2021年09月06日

米雇用統計(21年8月)-雇用者数(前月比)は+23.5万人。新型コロナの感染再拡大の影響で娯楽・宿泊業が急減速

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は市場予想を大幅に下回る一方、失業率は市場予想に一致

9月3日、米国労働省(BLS)は8月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+23.5万人の増加1(前月改定値:+105.3万人)と、+94.3万人から上方修正された前月を下回ったほか、市場予想の+73.3万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も大幅に下回った(後掲図表2参照)。

失業率は5.2%(前月:5.4%、市場予想:5.2%)と前月から▲0.2%ポイント低下し、市場予想に一致した(後継図表6参照)。労働参加率2は61.7%(前月:61.7%、市場予想:61.8%)と前月に一致、改善を見込んだ市場予想を下回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:娯楽・宿泊業の雇用が急減速、新型コロナ感染再拡大の影響が顕在化

8月の非農業部門雇用者数は、過去2ヵ月に前月比90万人超と高い伸びとなった状況から一変、年初からの平均増加数(58.6万人)を大幅に下回るなど、雇用増加ペースに予想外の急ブレーキが掛かった。とくに、これまで雇用増加を牽引していた娯楽・宿泊業では7月の+41.5万人の増加から8月は横這いとなっており、足元の新型コロナ感染再拡大が対面型サービスの雇用に影響した可能性が高いとみられる。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 一方、失業率は前月の▲0.5%ポイントから低下幅は縮小したものの、2ヵ月連続の低下となった。もっとも、労働参加率は前月から横這いと改善はみられておらず、労働供給の回復は鈍い。

時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が+0.6%(前月:+0.4%、市場予想:+0.3%)と前月、市場予想を上回った。前年同月比は+4.3%(前月改定値:+4.1%、市場予想:+3.9%)と、こちらも+4.0%から小幅上方修正された前月、市場予想を上回った(図表1)。このため、賃金には引き続き上昇圧力が掛かっていることを示した。

このようにみると、8月は賃金などでは上昇がみられた一方、新型コロナ感染再拡大の影響から対面型サービスを中心に雇用回復ペースが急減速する結果となった。求人数が史上最高水準に増加し、失業者数を上回るなど、非常に強い労働需要に対して、新型コロナの感染懸念や手厚い失業保険給付が復職意慾を減退させて、労働供給の回復が鈍いことが指摘されてきた。失業保険の追加給付期限が9月6日に切れることもあって労働供給の回復が見込まれるものの、デルタ株の感染拡大に伴う労働供給の回復への影響が懸念される。一方、8月の雇用統計が強い結果であった場合には、FRBが早ければ9月のFOMC会合でテーパリングを決定するとの見方もあったが、今回の結果により、その可能性は大幅に低下したと言えよう。

3.事業所調査の詳細:娯楽・宿泊業雇用が急減速

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+20.3万人(前月:+73.4万人)と前月から伸びが大幅に鈍化した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、娯楽・宿泊業が前月比横這い(前月:+41.5万人)と前月から伸びが急減した。また、医療・社会扶助サービスが▲0.5万人(前月:+4.4万人)と前月からマイナスに転じたほか、小売業が▲2.9万人(前月:▲0.8万人)とマイナス幅が拡大した。一方、専門・ビジネスサービスが+7.4万人(前月:+7.9万人)、運輸・倉庫が+5.3万人(前月比:+5.5万人)と伸びは鈍化したものの、小幅に留まった。

財生産部門は前月比+4.0万人(前月:+6.4万人)と前月から伸びが鈍化した。製造業が+3.7万人(前月:+5.2万人)と伸びが鈍化したほか、建設業が▲0.3万人(前月:+0.6万人)とマイナスに転じた。

政府部門は前月比▲0.8万人(前月:+25.5万人)と大幅な伸びとなった前月から一転、マイナスに転じた。内訳をみると、連邦政府が+0.3万人(前月:+0.9万人)と伸びは鈍化したもののプラスを維持した一方、州・地方政府が▲1.1万人(前月:+24.6万人)とマイナスに転じて全体を押し下げた。
前月(7月)と前々月(6月)の雇用増加数(改定値)は前月が+105.3万人(改定前:+94.3万人)と+11.0万人上方修正されたほか、前々月は+96.2万人(改定前:+93.8万人)と+2.4万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+13.4万人の大幅な上方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って9月1日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+37.4万人(前月改定値:+32.6万人、市場予想:+62.5万人)と+33.0万人から小幅下方修正された前月を上回った一方、市場予想は下回った。この結果、ADP統計は小幅ながら前月から伸びが加速しており、大幅に伸びが鈍化した雇用統計とは不整合な動きとなった。

8月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が30.73ドル(前月:30.56ドル)となり、前月から+17セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.7時間(前月:34.7時間)と前月から横這いとなった。この結果、週当たり賃金は1,066.33ドル(前月:1,060.43ドル)と前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働力人口の増加は小幅に留まり、労働参加率は前月から横這い

家計調査のうち、8月の労働力人口は前月対比で+19.0万人(前月:+26.1万人)と3ヵ月連続の増加となったものの、伸びは鈍化した。内訳を見ると、就業者数が+50.9万人(前月:+104.3万人)と失業者数の▲31.8万人(前月:▲78.2万人)の減少幅を上回る増加幅となって労働力人口を押し上げた。一方、非労働力人口は▲4.9万人(前月:▲13.0万人)と前月からマイナス幅は縮小したものの、3ヵ月連続の減少となり、労働市場再参入の動きが継続していることを示した。

労働力人口の増加が小幅に留まった結果、小数第一位までの労働参加率は横這いとなった(図表5)。一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は8月が81.8%(前月:81.8%)と前月から横這いとなった。男女の内訳は、男性が88.4%(前月:88.3%)と前月から+0.1%ポイント上昇した一方、女性が75.4%(前月:75.5%)と▲0.1%ポイント低下した。

8月の失業率は前月から2ヵ月連続の低下となったものの、5.2%と依然として新型コロナ流行前(21年2月)の3.5%を大幅に上回る水準に留まっており、FRBが目指す雇用の最大化の実現には程遠い(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
8月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は317.9万人(前月:342.5万人)と前月から▲24.6万人減少した。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも37.4%(前月:39.3%)と前月から▲1.9%ポイント低下した(図表7)。一方、平均失業期間は29.6週(前月:29.5週)とこちらも前月から+0.1週長期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(157.7万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(446.9万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、8月が8.8%(前月:9.2%)と前月から▲0.4%ポイント低下した(図表8)。また、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.6%ポイント(前月:+3.8%ポイント)と前月から▲0.2%ポイント縮小した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年09月06日「経済・金融フラッシュ」)

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