コラム
2021年08月16日

2021年上半期・転入超過都道府県ランキング/神奈川県が社会純増トップエリアへ―新型コロナ人口動態解説(9)

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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【はじめに】2020年に引き続き、東京一極集中から首都圏一極集中へ

新型コロナ人口動態解説シリーズ(9)では、新型コロナ禍2年目となる2021年上半期の人口移動による47都道府県の人口純増減の現状を解説したい。
 
当シリーズにおいて、コロナ禍1年目となる2020年において、1996年から続いてきた人口移動による東京一極集中が首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)集中へと変化しつつあることを解説してきた。この流れは2021年においても変わらず、そしてその中から、東京都に代わり新たな全国トップの人口集中エリアが登場することとなった。

ついに男女合計で神奈川県が1位に

新型コロナ人口動態解説シリーズ(8)では、1月から4月までにおける4か月間での状況をレポートしたが、その時点では男女合計、女性で東京都が1位、男性で神奈川県が1位であった。しかし、上半期においては1236人の僅差ではあるものの、男女合計順位で神奈川県が1位(2万6815人の増加)、東京都が2位(2万5579人の増加)となった(図表1)。
 
上半期男女合計で転出超過となった40道府県から減少した9万847人のうち、東京都とその隣接エリア1都3県(神奈川県、埼玉県、千葉県)で90%(8万1800人)を吸収する形となり、前回レポートした1月~4月も90%であったので、1都3県の人口吸引力は引き続き強固であったことが確認できる。
【図表1】2021年上半期 転入超過数 都道府県ランキング(男女合計、人)
神奈川県(2万6815人超過)と比較すると、大阪府は19.8%の人口吸引力、福岡県は12.2%の人口吸引力となっており、改めて東京都を囲むエリアである首都圏としての人口吸引力の強さがうかがえる。
 
コロナ禍を機に、打倒東京、といったキャッチフレーズが浮かんだ自治体もあったかもしれないが、東京都は神奈川県、埼玉県、千葉県といった、県を超えて通勤可能もしくはテレワークと併用しながら通勤することが可能な隣接エリアとともに、広域での東京エリアを形成している。従って、東京エリアが広域でカバーしあう労働市場を持つ大都市であることを念頭に置きつつ、対策を考える必要があるだろう。

女性に強い東京都の姿は不変

コロナ禍2年目の上半期において、ついに神奈川県が転入超過総数および男性の転入超過数において東京都を超えることとなったが、やはり女性の転入超過数については東京都が首位の座をキープした(図表2)。

転入超過の男女比をみても、東京都を取り囲む神奈川県、埼玉県、千葉県では、ほぼ男女同数のバランスで移動による人口増加が発生していることがみてとれるが、東京都だけは男性の1.7倍もの女性を増加させている。これまで同様、東京都が今の20代女性、特に東京都の増加人口の大多数を占める20代前半女性1に多くの労働市場を提供している様子が垣間見える。
【図表2】2021年上半期転入超過数 男女別都道府県ランキング(人)
東京都が女性を惹きつける強い理由の一つとして、2015年に成立した女性活躍推進法の影響が考えられる。同法では、まずは従業員301人以上の事業主に対して、女性の活躍状況の把握や課題分析、数値目標の設定、行動計画の策定・公表などを求めた。また2019年には義務の対象を101人以上の事業主に拡大する法改正が行われた(施行は2022年4月1日)。
 
従業員が301人以上の大企業が数の上でも雇用者数でも最も多いのは東京都であり2、全国の大企業の就業者総数と常用雇用者数の実に53%を占めている。つまり、女性活躍推進法によって、東京都所在の企業では女性活躍状況が外部から「見える化」され、そして女性活躍推進が浸透することとなったのである。就職活動をする女学生にとっては、東京都は就業に関する不安を取り除く情報が開示され、透明性の高いエリアとしてうつる可能性が高まった。

実際、東京一極集中の男女差は2015年以降さらに拡大し、コロナ禍がこの男女差を一層拡大している。

現時点でも100人以下の事業主にとって女性活躍推進法は未だ努力義務に過ぎず、こういった観点から考えても、より女性活躍の「見える化」を地方の雇用主が推進していかない限り、東京都への就職を機とする女性人口の集中は止めることができないであろう。
 
1 毎年3月に最も大きな人口移動が起こるが、2021年3月の東京都の転入超過数を女性人口年齢ゾーン別にみてみると、多い順に20~24歳1万4550人、15~19歳3184人、25~29歳1191人となっており、大卒就職による移動とみられる増加が圧倒的であることがわかる。
2 中小企業庁ホームページ公開の2016年調査資料より再計算

(2021年08月16日「研究員の眼」)

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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】内閣府特命担当大臣主宰「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」構成員(2024年度)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は年度最新順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【高知県】高知県「元気な未来創造戦略推進委員会 委員」(2024年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年度)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年度)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【愛媛県法人会連合会】えひめ結婚支援センターアドバイザー委員(2016年度~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

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