2021年09月24日

米FOMC(21年9月)-予想通り、現状の金融政策を据え置き。次回(11月)会合でのテーパリング開始を示唆

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:予想通り、政策金利、量的緩和政策を維持

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が9月21-22日(現地時間)に開催された。FRBは市場の予想通り、政策金利、量的緩和政策を維持した。今回発表された声明文では景気の現状判断部分で新型コロナの感染者数が拡大した影響に言及された一方、景気見通しに変更は無かった。また、金融政策ガイダンス部分の変更は無かったが、量的緩和政策のテーパリングについて早期に開始する可能性が示された。今回の金融政策方針は全会一致での決定となった。

FOMC参加者の経済見通し(SEP)は、前回(6月)から、21年の成長率や失業率が下方修正(失業率は上昇)された一方、インフレ率が上方修正された(後掲図表1)。

また、政策金利見通し(中央値)は、22年中に政策金利の引き上げ開始が示唆されたほか、23年と今回追加された24年でそれぞれ3回の追加利上げが示された。

2.金融政策の評価:11月テーパリング開始示唆、利上げペースの引上げなどタカ派的な内容

政策金利や量的緩和政策に変更がなかったことは予想通り。また、11月FOMC会合でのテーパリング開始が示唆されたことも予想通りであった。もっとも、FOMC参加者による政策金利の引き上げ開始予想が22年に前倒しとなったほか、前回より利上げ幅が上方修正されたのは予想外で、タカ派的な結果と言えよう。

FOMC会合後の記者会見でパウエル議長は、テーパリング開始の条件である「雇用の最大化と物価安定に向けた一段と顕著な進展」について、既にインフレは条件を達成したほか、雇用についても個人的な見解としてほとんど条件を満たしたとしており、来月に発表される9月の雇用統計で余程悪い数値にならない限り11月会合で決定してテーパリングを早期に開始する可能性が高くなった。また、テーパリング終了時期が22年半ばとなることも明確に示された。

一方、政策金利の引き上げについては、テーパリング開始より厳しい条件となっていることを強調し、テーパリング開始時点で政策金利引き上げ条件を達成するには程遠いとしたほか、テーパリング中の政策金利引き上げ開始については明確に否定した。22年の政策金利引き上げについては、FOMC参加者の中で政策金利据え置きと評価が拮抗している。このため、利上げ開始が既にコンセンサスとなっているとは言い難いものの、22年半ばでテーパリングを終了して22年中に政策金利の引き上げを開始する可能性が高くなったと言えよう。

当研究所は、今回の会合結果を受けて政策金利引き上げ開始時期を22年12月に変更する。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを0-0.25%に維持することを決定(変更なし)。
  • 昨年12月に委員会は、米国債の保有を少なくとも月800億ドル、エージェンシーの住宅ローン担保証券(MBS)の保有を月400億ドルそれぞれ増やし、その目標である雇用の最大化と物価安定に向けて一段と顕著な進展があるまでそれを継続することを示した(変更なし)
  • その後、経済はこれらの目標に向けて進んでおり、予想されたように広範な進展が続く場合には、資産購入ペースの緩和がまもなく必要になると委員会は判断する(前回の「委員会は今後の会合で引き続き進展を評価する」”the Committee will continue to assess progress in coming meetings”が削除され、「予想されたように広範な進展が続く場合には、資産購入ペースの緩和がまもなく必要になると委員会は判断する」”if progress continues broadly as expected, the Committee judges that moderation in the pace of asset purchases may soon be warranted”が追加された )
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • インフレ率がこの長期目標を持続的に下回っていることから、委員会は長期的にインフレ率が平均2%となり、長期的なインフレ期待が2%にしっかりと固定されるよう、当面2%をやや上回る水準のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • 委員会は、これらの結果が達成されるまで、緩和的な金融政策のスタンスを維持すると予想する(変更なし)
  • 委員会は、労働市場の状況が雇用の最大化との評価に一致し、インフレ率が2%に上昇して、しばらくの間2%をやや上回るとの見通しに沿うまで、この目標レンジを維持することが適切であると予想する(変更なし)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)
 
(景気判断)
  • ワクチン接種の進展と強力な政策支援により、経済活動と雇用指標は引き続き力強くなっている(変更なし)
  • パンデミックの影響を最も受けたセクターはここ数ヵ月で改善したが、新型コロナの感染者数の増加で回復ペースは鈍っている(前回の「改善がみられたが、完全には回復していない」”have shown improvement but have not fully recovered”から「ここ数ヵ月で改善した」”have improved in recent months”に上方修正された一方、「新型コロナの感染者数の増加で回復ペースは鈍っている」”but the rise in COVID-19 cases has slowed their recovery”が追加された)
  • インフレは主に一時的な要因を反映して上昇している(前回の「上昇した」”has risen”から「上昇している」”is elevated”に表現変更)
  • ここ数カ月で全般的な金融環境は、経済および、家計や企業への信用の流れを支えるための政策措置を一部反映して引き続き緩和的だ(変更なし)
 
(景気見通し)
  • 経済の行方は引き続き、ウイルスの行方に左右される(変更なし)
  • ワクチン接種の進展は公衆衛生危機の経済への影響を軽減し続ける可能性が高いが、経済見通しに対するリスクは残っている(変更なし)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 経済活動と雇用の指標は引き続き強まっている。
    • いくつかの産業では、短期的な供給制約が活動を抑制している。世界的な半導体不足により生産が大幅に減少している自動車産業ではとくに深刻である。
    • パンデミックに関連する要因、例えば介護の必要性やウイルスへの継続的な不安などが、雇用の伸びを圧迫しているようだ。これらの要因は、ウイルスの封じ込めが進むにつれて減少し、雇用の急速な増加につながるはずである
    • インフレ率は上昇しており、緩和されるまでの数カ月間はこの状態が続く可能性が高い。経済活動の再開が続けば、ボトルネック、雇用困難、その他の制約が予想以上に大きく長期化し、インフレのリスクを高める可能性がある。
    • 経済状況が委員会の指針に示された基準を満たした場合の資産購入漸減の適切なペースについても議論した。何の決定もなされなかったが、参加者は一般的に、回復が軌道に乗っている限り、来年半ば頃に終わる段階的な漸減プロセスが適切であると考えている。
 
  • 主な質疑応答
    • (テーパリング開始条件である一段と顕著な進展の認識)インフレについては達成した。私自身の見解では雇用についても条件はほとんど満たされていると思う。個人的には非常に強い9月の雇用統計をみる必要はないが、適切な雇用統計をみたい。
    • (政策金利引き上げの条件)政策金利引き上げの条件はテーパリングより厳しい。テーパリング開始時に利上げの条件を満たすには程遠い。労働市場には多くの緩みがある。インフレ率は条件達成に向けて順調に進んでいる。22年の間にインフレ率が高いままなら、利上げ条件を満たす可能性がある。
    • (テーパリング中に利上げを開始する可能性)そうなると考えていない。資産購入が続いている間は緩和を続ける状況となっている。この時に政策金利を引き上げるのには意味がない。インフレ上昇に対応する際には利上げではなく、テーパリングのスピードを上げる選択を行う。
    • (期待インフレについて)さまざまな指標の多くは、13年の水準に戻っていることを示しており、これは問題ではない。これまでインフレ期待が低下していたため、インフレ期待が少し回復したのは良いことだ。
    • (債務上限問題について)債務上限をタイムリーに引き上げることは非常に重要である。それが出来なければ、深刻な反応を引き起こし、経済や金融市場に深刻なダメージを与える可能性がある。

5.FOMC参加者の見通し

FOMC参加者(FRBメンバーと地区連銀総裁の18名 )の経済見通しは(図表1)の通り。前回(6月)見通しとの比較では、21年の成長率が+7.0%から+5.9%へ下方修正された一方、22年と23年が小幅に上方修正された。失業率は21年が4.5%から4.8%へ小幅に下方修正された。一方、コアPCE価格指数は21年が+3.0%から+3.7%へ上方修正されたほか、22年と23年も小幅に上方修正された。長期見通しに関する変更は無かった。
(図表1)FOMC参加者の経済見通し(9月会合)
(図表2)政策金利見通し(年末時点) 政策金利の見通し(中央値)は、22年が0.25%(前回:0.125%)と足元の0.125%からの上昇し、政策金利の引き上げ開始が示された(図表2)。23年も1.0%(前回:0.625%)と上方修正され、3回の追加利上げが示唆された。今回追加された24年も1.75%と3回の追加利上げが示唆された。長期見通しは2.5%で前回から変更がなかった。

一方、ドット・チャートは、22年の利上げ予想が18人中9人と前回の7人から増加し、丁度半分となった。また、23年までの利上げ予想は17人と大宗となった。このため、23年末までの利上げはコンセンサスとなっているものの、22年の利上げは参加者の間で見通しが拮抗しており、既に意見集約されているとは言い難い。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年09月24日「経済・金融フラッシュ」)

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