2021年08月30日

米個人所得・消費支出(21年7月)-児童税額控除や賃金・給与の増加で個人所得は前月比+1.1%と大幅に増加、市場予想も上回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

文字サイズ

1.結果の概要:個人所得が前月、市場予想を上回る一方、消費は前月、市場予想を下回る

8月27日、米商務省の経済分析局(BEA)は7月の個人所得・消費支出統計を公表した。個人所得(名目値)は前月比+1.1%(前月改定値:+0.2%)と+0.1%から小幅上方修正された前月、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の+0.3%を上回った(図表1)。個人消費支出は前月比+0.3%(前月改定値:+1.1%)と、こちらは+1.0から小幅上方修正された前月、市場予想の+0.4を下回った。また、価格変動の影響を除いた実質個人消費支出(前月比)は▲0.1%(前月:+0.5%)と前月からマイナスに転じた一方、市場予想(▲0.1%)に一致した(図表5)。貯蓄率1は9.6%(前月:8.8%)と、前月から+0.8%ポイント上昇した。

価格指数は、総合指数が前月比+0.4%(前月:+0.5%)と前月を下回った一方、市場予想(+0.4%)に一致した。変動の大きい食料品・エネルギーを除いたコア指数は前月比+0.3%(前月改定値:+0.5%)と+0.4%から小幅上方修正された前月を下回った一方、市場予想(+0.3%)に一致した(図表6)。前年同月比は総合指数が+4.2%(前月:+4.0%)と前月、市場予想(+4.1%)を上回った。コア指数は+3.6%(前月改定値:+3.6%)と+3.5%から小幅上方修正された前月、市場予想(+3.6%)に一致した(図表7)。
 
1 可処分所得に対する貯蓄(可処分所得-個人支出)の比率。

2.結果の評価:財消費の不振で個人消費が所得対比で鈍化、貯蓄率は上昇

(図表1)個人所得・消費支出、貯蓄率 個人所得は21年3月に成立した1.9兆ドル規模の経済対策(米国救済計画)に盛り込まれた児童税額控除の還付金で移転所得が増加したほか、好調な労働市場を背景に賃金・給与が増加した結果、前月比で21年3月(+21.0%)以来の伸びとなった(図表1)。

一方、個人消費はサービス消費が堅調を維持したものの、自動車関連の落ち込みもあって財消費が減少したことから、前月比で小幅な伸びに留まった。この結果、貯蓄率は4ヵ月ぶりに前月から上昇した。貯蓄率は新型コロナ流行前の7%台からは依然高止まりしており、消費余力を十分に有している。一方、7月はサービス消費が堅調となったものの、足元でデルタ株の感染拡大がみられており、感染対策として今後経済活動が再制限される場合にはサービス消費の回復に影響がでるため、今後の感染動向が注目される。

FRBが物価指標としているPCE価格指数(前年同月比)は、総合指数がFRBの物価目標(2%)を5ヵ月連続で上回ったほか、91年1月(+4.5%)以来の水準となった。また、物価の基調を示すコア指数は4ヵ月連続で物価目標を上回り、91年5月(+3.7%)以来の水準に上昇した。総合指数、コア指数ともに上昇スピードは鈍化しているものの、上昇に歯止めがかかる状況にはなっていない。

3.所得動向:児童税額控除、賃金・給与が増加

7月の個人所得(前月比)は、移転所得が+2.9%(前月:▲1.8%)と4ヵ月ぶりにプラスに転じた(図表2)。移転所得は金額ベースでは前月比年率+1,203億ドル(前月:▲758億ドル)となったが、このうち、米国救済計画に盛り込まれた児童税額控除の1回目の還付金が支払われた結果、6月から還付額が1,775億ドル増加したことが大きい。移転所得以外では、賃金・給与が+1.0%(前月:+0.9%)と20年11月(+1.2%)以来の水準となった。一方、利息配当収入が+0.3%(前月:+0.6%)と前月から伸びが鈍化したほか、自営業者所得が▲0.2%(前月:+0.8%)と20年12月(▲4.5%)以来、7カ月ぶりのマイナスとなった。

個人所得から税負担などを除いた可処分所得(前月比)は、7月の名目が+1.1%(前月:横這い)となったほか、価格変動の影響を除いた実質ベースが+0.7%(前月:▲0.5%)と、前月から大幅な伸びとなった(図表3)。
(図表2)名目個人所得(前月比寄与度)/(図表3)可処分所得(名目、実質)

4.消費動向:サービス消費は堅調も財消費は減少

7月の名目個人消費(前月比)は、財消費が▲1.1%(前月:+1.0%)と前月からマイナスに転じた一方、サービス消費は+1.0%(前月:+1.1%)とほぼ前月並みの堅調な伸びを維持した(図表4)。

財消費では、耐久財が▲2.3%(前月:▲0.4%)とマイナス幅を拡大して、3ヵ月連続でマイナスとなったほか、非耐久財も▲0.4%(前月:+1.9%)とマイナスに転じた。

耐久財では、娯楽財・スポーツカーが▲2.2%(前月:+0.2%)とマイナスに転じたほか、自動車・自動車部品が▲2.8%(前月:▲2.4%)と3ヵ月連続、家具・家電が▲1.6%(前月:▲0.2%)と4ヵ月連続でマイナスとなった。

非耐久財では、ガソリン・エネルギーが+2.8%(前月:+5.5%)とプラスを維持したものの、食料・飲料が▲0.5%(前月:+1.0%)、衣料・靴も▲1.8%(前月:+2.3%)と、いずれも前月からマイナスに転じた。

サービス消費は、輸送が+4.4%(前月:+4.8%)と好調を維持したものの、前月から伸びが鈍化したほか、娯楽が+1.5%(前月:+1.9%)、住宅・公共料金が+0.2%(前月+0.5%)と、こちらも前月から伸びが鈍化した。一方、金融サービスが+0.7%(前月:+0.7%)と前月並みの伸びを維持したほか、医療サービスが+0.5%(前月:+0.3%)、外食・宿泊が+2.8%(前月:+2.5%)と前月から伸びが加速するなど、マチマチとなった。
(図表4)名目個人消費(前月比寄与度)/(図表5)個人消費支出(名目、実質)

5.価格指数:前年同月比でエネルギーが物価を大幅に押上げ

価格指数(前月比)の内訳をみると、エネルギー価格指数が+1.7%(前月:+1.5%)と2ヵ月連続、食料品価格指数は+0.6%(前月:+0.8%)と6ヵ月連続プラスとなった(図表6)。前年同月比は、エネルギー価格指数が+23.6%(前月:+24.2%)と5ヵ月連続、食料品価格指数は+2.4%(前月:+0.9%)と49ヵ月連続のプラスとなって物価を押し上げた(図表7)。
(図表6)PCE価格指数(前月比)/(図表7)PCE価格指数(前年同月比)
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年08月30日「経済・金融フラッシュ」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【米個人所得・消費支出(21年7月)-児童税額控除や賃金・給与の増加で個人所得は前月比+1.1%と大幅に増加、市場予想も上回る】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

米個人所得・消費支出(21年7月)-児童税額控除や賃金・給与の増加で個人所得は前月比+1.1%と大幅に増加、市場予想も上回るのレポート Topへ