢であるといえる。
 
それでも国内株式のインデックス・ファンドの純資産総額が緩やかに増加基調である。なかなか単月の資金動向には表れてこないが、国内株式インデックス・ファンドも外国株式インデックス・ファンドほどではないにしても、積立投資や長期投資をする方も増えているのかもしれない。ただし、やはり半年、1年といった短い期間では分かりかねる部分も大きく、今後の国内株式インデックス・ファンドの資金や純資産総額の動向が注目される。

資源関連ファンドが好調

9月に高パフォーマンスであったファンドをみると、原油(資源)高の恩恵を受けた資源関連ファンド(赤太字)が好調であった。9月に好調であった資源関連ファンドは1年間の収益率が80%前後と、ここ1年で見ても好調であった。
 
また、9月は国内株式が大きく上昇した上に多くの通貨に対して円安が進んだため、通貨選択型の国内株式ファンド(青太字)も特に高パフォーマンスのものがあった。
【図表7】 2021年9月の高パフォーマンス・ランキング
 
 

(ご注意)当資料のデータは信頼ある情報源から入手、加工したものですが、その正確性と完全性を保証するものではありません。当資料の内容について、将来見解を変更することもあります。当資料は情報提供が目的であり、投資信託の勧誘するものではありません。
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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

(2021年10月07日「研究員の眼」)

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