2021年08月10日

米雇用統計(21年7月)-雇用者数(前月比)は娯楽・宿泊業や地方政府の教育関連を中心に大幅増加、市場予想も上回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数、失業率ともに前月、市場予想を上回る改善

8月6日、米国労働省(BLS)は7月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+94.3万人の増加1(前月改定値:+93.8万人)と、+85.0万人から大幅に上方修正された前月を上回ったほか、市場予想の+87.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も上回った(後掲図表2参照)。

失業率は5.4%(前月:5.9%、市場予想:5.7%)と前月から▲0.4%ポイントの大幅な低下となり、市場予想を上回る低下幅となった(後継図表6参照)。労働参加率2は61.7%(前月:61.6%、市場予想:61.7%)と前月から+0.1%ポイント上昇、市場予想に一致した(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:事業所調査、家計調査ともに回復ペースの加速を示唆

7月の事業所調査は、非農業部門雇用者数が大幅に上方修正された前月と2ヵ月連続で前月比増加幅が90万人超と年初からの平均増加数(61.7万人)を大幅に上回っており、雇用回復ペースが加速していることを示した。もっとも、雇用者数は新型コロナ流行前(20年2月)を依然として570万人下回っており、新型コロナからの回復は道半ばである。

家計調査は、労働参加率が3ヵ月ぶりに増加に転じたほか、失業率の前月からの低下幅が20年10月(▲1.0%ポイント)以来となっており、こちらも回復が加速したことを示唆した。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が+0.4%(前月改定値:+0.4%、市場予想:+0.3%)と+0.3%から上方修正された前月に一致したほか、市場予想は上回った。前年同月比は+4.0%(前月改定値:+3.7%、市場予想:+3.9%)と、こちらは+3.6%から上方修正された前月、市場予想を上回った(図表1)。

このようにみると、7月は、事業所調査、家計調査ともに労働市場の回復ペースが加速していることを示す結果となった。これまで非常に強い労働需要に対して、新型コロナの感染懸念や手厚い失業保険給付が復職意慾を減退させて、労働供給の回復が鈍いことが指摘されてきた。多くの州で失業保険の追加給付等を取りやめている中で漸く労働供給の回復に弾みついた可能性がある。もっとも、足元で感染力の高いデルタ株の拡大に伴い米国の新規感染者数は再び大幅な増加に転じているため、感染拡大が労働供給にどのような影響を及ぼすのか、来月以降の雇用統計が注目される。

3.事業所調査の詳細:娯楽・宿泊業、地方政府の教育関連雇用が大幅に増加

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+65.9万人(前月:+72.4万人)と前月から伸びが鈍化した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、小売業が前月比▲0.6万人(前月:+7.3万人)と前月から小幅ながらマイナスに転じたほか、人材派遣業が+1.0万人(前月:+3.5万人)となったこともあって専門・ビジネスサービスが+6.0万人(前月:+7.5万人)と前月から伸びが鈍化した。一方、運輸・倉庫が+5.0万人(前月比:+2.0万人)、医療・社会扶助サービスも+4.7万人(前月:+0.7万人)と前月から伸びが加速した。さらに、娯楽・宿泊業が+38.0万人 (前月:+39.4万人)と前月から鈍化したものの、高い伸びを維持して全体を押し上げた。

財生産部門は前月比+4.4万人(前月:+4.5万人)と前月並みの伸びとなった。製造業が+2.7万人(前月:+3.9万人)と前月から伸びが鈍化した一方、建設業が+1.1万人(前月:▲0.5万人)と前月からプラスに転じるなどマチマチの結果となった。

政府部門は前月比+24.0万人(前月:+16.9万人)と前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が+1.8万人(前月:▲1.3万人)と前月からプラスに転じたほか、州・地方政府が+22.2万人(前月:+18.2万人)と前月から伸びが加速した。州・地方政府では地方政府の教育関係者の雇用が前月比+22.1万人(前月:+14.7万人)と前月から伸びが加速して全体を押し上げた。
前月(6月)と前々月(5月)の雇用増加数(改定値)は前月が+93.8万人(改定前:+85.0万人)と+8.8万人上方修正されたほか、前々月は+61.4万人(改定前:+58.3万人)とこちらも+3.1万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+11.9万人の上方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って8月4日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+33.0万人(前月改定値:+68.0万人、市場予想:+69.0万人)と+69.2万人から下方修正された前月を下回ったほか、市場予想も下回った。この結果、ADP統計は前月から雇用の伸びが大幅に鈍化しており、伸びが小幅ながら加速した雇用統計とは不整合な動きとなった。

7月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が30.54ドル(前月:30.43ドル)となり、前月から+11セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.8時間(前月:34.8時間)と前月から横這いとなった。この結果、週当たり賃金は1,062.79ドル(前月:1,058.96ドル)と前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:就業者数の増加に伴い労働参加率は3ヵ月ぶりに上昇

家計調査のうち、7月の労働力人口は前月対比で+26.1万人(前月:+15.1万人)と前月から大幅に伸びが加速した。内訳を見ると、失業者数が▲78.2万人(前月:+16.8万人)と前月から大幅なマイナスに転じたものの、就業者数が+104.3万人(前月:▲1.8万人)と失業者数の減少幅を上回る増加幅となり、労働力人口を押し上げた。一方、非労働力人口は▲13.0万人(前月:▲2.2万人)と2ヵ月連続でマイナスとなったほか、マイナス幅が拡大した。

これらの結果、労働参加率は61.7%と3ヵ月ぶりに上昇した(図表5)。一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は7月が81.8%(前月:81.7%)とこちらも前月から+0.1%ポイント上昇した。男女の内訳は、男性が88.3%(前月:88.1%)と前月から+0.2%ポイント、女性が75.5%(前月:75.4%)と+0.1%ポイント上昇した。

7月の失業率は前月から▲0.4%ポイントの大幅な低下となった(図表6)。7月は労働参加率の上昇に加え、非労働力人口も大幅に減少しており、職探しを再開して労働市場に再参入する人が大幅に増加する中で労働需給がタイトになっていることを示した。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
7月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は342.5万人(前月:398.5万人)と前月から▲56.0万人減少した。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも39.3%(前月:42.1%)と前月から▲2.8%ポイント低下した(図表7)。一方、平均失業期間は29.5週(前月:31.6週)とこちらも前月から▲2.1週短期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(187.2万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(448.3万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、7月が9.2%(前月:9.8%)と前月から▲0.6%ポイント低下した(図表8)。また、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.8%ポイント(前月:+3.9%ポイント)と前月から▲0.1%ポイント縮小した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年08月10日「経済・金融フラッシュ」)

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