コラム
2021年06月07日

2020年 20代前半女性転出超過ランキング/人口移動の「主役」はどう動いたか―新型コロナ人口動態解説(7)

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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【はじめに】過疎と過密の立役者は20代前半女性の移動

新型コロナ人口動態解説シリーズにて繰り返しお伝えしてきたが、今や日本の都道府県間人口移動における主役は、統計上「20代前半女性」である。
 
新型コロナ禍の前の2019年までにおいて、東京一極集中の状況をみると、1995年に東京都は女性の転入超過となり、遅れて翌1996年、男性が転入超過に転じる。2008年までは男女ともほぼ同数で東京都への転入超過が続いたが、2009年以降、女性が男性を超えて転入超過するようになった。

地方創生関連2法が可決された翌年、2015年からは女性が男性を上回る倍率がさらに拡大(女性/男性1.4倍程度)していた(図表1)。
 
新型コロナ禍の2020年においては転入超過総数では対前年4割を切る水準(+31,125人)とはなったものの(それでも全国1位の数万単位の転入超過数であることは変わらず、東京一極集中は終焉していないことに注意)、女性(+21,493人)と男性(+9,632人)の転入超過数の差は2019年の1.4倍から2.2倍へと急拡大した。日本における東京都の女性偏在傾向がより鮮明となった。
 
この半世紀において、最も居住エリアからの「出控え」がおこった年であるからこそ、それでも動いた人口は平時に比べて「より強い意志で」動いたと推量される。

不要不急ではない人口の動きとみられる新型コロナ禍という状況においての人口移動が、男性に比べて女性において強く起こったことは看過してはならないポイントである。

コロナ禍での移動結果は、若い女性の移動が「東京都には遊興施設が多いから」といった今まで度々指摘されてきたようなエンターテイメント理由メインで発生しているものでは決してないことを明らかにしたといってよいだろう。
 
人口移動のメインとなる年齢ゾーンについても新型コロナ人口動態解説(6)などで解説しているが、大卒・院卒の新卒就職タイミングである20代前半人口が東京一極集中(2020年においては1都3県人口集中)のメインであり、男女とも集中人口の7割を占めている。
【図表1】東京都への男女別転入超過状況の推移(1986年~2019年、人)
20代前半人口、特に男性を大きく上回る20代前半の女性人口の過疎と過密緩和こそが地方創生のメインターゲットであるべき、という筆者の見解に基づいて、今回は最も出控えが生じた時期でさえも生じた移動の結果として、2020年における47都道府県の20代前半女性人口の転入超過数をランキング形式でご紹介してみたい。

20代前半女性人口の6割を東京都が吸収、1都3県で8割超

最初に新型コロナ禍の2020年において、20代女性前半人口が転入超過した7エリアについて多い順にみてみたい(図表2)。東京都だけで転入超過した7エリアにおける転入超過総数の58%を占め、これに隣接エリアである神奈川県、埼玉県、千葉県を加えると84%にも達する。まさに東京都は大卒・院卒など新卒女性の就職のメッカである事実とともに、若い女性にとっての「労働市場」がいかに東京都に偏在しているかを示している。20代前半において男性の1.2倍の女性が転入超過していることから、特に「若い社会人女性の居場所」が日本において東京都に偏在していることが明確に示されている。
【図表2】2020年 20代前半女性「転入超過エリア」ランキング(人/%)

転出超過数2000人超えは茨城県、新潟県、兵庫県、福島県

次に同年において、20代女性前半人口が転出超過で減少となった残る40エリアについて減少数が多い順にみてみたい(図表3)。

47都道府県のうち、40にものぼるエリアで就職移動とみられる若い女性の減少が起こっていることについて、あらためて若い女性を受け入れる(若い女性に好まれる)労働市場の偏在を感じざるを得ない。単純に100%を転出超過した40エリアで割ると平均は2.5%となるが、その平均値以上に減少させたエリアは20代前半女性減少40エリアの中でも、より女性に選ばれなかったエリアともいえる。同数値が5%となったのは茨城県、新潟県、兵庫県の3エリアである。茨城県と新潟県は東京都に比較的近く、例年も東京都への女性の流出が大きいエリアであるが、兵庫県からは主に大阪府に流出している1
 
次いで4%となったエリアは福島県、静岡県、岐阜県、北海道、長野県、である。福島県は東日本大震災以降、女性の大量流出が続いているエリアである。また、北海道に比べて人口の少ない中部エリアからの流出が目立っている。中部エリアも東京都からは比較的近い立地にあるが、それが20代前半人口という就職のための移動がメインとなる年齢ゾーンにおいては、東京都への移動が大きくなる方向に作用していることが示されている。
【図表3】2020年 20代前半女性「転出超過エリア」ランキング(人/%)
20代前半の若い女性は国勢調査結果からその9割以上が未婚者である。

地元から将来の母親候補を失うだけでなく、それを同年代の男性数以上に失うことは、地元の男性の未婚化を加速化させる。

50歳時点での結婚歴なし割合が4人に1人に達している日本の男性の未婚化(女性は7人に1人。同世代人口の人口数男女差はほぼない)。
 
ふるさとのSDGsを考える原点ともなるべき「将来人口を見据えたバランスのとれた人口確保」の視点をニッポンの地方創生はこれまで見落としてきたのではないだろうか。
 
1 ちなみに兵庫県から転入(転入超過数ではない)した20代前半女性人口は大阪府(4026人)が最も多く、次いで東京都(1787人)、神奈川県(633人)となっている。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2021年06月07日「研究員の眼」)

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